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2014年4月12日土曜日

「ルドルフ・シュタイナー展 天使の国」(ワタリウム美術館)にいってきた(2014年4月10日)-「黒板絵」と「建築」に表現された「思考するアート」


「ルドルフ・シュタイナー展 天使の国」にいってきた。東京・青山にあるワタリウム美術館というきわめて個性的な美術館での、きわめて個性的な美術展だ。

シュタイナーといえば世界中に普及しているシュタイナー学校や、その特異な思想で根強いファンが日本にも存在し続けている。だが思想そのものよりも、アートという切り口で美術展で取り上げるのは、ある意味では正しい取り上げ方なのかもしれないと思う。

なぜなら、シュタイナーの思想を貫いているものは「美」であるからだ。真善美のなかの「美」。今回の展示の中心である「黒板絵」と「建築」は、シュタイナーの思想を自らアートとしてして表現したものである。

黒板絵にかんしては描いた本人がアートと認識していたのではないだろうが、建築にかんしてはシュタイナーは自分の思想と世界観を見える形にする表現としてきわめて重視していた。

「黒板絵」については、ドイツ表現主義のロシア人カンディンスキーやスイスのパウル・クレー、ドイツのヨーゼフ・ボイスといったアーチストたちをインスパイアしてきたものである。黒い紙のうえに色つきのチョークで描いたドローイング(素描)がアートそのものになっていることは誰にも否定できないだろう。「思考する絵」であり、思想をアートしたものである、と。


ワタリウム美術館では、すでに過去2回ルドルフ・シュタイナーが取り上げられているようだ。1996年には「黒板ドローイング 地球が月になるとき」展が開催されているようで、いずれも図録が筑摩書房から出版されている。『ルドルフ・シュタイナー 遺された黒板絵』(筑摩書房、1996)という図録はわたしも所有している(上掲)。

だが、「黒板絵」の実物をみるのはじつは今回がはじめてだ。黒板は消してしまうと残らないので、あらかじめ信奉者たちが黒い紙を用意し、黒板がわりの紙にシュタイナーが説明用に図と文字を書いたものが「黒板絵」なのである。後述するゲーテアヌムで行われた講義のなかで使用されたものだ。

展示品を近くで見れば、紙の質感やシュタイナーの筆跡のクセも手に取るようにわかる。講義での説明のためということもあるだろうが、シュタイナーは意外と読みやすい字を書いているので、ドイツ語を多少でも知っていれば単語を拾い読みすることはできるだろう。

「黒板絵」に添えて日本語の説明書きも展示されているが、それを短時間で読んでどこまで理解できるかは別の話だ。

(ルドルフ・シュタイナー 「左か右か」)

だが思うに、説明書きもいっさい無視して、自分が見るものを直観として感じたらいいのではないかと思う。考えるのではなく感じること。これが重要だ。色彩豊かな図とドイツ語の走り書きは、アート作品として感じるのがただしい見方だと思う。

「黒板絵」にいわゆる南方熊楠の「南方曼荼羅」に似たものを感じる人がいるかもしれない。南方熊楠もアートとして意図したものではないが、密教の立場から大乗仏教の因果論を超える思考を図示した「南方曼荼羅」(みなかたマンダラ)や、ライフワークであった研究対象の粘菌のスケッチ画はアートになっているといっても問題はないだろう。

わたし自身、シュタイナーへの関心はもうずいぶん昔から持ち続けているし、シュタイナー好きの友人も少なくないがのだが、シュタイナーのオカルト的な要素とは一定の距離を置きたいという気持ちがあることは否定しない。

シュタイナーの思想は西欧世界における密教(=エソテリック)の流れのなかにある。独特な用語法に違和感が残るし、なんせ日本語訳されている本だけでも膨大だ。講演録を中心にしたドイツ語版のシュタイナー全集はなんと354巻(!)もあるという。シュタイナー思想を理解するのはとても難しい。西欧密教を理解するには、まずは顕教について熟知していなければならないからだ。

だが、そんなわたしでも「アート作品に「感じる」ことはできる。多くの人にとってもそうだろう。それでいいのではないかと思う。美しいと感じること、美を生活の中心にもってくるのは、日本人にとっては当たり前過ぎるほど当たり前のことだからだ。

(ルドルフ・シュタイナー 「月と地球」)

