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2014年9月12日金曜日

書評 『世界はひとつの教室-「学び」×「テクノロジー」が起こすイノベーション-』(サルマン・カーン、三木俊哉訳、ダイヤモンド社、2013)-「理系」著者によるユーザーフレンドリーな学習論と実践の記録


「理系」著者によるユーザーフレンドリーな学習論と実践の記録である。ネット時代だからこそ可能になった、本来あるべき「学び」の形がここにある。

近代後期に誕生し、日本だけでなくアメリカも含めて世界中を長く支配してきたプロイセン型、すなわち工場労働者の育成にフィットした平均的な人間をつくりだす「教育」に対するアンチテーゼである。

ユーザーフレンドリーな学習の実践だが、それは大上段にふりかぶった議論から始まったのではない。いとこの家庭教師という「実践」から始まったのである。しかも、教育界とはまったく縁のなかったヘッジファンドのアナリストによって2004年に始まったものだ。いまから10年前のことである。

家庭教師といっても21世紀の家庭教師である。場所の共有はリアルではない。地理的に離れた場所を電話で結んで行われた家庭教師には限界があることに気がついた著者は、短い動画を YouTube にアップすることで黒板がわりとるするアイデアを思いつく。これがいま世界中で旋風を巻き起こしているカーン・アカデミー(Khan Academy)のはじまりであった。

著者は、インド系とバングラデシュ系の移民を両親にもつサルマン・カーンというアメリカ人である。本書は、著者の取り組みをみずからが語ったものだ。21世紀のネット時代における学習論とその実践だけでなく、NPO法人の起業物語でもあり、高い報酬の職を捨てた高学歴者のキャリアについてのオディッセイでもある。だから、最初から最後まで飽きさせない。


著者のサルマン・カーン自身は、理系の最高峰である MIT(=マサチューセッツ工科大学)で学位を3つ取得し、しかもハーバード・ビジネススクールでMBAを取得している秀才だが、彼の関心はテクノロジーに特化したものではない。この本を通読すると、きわめて知的好奇心の強いタイプで、その好奇心をベースにした「教養」の幅も広いことがわかる。

その「教養」の中核にあるのが数学だ。数学という科目は、いったんつまづくと、それ以後まったくわからなくなってしまうという性格をもつ。そのために自信を失い、数学嫌いになってしまう子どもたちがいかに多いことか。

サルマン・カーンのいとこの少女もまた、数学のある一分野だけが理解できないために自信を失ってしまっていたという。プロイセン型の教室では、すべての生徒に対して同じペースで授業が進むので、個人個人の理解のスピードとはかならずしも合わないのである。

学習者個人が、マイペースで納得いくまで反復学習をすればいいのではないか? それを可能とするのが、ネットで無料で視聴できるビデオ教材なのである。

80点とれば合格というのが従来型の習熟度判定の基準だが、ほんとうの習熟とは、100点とれるまで反復してものにすることだ。そして、その成果を一つ一つ論理的に積み上げていけば高度なものにチャンレンジすることも不可能ではなくなる。だから、能力別クラスも必要なくなるというのがカーンの主張である。いわゆる「完全習得学習」の考えである。

「教育」する側の発想ではなく、「学習」する側の発想学ぶ人自身が当事者意識(=オーナーシップ)をもって取り組む学習。これが本来あるべき「学び」(=ラーニング)の姿である。もちろん外発的なものもあろうが、自分の内側から生まれてくる学びたいという内発的なモチベーションをかきたてる学習である。このマインドセットができあがれば、学校を卒業しても生涯にわたって「学び」続けることが可能となるのである。

従来型の「教育」に強い不満を感じていたからこそ、あくまでも「学ぶ」主体である学習者の視点に立った発想が可能だったのだろう。教育界とは関係のない分野でキャリアを積んだからこそ見えてきたものがある。それはファイナンスという「実学」の世界である。

著者のテーマは、「実学」と「教養」、「実学」と「知的探求」を両立させることにある。近代後期にプロイセンで生まれたフンボルト型大学理念へのアンチテーゼと捉えることも可能だろう。

