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2012年5月6日日曜日

書評『ニシンが築いた国オランダ ー 海の技術史を読む』(田口一夫、成山堂書店、2002)ー 風土と技術の観点から「海洋国家オランダ」成立のメカニズムを探求

(17世紀オランダの画家フイゲール作「スヘフェニンヘンの海岸」)

風土と技術の観点から「海洋国家オランダ」成立のメカニズムを探求した興味深い本

『ニシンが築いた国オランダ-海の技術史を読む-』(田口一夫、成山堂書店、2002)は、「海洋国家オランダ」成立のメカニズムを探求したじつに興味深い本だ。オランダは17世紀にカトリックのスペイン(=ハプスブルク帝国)から独立したプロテスタントの国である。

ニシンというと、日本ではなんといってもその卵からつくる数の子であり、あとは身欠きニシンくらいしか思い浮かばないのだが、オランダや北欧では、北海で大量に獲れるニシンを塩漬けや酢漬けとして日常的に食べている。しかも、オランダではいまでも初物のニシンをナマで食べるのだという。それほど、オランダにとっては重要な意味をもつ魚なのだ。

このニシンから話を説き起こすことによって、いっけん何のつながりもない雑多な事実が、過酷な風土とそこに花開いた技術という観点から互いに関連づけられて解き明かされる。じっくり事実関係を確認しながら読むと、得るものはきわめて大きい。

オランダは正式にはネーデルラントという。文字通りの意味は「低地」であり、いまでもゼロメートル以下の土地も多く、津波の被害をたびたび受けてきた。このため堤防をつくり、治水技術によって自然の猛威と戦ってきた土地柄である。

また、オランダは低地であるだけでなく、砂が堆積しやすい遠浅の海岸には天然の良港がない。オランダは、まさに人間のチカラによって築いた国であるといえる。「神が天地を創造し、オランダ人がオランダ国土を創造した」というコトワザそのとおりだ。日本も明治時代初期には、デ・レイケというオランダの治水技術者の教えを受けている。

過酷な環境で生きるには意志のチカラと知力が不可欠である。そういう環境は風土と言い換えてもいいだろう。幸いなことにニシンという自然の恵みがあったおかげで、オランダはニシン漁にかかわる技術を出発点に、その後の国際貿易を中核に置いた「海洋国家」として急速に成長することが可能になったのである。

造船技術というハードウェアと操船技術というソフトウェアがあいまって、オランダの海事技術はニシン漁から遠洋航海へと発展していく。その結果、国際的な海上物流を担うまでに成長し、オランダ東インド会社によるインドネシア貿易の独占まで発展していく。造船技術と操船技術の両者があいまって実現できたことは、オランダとインドネシアの距離を考えてみれば一目瞭然だ。著者によれば、海事用語にはオランダ語起源のものが多いらしい。

また、 航海術の発展は、必然的に光学や物理学の発展をうながし、顕微鏡や天体望遠鏡などの光学機器の開発につながっていく。フェルメールやフランク・ハルスの絵画に光学機器が応用されているのも、17世紀オランダならではのものなのである。

ニシン漁の発達から始まった漁業は捕鯨業にも発展していく。当時の捕鯨は鯨油をとることが主目的だったのだが、その鯨油関連のビジネスから食品分野の多国籍企業ユニリバーが生まれる。また、東インド(=インドンシア)の石油からは、ロイヤル・ダッチ・シェルという多国籍企業が生まれたという記述には、なるごどと思わされるのである。技術的な発展からいって、きわめてナチュラルな流れなのである。

環境の厳しさを克服して豊かな国をつくりあげたという点において、オランダとイスラエルは特筆に値すべきものといっていいだろう。オランダは低地を、イスラエルは乾燥した砂漠を、それぞれ農地に転換し、現在では世界有数の農業国になっている。

戦略論の大家である経営学者のマイケル・ポーターには、『国の競争優位』(The Competitive Advantage of Nations)という大冊の名著がある。しかし、日本やスイスが取り上げられていながら、残念なことにオランダやイスラエルは取り上げられていない。その意味では風土と技術の関連からオランダをくわしく取り上げた本書は、きわめて貴重な本であるといっていいかもしれない。ポーターの本とあわせて読むといいだろう。

オランダ現地をくまなく歩き、欧州の海事博物館をくまなく見て回った著者は、フィールドワークに加えて、フェルナン・ブローデルなどの歴史書も存分に使いこなしている。

話題があまりにも多岐にわたっており、けっしてスラスラ読める本ではないのだが、一級海事士であり、電波航法という海事技術の専門家が書いた本であるだけに、ところどころにきわめて重要な指摘がなされている。じっくり読めばきわめて得るものが多い本である。

