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2014年7月15日火曜日

書評 『恋の華・白蓮事件』(永畑道子、文春文庫、1990)-大正時代を代表する事件の一つ「白蓮事件」の主人公・柳原白蓮を描いたノンフィクション作品


現在(=2014年上半期)放送中のNHKの連続テレビ小説 『花子とアン』は、少女文学の名作 『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子の生涯を描いたものだ。明治時代に生まれ、「先の大戦」を乗り越えて「戦後」まで生き抜いた一人の女性の物語である。

放送が開始されてしばらくたってから見始めたが、最初はミッションスクールで英語を学んだ一少女が、翻訳家として自分の道をみつけて生きていくストーリーだと思っていた。

ところがドラマが進展するとともに、主人公が通っていたカナダ系のミッションスクール東洋英和女学校に転入してきた同窓となったのが年上の柳原白蓮(1885~1967)。あの「白蓮事件」の白蓮(びゃくれん)か(!)、「大正三美人」の一人といわれていた白蓮もまた、東洋英和出身だったとは知らなかったな、と。

甲府の平民の娘と、出戻りとはいえ皇族とも縁続きの華族の令嬢とでは水と油のような存在だったが、その後、二人は「腹心の友」となる。しかもドラマが進展するにつれて、じつはこの二人はある意味では似た存在であることがわかってくる。文学者という共通点だけではなく、不倫の恋を貫いたという点においても似たものどうしだったということだ。

そんなとき、ずいぶん昔に新刊書として購入したまま読んでいなかった『恋の華・白蓮事件』(永畑道子、文春文庫、1990)を蔵書のなかに再発見して、この機会に読んでみることにした。女性史の分野ですぐれたノンフィクション作品を出していた永畑道子氏の作品である。

『華の乱』(文春文庫、1992)は読んでいたのだが、『恋の華・白蓮事件』のほうはなぜか読む機会を逸したまま、24年もの月日が流れてしまっていたのだ。だが、本には読むタイミングがある。それは、いまでしょ、というわけだ。

ドラマがいよいよ炭鉱王との結婚生活からの「脱出」に近づいたいま、『恋の華・白蓮事件』を一気読みしてみた。この本はじつに面白い! ドラマより実人生のほうが、はるかに波乱に富んだものだったことが、このノンフォクション作品を読むとわかるからだ。

(柳原白蓮 『恋の華・白蓮事件』の口絵写真より)

姦通罪が存在した時代、「不倫」相手の宮崎竜介は東大新人会のメンバーで吉野作造の民本主義や黎明会の影響下にあった人だけでなく、父は 『三十三年の夢』の著者で辛亥革命の孫文の盟友でった革命下の宮崎滔天(みやざき・とうてん)であった。

炭鉱王の伊藤伝右衛門は、富国強兵政策に不可欠な石炭採掘事業を裸一貫から大成功させた、さに立志伝中の人。

そして宮崎竜介とのあいだにもうけた息子の名付け親となったのが、大本教の出口王仁三郎であり、その子は特攻隊出撃の鹿屋基地で米軍の空爆で戦死してしまう・・・。

なんという波瀾万丈の生涯であることか。朝ドラでどこまで描かれるのかはわからないが、ある意味では、朝ドラの主人公の村岡花子を食ってしまうくらいの存在なのである。

本書の記述には、著者自身の個人的な回想も含まれるが(・・若き日の著者は、晩年の白蓮に熊本日々新聞の記者として会っているという)、白蓮サイドだけでなく、伊藤伝右衛門サイドにも徹底的な取材によってバランスのとれた記述を行っている。わたしのような男性読者としては、伊藤伝右衛門には、同情を禁じ得ないもの感じるのではないだろうか。

徹底的な事実探索によって白蓮を立体的に描き出した名ノンフィクション作品だが、著者自身のパッションもまた文字の向こうからにじみ出てきてくるのを感じる。

それは、著者である永畑氏にとって、博多と熊本に「地縁」があることも理由の一つであろう。母親の出身地が炭鉱王の博多であること、不倫相手となった宮崎竜介の父が熊本出身であることだ。熊本出身の女性史家・高群逸江(たかむれ・いつえ)に『火の国の女の日記?』という作品があるが、九州の人間は男も女も熱いようだ。

「大正生命主義」という文学史上のコンセプトもあるが、まさに大正時代は「生命」の時代であった。「生命」の時代とは、女の時代のことでもある。与謝野晶子の『みだれ髪』で和歌に目覚めた白蓮であるが、永畑氏が紹介している白蓮の歌は、不倫の恋が成就するまでものは与謝野晶子に匹敵するような印象を受ける。まさに「女歌」(おんなうた)である。