冒頭に引かれた近代インドの詩人タゴールと古代ギリシアの哲学者プラトンのコトバが含蓄に富むので、あえてここに引用しておきたい。

タゴールのコトバ
自分が受けた教育を子どもに押しつけてはならない。彼(彼女)はあなたとは別の時代に生まれたのだから。

プラトンのコトバ
教育の諸要素は・・・・子ども時代に提示すべきである。ただし、強制してはならない。強制されて得た知識は頭に残らない。だから無理強いすべきではない。幼少期の教育は楽しければいい。そのほうが、その子本来の能力を見いだしやすい。

「質の高い教育を、無料で、世界中のすべての人に提供する」。これがカーン・アカデミーのミッションだ。

女子教育を否定するイスラーム主義者タリバンに狙撃されたが一命をとりとめたパキスタンの少女マララもまた、カーン・アカデミーのビデオ教材で学んでいることが、テレビのインタビューで知った。インターネットさえつながれば、教育の機会を奪われた人にもチャンスが生まれるのである。

テクノロジーをとっかかりにして、本来のあるべき姿の「学び」を現代に復活させ、すべての人間のポテンシャルを開花させたいという強い思いが本書にはあふれている。これは移民二世として、アメリカで最高の教育を受けることができた著者ならではのものだろう。The One World Schoolhouse という原著のタイトル自体に、アメリカ的なオプティミズムを読み取ることができるだろう。

革新的なアイデアを実践しつつも、実際的な姿勢も忘れないバランス感覚がすばらしい。押しつけではないのだ。「教育」ではなく、みずからも「学ぶ人」としての姿勢が一貫しているのが多くの人の共感をよぶ理由だろう。

脳科学にもとづいた議論が展開されるので、従来型のつまらない教育関連本を読むよりはるかに面白い。ユーザーフレンドリーな学習論と実践の記録として、多くの人に読むことをすすめたい。






目 次 

はじめに 質の高い教育を、無料で、世界中のすべての人に

第I部 「教える」ということ
 ナディアの家庭教師
 ごくシンプルなビデオ
 重視すべきはコンテンツ
 完全習得学習
 「学び」とは何か
 ギャップを埋める
第II部 壊れたモデル
 慣習を疑う
 プロイセン・モデル
 スイスチーズ的学習
 テストの功罪
 創造性に貼られるレッテル
 宿題
 教室をひっくり返す
 学校教育のコスト
第III部 現実の世界へ
 理論と実践
 カーンアカデミーのソフトウェア
 現実の教室へ
 ゲームのように楽しく
 一世一代の決心
 ロスアルトスでの実験
 教育は年齢を超えて
第IV部 世界はひとつの教室
 不確かなのは当たり前
 生徒だったころの私
 「教室はひとつ」との思い
 チームスポーツとしての教育
 「秩序ある混沌」はOK
 夏休みを見直す
 これからの成績表
 教育を受けられない人たちのために
 これからの資格認定
 大学はどうなるか
むすび 創造のための時間をつくる

原注
謝辞


著者プロフィール
サルマン・カーン(Salman Khan)
カーンアカデミー創設者。インドとバングラデシュからの移民である両親のもと、ルイジアナ州メテリーに生まれる。クラス代表を務めたハーバード・ビジネススクールではMBAを取得したほか、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学位を3つ取得。オラクルをはじめとするシリコンバレーの新興企業数社、ヘッジファンドのアナリストをへて、NPOカーンアカデミーを創設。

訳者プロフィール
 三木 俊哉(みき・としや)
 京都大学法学部卒業。企業勤務をへて翻訳者。訳書に『スティーブ・ジョブズの流儀』(武田ランダムハウスジャパン)、『アップルとシリコンバレーで学んだ賢者の起業術』(海と月社)、『ヘッジファンド 投資家たちの野望と興亡』(楽工社)など。






<関連サイト>

Khan Academy #You Can Learn Anything (カーン・アカデミー公式サイト)