ぜひ一読をすすめたい。


<初出情報>

■amazon書評「風土と技術の観点から「海洋国家オランダ」成立のメカニズムを探求した興味深い本」 投稿掲載(2012年5月6日)


目 次
はじめに
1. オランダの海とニシン
バルト海のニシンとハンザ
中世の北海ニシン漁
二つの海洋国、オランダと英国
ニシン塩漬け作業のマニュアル化
ニシンと市民生活
海の帝国になったオランダ
オランダ海運の強さの秘密
アムステルダムは世界を制した
オランダ共和国は世界の中心へ-捕鯨国へ発展
東インドへの航路
海に生きた東インド会社
近代海図の誕生
付録 拿捕船とピープス海軍大臣
オランダの海の歴史年表-ニシン漁業を中心として-
参考文献
あとがき
索引   


著者プロフィール
田口一夫(たぐち・かずお)昭和26年(1951年)、函館水産専門学校(現北海道大学水産学部)遠洋漁業科卒業。同31年鹿児島大学水産学部(助手)。平成7年(1995年)、鹿児島大学名誉教授。工学博士(LF、VLF航法電波の伝搬に関する研究)。1級海技士(航海)。双曲線電波航法について35年間研究する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


ニシンについてのあれこれ-アタマの引き出し 書評への付記



(スウェーデン産のニシンの酢漬け)


書評では、ニシン(herring)の食べ方については以下のように書いておいた。

オランダや北欧では、北海で大量に獲れるニシンを塩漬けや酢漬けとして日常的に食べている。しかも、オランダではいまでも初物のニシンをナマで食べるのだという。それほど、オランダにとっては重要な意味をもつ魚なのだ。

現在でも、ドイツでも中級程度のホテルに宿泊すると、朝食会場にはニシンの酢漬け(ピクルス)が置いてあることが多い。

また、ドイツにはその名も北海(Nordsee:ノルトゼー)という魚中心のファストフードチェーンがあるので、魚のサンドイッチなどの軽食を食べるにはきわめて便利でありがたい。



オランダでは塩漬けにしたニシンをナマで食べるのだが、食べるときは顔を上げて、ニシンの尻尾をもってアタマから飲み込むように食べるらしい。本書にも、若い女性がそのように食べている姿が写真で紹介されている。

ところが、ニシンは塩漬けや酢漬けだけではない。

スウェーデン北部には、ニシンの缶詰であるシュール・ストレンミングというものがあるらしい。生のニシンの缶詰にして密封し缶内で発酵させたものであるが、缶詰をあけるときは要注意だそうだ。強烈な臭気は、とても耐えられるしろものではないらしい。

この話は、発酵学者で食文化研究家の小泉武夫氏が、『発酵食品礼賛』(文春新書、1999)など、いろんなところで書いているので有名だが、さすがにわたしは食べたことも、匂いをかいだこともない。伊豆諸島の名物の干物くさやより、はるかに臭く、絶対に家のなかで開封してはいけないそうだ。もしそんなことしたら、たいへんなことになってしまうという・・・

wikipedia のニシンの項目には「日本以外での生活文化においての利用」という文章があるが、そこにはポーランドの話が紹介されている。

ポーランド料理のシレチ・ポ・ヤポンスク( śledź po japońsku/日本風ニシン)とは、 酢漬けにしたニシンをゆで卵入りのマヨネーズで和えたもの。ポーランドではポピュラーなニシン料理となっている。「日本人はニシンの卵(数の子)が好きだ」というのが、「日本人はニシンと卵が好きだ」と誤ってポーランドに伝わったため、ニシンと卵をあわせた料理が「日本風」と呼ばれるようになった。

おお、なんという、うるわしき誤解! ほんとうかどうかは知らないが、話としては面白い。しかも、なんだか美味そうだ。 śledź po japońsku で検索してみたら、ポーランド語のレシピがでてきた。内容は読めなくても写真があるので、参考になるだろう。シレチ・ポ・ヤポンスクは簡単そうなので、こんどつくってみようかな?

なお、写真として掲載したものはスウェーデン産のニシンの酢漬け(pickled herring)。これは、酢漬け(ピクルス)なので、酸っぱいが匂いはきつくない。じゃがいもから蒸留してつくった、アルコール度数40%のスピリッツであるアクアヴィットと一緒に食べると北欧気分を大いに味わうことができる。

たまには、日本風以外の食べ方も試してみるといいでしょう。



<ブログ内関連記事>

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書評 『チューリップ・バブル-人間を狂わせた花の物語』(マイク・ダッシュ、明石三世訳、文春文庫、2000)-バブルは過ぎ去った過去の物語ではない!

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