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2014年3月21日金曜日

書評『高度成長 ー 日本を変えた6000日』(吉川洋、中公文庫、2012 初版単行本 1997)ー 1960年代の「高度成長」を境に日本は根底から変化した


いまから30年ほど前の1985年前後、その頃はバブル前夜の時期であったが、「戦前」と「戦後」で時代を区分する発想法が圧倒的に支配的であった。いわゆる「断絶史観」である。

もちろん2014年現在でもそのその発想法の残滓(ざんし)がいたるところに残っており、日本は無謀な戦争に突入してクラッシュしたが戦後は「再生」し「新生」したといういい方がされることはまだまだ多い。

わたし自身もそのようなことを思ったり、発言したりすることがなくもないが、とはいえ、それはどうも違うのではないかという意識はかなり以前からつよくもっている。

「先の大戦」によって日本近現代史は断絶しているのではなく、明治維新以降の歴史が一貫してつづいている見るべきだという考えは、スパンをひじょうに長くとれば当然だと理解されることだろう。

応仁の乱以降の「500年単位の歴史」のなかでも明治維新以降の最後の百数十年は、西欧をモデルに日本が近代化の道をまっしぐらに走った時代であると捉えるのがただしいのである。その途中で大きくつまづいて大怪我をしたが、すぐに立ちあがって走りつづけたのである。

大東亜戦争の敗戦は壊滅的な破壊をもたらしたが、それでも明治維新体制の官僚制は強固に生き延びたのである。占領軍が官僚制の解体には手をつけなかったというより、むしろ積極的に利用して効率的に占領政策を推進したというのが真相だ。

またビジネスパーソンの立場から経済史や経営史をみていると、どうも「高度成長」期が大きな分かれ目になったのではないか、ということに気がつくことになる。


1960年代の「高度成長」を境に日本は根底から変化した

この思いを決定的にしてくれたのがケインズ派の経済学者・吉川洋氏による本書『高度成長-日本を変えた2000日-』(読売新聞社、1997)であった。シリーズ「20世紀の日本」の一冊として出版された。

1950年代中頃から日本が経験した「高度成長」について、著者自身の実体験を紹介しながら、社会変動まで視野におさめてて本質に迫った良書である。文庫化されたのも当然だ。



日本独特の流通制度や農業など、江戸時代中期以降に確立したさまざまな構造や制度は「敗戦」を乗り越えて生き延びたにもかかわらず、「高度成長」期を境に大規模に変化がはじまり、その多くが解体していったのである。

「高度成長」とは、それほど大きな変化だったのである。明治維新後でも敗戦後でもなく、「高度成長期」に劇的に変化したことは、もうそろそろ「常識」となってもいいのではないかと思う。

鉄道の変化からみても、1964年を前後にした断絶のほうが、「戦前」と「戦後」の断絶よりもはるかに大きかった。

「弾丸列車」の異名をとった新幹線は、いまからちょうど50年前の1964年の東京オリンピック前に開業したのだが、新幹線の開業によって東京-新大阪間が3時間超で結ばれ、人の移動が大規模になった単行本の帯にあるように、高度成長期にはまさに経済「特急列車」が突っ走ったのである。

「高度成長」期には、その当時は「三種の神器」といわれていた白物家電の洗濯機・冷蔵庫・テレビが普及し、栄養状況が好転して平均寿命は10年も伸び、3人に2人がサラリーマンという勤め人になった。そういう時代に満員電車という社会現象が出現したのだ。

ダイエーの中内功氏による「流通革命」はまさに「革命」であった。江戸時代中期に完成した流通制度は高度成長時代に変容したのである。このほか、「高度成長」時代は企業家が主導してさまざまな「革命」が行われた時代でもある。「革命」の担い手は左翼でも右翼でもなく起業家になったのだ。

「高度成長」期を支配したのは自己肯定感に満ちた「経済ナショナリズム」であった。左翼でも右翼でもない中道保守路線への鮮やかな転換。「所得倍増」という卓抜なスローガンを国民の多くが支持したからこそ、日本の復興は実現したのである。

江戸時代以来の「前近代」(=初期近代)は完全に払拭され、「近代」が完成したのが1960年代の「高度成長」期だったのだ。だから、1973年の石油ショックで「高度成長」が終わったとき、日本においては「近代」は終わったと考えるべきだろう。


「高度成長の」代償

だが一方では、「高度成長」という「近代の完成」の代償として失ったものは多い。

いわゆる『Always 三丁目の夕日』の世界がノスタルジーの対象として回顧されるが、実際はあんなキレイごとの世界だけだったわけではない。イタイイタイ病や水俣病、複合汚染など公害病に苦しむ国民が多数発生したことにも目を向けなくてはならないのだ。経済成長を下支えした科学技術の暴走による負の側面が目立ち始めてきたのである。

この当時を多少なりとも知っているわたしには、いま中国で発生しているさまざまな事象に既視感を感じてしまう。わたし自身も光化学スモッグによる公害の被害者である。あの頃は、ほんとうにひどかった。

「3-11」以後の現在、原発にかわる発電用燃料輸入の増加と安倍政権の円安政策があいまって、高度成長の最大の果実であった貿易黒字が急速な勢いで減少しつつある。

インターネットもそうだが、普及後のアフターの世界にどっぷりつかっていると、ビフォアの世界がどうだったかについてイマジネーションが働かなくなる。貿易黒字体制は「高度成長」以後の話であり、それ以前の日本は慢性的に「持たざる国」状態が続いていたことを想起しなくてはならない。

