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2014年8月9日土曜日

書評 『謎のチェス指し人形「ターク」』(トム・スタンデージ、NTT出版、2011)-18世紀後半のオートマトンにコンピュータとロボットの原型をさぐる「知の考古学」


17世紀以降、日本だけでなく西欧でも娯楽目的の「からくり人形」が流行した。いわゆる「西洋からくり人形」であるが、正確にはオートマトンという。自動人形または自動機械のことである。流行は日本でも西欧でも19世紀半ばまで続いた

機構そのものにプログラムを内蔵させたオートマトンは、完全に自動化されているものも、手動式にものもあったが、機械言語によって動く現在のコンピュータとロボットの前身と位置づけられている。

オートマトンの歴史のなかで18世紀の終わりに登場したのが、本書の主人公、謎のチェス指し人形「ターク」である。ターク(Turk)といはトルコ人のことだ。

啓蒙専制君主であった女帝マリア・テレジア統治下ののハプスブルク帝国で、上級官吏であったヴォルフガング・フォン・ケンペレンが1770年に「発明」したのであった。当時のハプスブルク帝国では、隣接するオスマントルコ帝国の風俗が流行していたらしい。

「ターク」は第一級のチェスプレイヤーとして数々の名人を打ち負かし、ナポレオンと対戦し、ロシアの女帝エカチェリーナなど当時のセレブたちをを驚かせたらしい。同時代に生きたフランクリンやゲーテも記録に残しているくらいだ。

本書は、英国のテクノロジーライターで作家が、「ターク」誕生以来の歴史をノンフィクションとしてたどり、「ターク」が引き起こしたセンセーションと、「ターク」の謎を解こうと挑戦した人々、「ターク」の存在に刺激を受けて自動機械やコンピュータの原型を開発したエンジニアたちを描いた技術史をベースにした「知の考古学」である。ポピュラーサイエンスものだが、推理小説のような知的エンターテインメントといっていいだろう。

原著は、The Life and Times of The Famous Eighteenth-Century Chess-Palying Machine, by Tom Standage, 2002 である。直訳すれば、『かの有名な18世紀のチェス指しマシンの生涯とその時代』で、2002年の出版である。どうも21世紀に入ってからの数年に、この手の作品が多いことに気がつく。


調べればどこにでも書いてあることだからネタバレにはならないと思うが、「ターク」は実際のところ、自動機械ではなかったのである。よくいって半自動機械であったというべきだろう。機械は機械であったが、人間がオペレートしていたのである。もちろん「ターク」じたいには、チェスを指す知能は備えていなかった。

原著のカバーには、ロボットアームのような「ターク」のアームが駒を握っているイラストが描かれている。21世紀の現在も、宇宙船でのロボットアームをつかった各種の作業も宇宙船内で乗員がオペレートしているものであることを考えれば、それじたい非難(?)すべきものとは思われない。

「ターク」が出現した18世紀の終わりから19世紀にかけての時期は、ちょうど英国で「産業革命」(Industrial Revolution)が起こった時期にあたる。

大陸ではもっぱら娯楽用であったオートマトンだが、英国では「ターク」の存在が刺激となって自動機械の開発がさかんに行われるようになったらしい。牧師のカートライトの自動織機の発明もその一つである。娯楽用機械の存在が、実用目的の自動機械の開発意欲を誘発したわけである。 

おなじく同時代の英国の数学者バベッジもまた「ターク」の存在に刺激を受け、機械式汎用コンピュータの原型「階差機関」を構想している。機械装置で論理的な推論と演算ができると考えたのであったが、バベッジのコンピュータは彼が生きているうちに実現はしなかった。バベッジは「コンピュータの父」とされている。

「ターク」の生涯は、娯楽用オートマトンの流行が終わった19世紀半ばにはいったん終えることになるが、20世紀になってから人工知能研究の進展によってふたたび「ターク」は想起されることになる。IBMが開発したディープ・ブルーとチェスの世界チャンピオンとの対戦である。まさに「ターク」の再現であったというべきだろう。日本でもコンピュータ将棋の開発はつづいている。

だが、著者もいうように、ディープ・ブルーにおいてすら完全に自動機械が実現したのではないといっていいのかもしれない。なぜなら、人工知能といえどもコンピューターの背後にはプログラムする人間がいるからだ。オペレーターは完全自動化可能でも、プログラムそのものを完全に自動化することははたして可能なのかどうか。

人工知能による完全自動機械というエンジニアの「夢」は、いまだに実現することはない「夢想」にとどまっているが、もしそれが実現したあかつきには、人間は完全に不要になってしまうかもしれない。その日は遠い将来ではないと主張する人もいるが、特化した機能では人間の知能を凌駕するコンピュータやロボットが実現しても、人間の総合的な知能を凌駕するのはそう簡単な事ではないような気もする。

公式の技術史には登場しないが、間接的にきわめて多くの刺激を与えてきた「ターク」というチェス指し人形の存在。娯楽機器が実用開発を刺激するという点においては、18世紀も21世紀も変わらないようだ。

コンピュータやロボット開発の動機を考えるうえで、オートマトンの歴史を知っておくと意味があるといっていいだろう。その意味では「ターク」の存在はじつに興味深い。

英国の良質なポピュラーサイエンスものとしておすすめの一冊である。





目 次

まえがき
第1章 クイーンズ・ギャンビット
第2章 タークのオープニングの動き
第3章 最も魅惑的な仕掛け
第4章 独創的な装置と見えない力
第5章 言葉と理性の夢
第6章 想像力の冒険
第7章 皇帝と王子
第8章 知性の領域
第9章 アメリカの木製の戦士
第10章 終盤戦
第11章 タークの秘密
第12章 ターク対ディープ・ブルー
謝辞
原注
参考文献
訳者解説
オートマトン計算機の歩み(年表)
索引


著者プロフィール
トム・スタンデージ(Tom Standge)
1969年生まれ。ジャーナリスト・作家。英『エコノミスト』誌テクノロジー担当ライター。 著書に『世界を変えた6つの飲み物』(インターシフト)などがある。

訳者プロフィール
服部桂(はっとり・かつら)
1951年生まれ。元・朝日新聞社科学部記者。 著書に『メディアの予言者』(廣済堂出版)、『人工生命の世界』(オーム社)などが、訳書に『デジタル・マクルーハン』『パソコン創世 第3の神話』(ともにNTT出版)などがある。





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・・「(ヨーロッパでは)「紳士にとって旋盤を回すことは、婦人にとっての刺繍のようなもので、18世紀の終わりまで趣味として人気を保っていた」(第5章)」ことを同時にアタマのなかにいれておくとよい

『西洋事物起原 全4巻』(ヨハン・ベックマン、特許庁技術史研究会訳、岩波文庫、1999~2000)は、暇つぶしにパラパラとやると雑学に強くなれる本
・・ベックマンは「ターク」目撃者でもある

書評 『グラハム・ベル空白の12日間の謎-今明かされる電話誕生の秘話-』(セス・シュルマン、吉田三知世訳、日経BP社、2010)

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「史上空前規模の論文捏造事件」(2002年)に科学社会の構造的問題をさぐった 『論文捏造』(村松 秀、中公新書ラクレ、2006)は、「STAP細胞事件」(2014年)について考える手助けになる
・・21世紀人おいても科学雑誌の分野では英国と米国の存在が双璧


書評 『2045年問題-コンピュータが人間を超える日-』(松田卓也、廣済堂新書、2013)-「特異点」を超えるとコンピュータの行く末を人間が予測できなくなる?





(2012年7月3日発売の拙著です)









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