今回の美術展のもう一つのテーマである「建築」についても触れておこう。「建築」はシュタイナーの思想、世界観の表現そのものである。

シュタイナーが自らが手がけたゲーテアヌム(Goetheanum)という建築物のことである。ゲーテアヌムとは、スイスのドルナッハにある建築物で、現在でもシュタイナー思想の研究機関として中核的な位置づけをもっている、いわば「聖地」のような建築物だ。

「全人」性をそのまま体現していた19世紀ドイツの文豪ゲーテにちなんだ命名だ。若き日のシュタイナーがゲーテの自然科学関係の論文の編集作業に従事しているように、ウィーン工科大学で学び、自然科学から出発したシュタイナーにとってゲーテはきわめて大きな存在なのである。

ドルナッハはバーゼルからは30分の距離だそうだが、ゲーテアヌムは残念ながらいまだに訪れたことはない。バーゼルは1991年に一度だけ訪れたことがあるが、それはブルクハルトとニーチェへの関心からであり、シュタイナーについてではなかった。

「建てない建築家」という坂口恭平氏のドルナッハ訪問記と、彼が作成したゲーテアヌム周辺の立体模型、熊野をはじめとした聖地を撮影してきた写真家・鈴木理策氏によるゲーテアヌムの写真、そしてビデオは見る価値がある。外観もさることながら、ゲーテアヌムは内部がより重要であるからだ。

(ドルナッハの「ゲーテアヌム」全景)

ゲーテアヌムは植物的ではあるが、モチーフが植物的であるアールヌーヴォーとは違う。植物のもつ成長する生命体としてのパワー、魂のパワーをそのままモチーフにした印象である。

外観はけっして女性的ではないのだが、内部の包みこような「うねり」は胎内を思わせるものがある。女性的と言うよりも母性的というべきだろうか。

シュタイナーは「墓が建築物の発端である」と見ていたそうだ。キリスト教の教会建築がそもそも墓であるように、墓=母体の連想は古代以来のものである。沖縄の亀甲墓(きっこうぼ)もまた内部が空洞の構造であるが、墓や洞窟は死を内包する空間なのである。

ドイツ生まれのユング派心理学者エーリヒ・ノイマンの『グレート・マザー』やスイス人法律家バッハオーフェンの『母権制』を想起させる。いずれもドイツ語圏が生み出した思想家である。

(第2ゲーテアヌム 雑誌『シグネチャー』2013年1月号より)


『シュタイナー用語辞典』(西川隆範、風濤社、2002)によれば、「美」(Ästhetik エステティーク)は以下のように定義されている。

内的・精神的なものが外的イメージに現れたもの。美的体験は、欲望が心魂の境界まで行って、判断を持って帰ってくるので健全である。美はアストラル体(=人間の思いの担い手である心のこと)に作用する。

この定義を読めば、なぜシュタイナーが「美」を重視していたかだけでなく、なぜ彫刻、建築デザインなどの実践にも踏み込んでいたかがわかる。日本語にも「内面の美」という表現があではないか。エステ(美)とは外面的なものだけではいけないのである。

「ルドルフ・シュタイナー展 天使の国」(ワタリウム美術館)は、アートとしてのシュタイナーを感じる美術展である。万人向けではないが、ぜひなにかを「感じ」とってほしいと思う。





<関連サイト>


場所: ワタリウム美術館
 営団地下鉄・銀座線「外苑前駅」より徒歩8分
(青山通りを渋谷方向に向い、青山3丁目交差点を右折、1つ目の信号機左)
会期:  2014年3月23日(日)~ 7月13日(日)





<関連サイト>

「ルドルフ・シュタイナー展 天使の国」(ワタリウム美術館、2014年)

「ルドルフ・シュタイナー展 黒板ドローイング 地球が月になるとき(ワタリウム美術館、1996年)
・・今回の美術展の18年前のもの。このときの図録も出版されている。





<ブログ内関連記事>

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銀杏と書いて「イチョウ」と読むか、「ギンナン」と読むか-強烈な匂いで知る日本の秋の風物詩
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・・シュタイナーの人智学とその前身である神智学もまたオカルトの系譜にあることは指摘しておかねばならない

(2014年6月14日、8月21日、2016年6月18日 情報追加)



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