著者の永畑道子氏は調べてみたら、2012年に82歳でお亡くなりになっていたようだ。この本も、もともとの版元の新評論から独立したして藤原書房から2008年に復刊されているようだ。

書店の店頭には、むしろ村岡花子の出身地にも近い山梨県山梨市出身の作家・林真理子氏の『白蓮れんれん』(集英社文庫、2005)という小説作品が平積みになっているが、ドラマの背後にあるリアルな世界は文学作品ではなくノンフィクションとして知りたいという人には、永畑氏の作品がいいのではないだろうか。

ぜひ著者にとっても初のノンフィクション作品となった『恋の華・白蓮事件』をおすすめしたい。




ドラマの影響で柳原白蓮に対する関心が急上昇中だという。文藝春秋社もこの機会に装幀をあらたなものに変更して、文春文庫版の『恋の華・白蓮事件』の重版に踏み切ったようだ。電子書籍版もあるとのこと。ご参考まで (2014年8月6日 記す)




<関連サイト>

NHK連続ドラマ小説『花子とアン』 公式サイト

『新編 近代美人伝(下)』(長谷川時雨、岩波文庫、1985)より「柳原燁子(やなぎはら・あきこ)」(青空文庫)


伊藤伝右衛門が出版のために600円(・・当時の金額)を渡して出版にこぎつけたという、白蓮の処女歌集 『踏繪』(ふみえ)も2008年に復刻されているようだ。表紙のデザインは竹久夢二によるものである。





<ブログ内関連記事>



NHK朝ドラ『花子とアン』関連

書評 『オーラの素顔 美輪明宏のいきかた』(豊田正義、講談社、2008)-「芸能界」と「霊能界」、そして法華経
・・NHKの朝ドラの2014年度上半期の『花子とアン』でナレーションをつとめる美輪明宏は長崎出身の九州人

NHK連続ドラマ小説 『花子とアン』 のモデル村岡花子もまた「英語で身を立てた女性」のロールモデル

宮崎滔天の 『支那革命軍談』 (1912年刊)に描かれた孫文と黄興の出会い-映画 『1911』 をさらに面白く見るために
・・宮崎滔天は白蓮の不倫相手の宮崎竜介の父親であった

書評 『ミッション・スクール-あこがれの園-』(佐藤八寿子、中公新書、2006)-キリスト教的なるものに憧れる日本人の心性とミッションスクールのイメージ


「近代日本」という時代と実業家・革命家

書評 『大倉喜八郎の豪快なる生涯 』(砂川幸雄、草思社文庫、2012)-渋沢栄一の盟友であった明治時代の大実業家を悪しき左翼史観から解放する

特別展「孫文と日本の友人たち-革命を支援した梅屋庄吉たち-」にいってきた-日活の創業者の一人でもあった実業家・梅屋庄吉の「陰徳」を知るべし

『大アジア燃ゆるまなざし 頭山満と玄洋社』 (読売新聞西部本社編、海鳥社、2001) で、オルタナティブな日本近現代史を知るべし!
・・福岡の風土を知る

夢野久作の傑作伝記集『近世怪人伝』(1935年)に登場する奈良原到(ならはら・いたる)と聖書の話がめっぽう面白い
・・福岡の風土を知る

書評 『日本の血脈』(石井妙子、文春文庫、2013)-「血脈」には明治維新以来の日本近代史が凝縮
・・白蓮の人生もまた維新の勝ち組と負け組が交差するところにあった


「大正三美人」と大正時代

「無憂」という事-バンコクの「アソーク」という駅名からインドと仏教を「引き出し」てみる
・・白蓮をふくめて「大正三美人」といわれた九條武子について取り上げている。『九條武子-歌集と無憂華』』という本がある。白蓮と武子は歌人としてお互い面識があった

歌人・九條武子による「聖夜」という七五調の「(大乗)仏教讃歌」を知ってますか?

マンガ 『はいからさんが通る』(大和和紀、講談社、1975~1977年)を一気読み ・・大正ロマン! ただしモデルの跡見女学園はミッショスクールではない。『花子とアン』は明治時代末期のカナダ系ミッションスクール東洋英和

映画 「百合子、ダスヴィダーニヤ」(ユーロスペース)をみてきた-ロシア文学者・湯浅芳子という生き方
・・大正時代はまた民本主義とロシア革命の時代でもあった

(2015年1月4日、2016年7月27日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)










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