その意味でも新幹線開業と東京オリンピックから半世紀たったいま、「高度成長」とは日本史においていかなる意味をもっているのかを知ることはきわめて重要だ。本書はそのために推奨したいイチオシの良書である。




目 次
はじめに
第1章 今や昔-高度成長直前の日本
第2章 テレビがきた!
第3章 技術革新と企業経営
第4章 民族大移動
第5章 高度成長のメカニズム
第6章 右と左
第7章 成長の光と影-寿命と公害
おわりに 経済成長とは何だろうか
あとがき
文献案内
関連年表

著者プロフィール
吉川洋(よしかわ・ひろし)1951年、東京都に生まれる。専攻はマクロ経済学。東京大学経済学部卒業後、イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D)。ニューヨーク州立大学助教授、大阪大学社会経済研究所助教授、東京大学助教授を経て東京大学大学院教授。著書に、『マクロ経済学研究』(東京大学出版会、日本経済図書文化賞、サントリー学芸賞)、『日本経済とマクロ経済学』(東洋経済新報社、エコノミスト賞)、『転換期の日本経済』(岩波書店、読売吉野作造賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


PS 「高度成長の時代へ」(国立公文書館 平成26年春の特別展)が開催されます。(2014年4月11日 記す)

<概要>
サンフランシスコ平和条約の調印により主権を回復し、その後劇的な経済成長を遂げた日本。春の特別展では、1951(昭和26)年のサンフランシスコ平和条約の調印にはじまり、1972(昭和47)年の沖縄本土復帰に至る日本のあゆみをたどります。当時作成された文書からは、所得倍増計画、国土開発、新幹線、東京オリンピック、大阪万博・・・等、豊かさを求めて進んでいった「あの時代」が甦ります。⇒ http://www.archives.go.jp/exhibition/

会期: 平成26年(2014年)4月19日(土)~5月11日(日)
開館時間: 月~水、土・日曜日 午前9時45分~午後5時30分
       木・金曜日 午前9時45分~午後8時
※入館は、それぞれ閉館30分前まで(特別展は、期間中無休)
会場: 国立公文書館 本館 入場料 無料

<主な展示>
長期経済計画資料: 「国民所得倍増計画」など1960年代に経済企画庁が作成した長期経済計画資料。
荻窪住宅計画図(1958年): 東京都杉並区荻窪に日本住宅公団によって建設された荻窪団地の計画図面。
佐藤榮作日記: 佐藤榮作元内閣総理大臣の直筆日記。1952~1975年まで、全40冊。沖縄返還記念式典(1972年5月15日)の記述。




<ブログ内関連記事>

■「高度成長」のポジティブな側面

書評 『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方-』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)
・・「ジャパン・ミラクル」(=日本の奇跡)というケーススタディから本書が始まるのは、現在に生きる日本人ビジネスパーソンにとっては実に新鮮に写る・・(中略)・・高度成長は空前絶後であり、これほど国情と国家戦略がフィットして機能した例は他にないからだ。 この「日本モデル」とその応用発展系である「シンガポール・モデル」を押さえて進める議論は、すんなりとアタマに入りやすい」

沢木耕太郎の傑作ノンフィクション 『テロルの決算』 と 『危機の宰相』 で「1960年」という転換点を読む

書評 『「鉄学」概論-車窓から眺める日本近現代史-』(原 武史、新潮文庫、2011)-「高度成長期」の 1960年代前後に大きな断絶が生じた

書評 『「夢の超特急」、走る!-新幹線を作った男たち-』(碇 義朗、文春文庫、2007 単行本初版 1993)-新幹線開発という巨大プロジェクトの全体像を人物中心に描いた傑作ノンフィクション

「東京オリンピック」(2020年)が、56年前の「東京オリンピック」(1964年)と根本的に異なること

書評 『「ビジネス書と日本人』(川上恒雄、PHP研究所、2012)-高度成長期の日本で一大ジャンルに成長した「ビジネス書」とは何か?


「高度成長」のネガティブな側面

書評 『梅棹忠夫の「人類の未来」-暗黒の彼方の光明-』(梅棹忠夫、小長谷有紀=編、勉誠出版、2012)-ETV特集を見た方も見逃した方もぜひ
・・1970年の大阪万博を推進した梅棹忠夫がついに書けなかった『人類の未来』という本

書評 『原発と権力-戦後から辿る支配者の系譜-』(山岡淳一郎、ちくま新書、2011)-「敗戦国日本」の政治経済史が手に取るように見えてくる

書評 『近代の呪い』(渡辺京二、平凡社新書、2013)-「近代」をそれがもたらしたコスト(代償)とベネフィット(便益)の両面から考える

書評 『苦海浄土-わが水俣病-』(石牟礼道子、講談社文庫(改稿版)、1972、初版単行本 1968)

書評 『複合汚染』(有吉佐和子、新潮文庫、1979、初版1975年)


「近代」は終わった-「500年単位」の歴史で考える

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む

書評 『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2008)-12世紀からはじまった資本主義の歴史は終わるのか? 歴史を踏まえ未来から洞察する

(2015年3月25日、7月7日 情報追加)



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