カーンアカデミーとは
「質の高い教育を、無料で、世界中のすべての人に提供する」というミッションのもと、本書の著者サルマン・カーンが2008年に創設した非営利組織(NPO)。同組織のサイト上には数学、科学、経済、ファイナンス、歴史、美術などのレッスンビデオが4000本以上並び、ユーザーはこれらを無料で閲覧・学習することができる。サイトアクセスは月間5400万ページビュー、ユニークユーザーは月間530万人(2013年2月時点)と、いま世界で最も注目を集めるオンライン教育プラットフォームのひとつ。(出版社サイトからの引用)

After Words: "The One World Schoolhouse: Education Reimagined"(カーン・アカデミー公式サイト)
・・著者のインタビュービデオ。ものすごいマシンガントークの人だが、アメリカ人なので英語は聴き取りやすい。このほかインタビューのビデオが多数ある


<ブログ内関連記事>


ネット教育

書評 『進化する教育-あなたの脳力は進化する!-(大前研一通信特別保存版 PART VI』(大前研一、ビジネス・ブレークスルー出版事務局=編集、2012)-実社会との距離感が埋まらない教育界には危機感をもってほしい
・・営利のインターネット大学・ビジネスブレークスルー大学

コロンビア大学ビジネススクールの心理学者シーナ・アイエンガー教授の「白熱教室」(NHK・Eテレ)が始まりました
・・盲目のインド系アメリカ人の心理学者のビデオ授業

書評 『新・学問のススメ-生涯学習のこれから-』(石 弘光、講談社現代新書、2012)-「公開大学」の先駆者としての「放送大学」について知っておくことは重要だ
・・放送大学もまたネット対応を進めている


内発的動機付け(モチベーション)

『モチベーション3.0』(ダニエル・ピンク、大前研一訳、講談社、2010) は、「やる気=ドライブ」に着目した、「内発的動機付け」に基づく、21世紀の先進国型モチベーションのあり方を探求する本

「学を為すには、人の之れを強うるを俟たず。必ずや感興する所有って之を為す」 (佐藤一斎) -外発的なキッカケを自発性と内発的動機でかならずモノにする!


脳科学と「学び」

書評 『脳の可塑性と記憶』(塚原仲晃、岩波現代文庫、2010 単行本初版 1985)-短いが簡潔にまとめられた「記憶と学習」にかんする平易な解説

書評 『受験脳の作り方-脳科学で考える効率的学習法-』(池谷裕二、新潮文庫、2011)記憶のメカニズムを知れば社会人にも十分に応用可能だ!

書評 『ネット・バカ-インターネットがわたしたちの脳にしていること-』(ニコラス・カー、篠儀直子訳、青土社、2010)


「学ぶ」環境づくり

「人間の本質は学びにある」-モンテッソーリ教育について考えてみる

書評 『ユダヤ人が語った親バカ教育のレシピ』(アンドリュー&ユキコ・サター、インデックス・コミュニケーションズ、2006 改題して 講談社+α文庫 2010)

三度目のミャンマー、三度目の正直 (6) ミャンマーの僧院は寺子屋だ-インデインにて (インレー湖 ⑤)
・・学年の違う生徒が同じ教室で学ぶ「寺子屋方式」は、テクノロジーの発展で可能となるか? 「世界はひとつの教室」(


知の巨人たちが語る「学ぶことの楽しさ」

書評 『知の巨人ドラッカー自伝』(ピーター・F.ドラッカー、牧野 洋訳・解説、日経ビジネス人文庫、2009 単行本初版 2005)
・・「学ぶ」ことの楽しさと喜びに満ちた知の巨人の人生

書評 『梅棹忠夫 語る』(小山修三 聞き手、日経プレミアシリーズ、2010)
・・自分の興味と関心にまかせて好きなことをやり抜いた独創の人の人生


新たな手法への抵抗をいかに克服するか

書評 『植物工場ビジネス-低コスト型なら個人でもできる-』(池田英男、日本経済新聞出版社、2010)
・・ネット教育に否定的な論者は、植物工場に否定的な農家に似ていると思う。理想はたしかに「五感」すべてがかかわるフィールドであるが、ネット教育は植物工場はオルタナティブ(代替的)な教育方法や生産方法であるだけでなく、優位性もあることに注目すべきだろう。その優位性は短所を大いに補うものである





(2012年7月3日発売の拙著です)









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