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2012年6月22日金曜日

書評『大英帝国という経験 (興亡の世界史 ⑯)』(井野瀬久美惠、講談社、2007)ー 知的刺激に満ちた、読ませる「大英帝国史」である


面白い、じつに知的刺激に満ちた「大英帝国論」だ!

面白い、じつに知的刺激に富んだ「大英帝国論」である。『大英帝国という経験 (興亡の世界史 ⑯)』(井野瀬久美惠、講談社、2007)のことである。

ストーリーテリングの勝利といっていいだろう。導入から本文まで、構成とストーリー展開によって読ませる本である。

ところどころに引用される文学作品も、また意外な印象をもって「えっ!そうなの?」という気持ちにさせてくれる。まさか、大英帝国について書かれた本で、『風と共に去りぬ』の話を読むことになるとは!(・・ただし、映画ではなく原作のほうだが)。

大英帝国は、「アメリカ喪失」から始まったのである、と。そうか、たしかによくよく考えてみればそうだろろう。アメリカは、英国の植民地だったのだ。

アメリカ植民地の喪失という、まさにその時期に執筆されベストセラーになったのがギボンの『ローマ帝国衰亡史』であった。この事実からも、その当時の英国社会に満ちていた「空気」を感じることができる。英国は、はげしいアイデンティティ・クライシスを体験していたのだ。

世界史の教科書にも書いてあるとおり、アメリカ独立革命の思想的バックボーンは大陸の啓蒙主義であり、アメリカは独立戦争を戦うなかで、英国の宿敵であったカトリック国フランスと手を組んだのであった。プロテスタント国の英国に与えた衝撃は甚大なものがあったようだ。プロテスタント国 vs. カトリック国対立の図式はこのとき終わったからだ。

英国史の専門家は、アメリカ植民地喪失をはさんで、「第一次大英帝国」 と 「第二次大英帝国」というらしい。このふたつの大英帝国に断絶はないが、 植民地統治のあり方には大幅に改革が行われたというのが、本書のメインテーマである。

カリブ海の西インド諸島植民地で行われたサトウキビ栽培は、西アフリカからつれてこられた黒人奴隷に担われており、収穫したサトウキビから砂糖を精製するプロセスは消費地の英国で行われて「三角貿易」という経済システムが形成されていたことは、  書評 『砂糖の世界史』(川北 稔、岩波ジュニア新書、1996)-紅茶と砂糖が出会ったとき、「近代世界システム」が形成された!  を参照していただきたい。
     
アメリカ喪失後の「第二次大英帝国」においては、奴隷貿易の支配者から博愛主義の旗手へと転換し、ブルジョワジーをチカラを持ち始めたことから、東インド会社に代表される保護貿易から自由貿易への転換が推進されていく。そして、あらたな「三角貿易」は、英国=インド=中国で形成されるが、それはお茶が死活的な意味をもつようになったからだ。

わたしなりに整理すれば、大英帝国は、西インド諸島から東インド、すなわちカリブ海をふくんだ大西洋から、インド植民地を中心としたインド洋への大規模なシフトが行われたのである。

喪失した「アメリカ植民地」にかわって、大英帝国にとっての打ち出の小槌となったのは、あらたに版図に組み込んだインドである。いまや植民地のほぼすべてを喪失して大英帝国は存在しないが、この歴史の延長線上に、現在のわれわれは生きているのである。「見えないネットワーク」として大英帝国は、21世紀の現在でも生きているのだ。

それだけでなく、「目に見えるモノ」をつうじて、大英帝国は「現代文明」を形作っているのである。これは本書後半のテーマである、19世紀のヴィクトリア朝時代の大英帝国最盛期である。近代スポーツ、紅茶、博物館、ボーイスカウト・・・枚挙のいとまもないほど、多くのものがこの時期に生み出されて、大英帝国のネットワークをつうじて全世界に拡散していったのである。

しかも、後半のこのテーマにおいては、著者が得意な女性や少年といったテーマによって、ついつい男中心になりがちな大英帝国の歴史を、生活史を見る女性の目によって、立体化することに成功しているといえよう。

19世紀末の南アフリカにおけるボーア戦争や、オスマン帝国崩壊後のイラク王国成立にかんしても、植民地での戦争に参加した男性ではない、看護婦やそれ以外の形で現地におもむいた女性たちの視点がじつに新鮮な印象を受けるのだ。

『大英帝国衰亡史』を書いた保守派の論客・中西輝政氏のような男性の著者は、どうしても「衰退」に焦点を置きがちだが、女性の視点からみると、「衰退論」からは見えてこないべつの側面も見えてくる。

英国は、これまれの歴史のなかで、なんどもアイデンティティを再確認してきた国であることが本書を読むとよく理解できる。

その意味においては、第2次大戦後に植民地のほぼすべてを喪失した大英帝国、英国という島国にもどるうえで体験したアイデンティティ再確認について読みたいところであるが、それは400ページの本書では不可能な課題だろう。著者には、ぜひ本書の続きを取り扱った本を書いてほしいと思う。




目 次

はじめに
第1章 アメリカ喪失
 -ローマ帝国の衰亡とアメリカ喪失
 -「イギリス人」だったアメリカ人
 -アメリカ喪失の教訓
第2章 連合王国と帝国再編
 -問い直される愛国心
 -スコットランド帝国という幻想
 -ジェラルド・オハラの青春
第3章 移民たちの帝国
 -アメリカ喪失と移民活動の再開
 -「帝国の時代」のカナダ移民
第4章 奴隷を解放する帝国
 -奴隷貿易の記憶
 -共犯者としての帝国
 -奴隷貿易廃止運動の諸相
 -よみがえる奴隷貿易の記憶
第5章 モノの帝国
 -紅茶の国民化-女性、家庭、そして帝国
 -巨大睡蓮と万博
 -モノたちを見せる帝国
第6章 女王陛下の大英帝国-女王・帝国・君主制
 -女王陛下の要請によりて
第7章 帝国は楽し
 -大英博物館はミステリーの宝庫
 -ゴードン将軍を救出せよ-観光と帝国
 -ミュージック・ホールで歌えば帝国も楽し!
第8章 女たちの大英帝国
 -女たちの居場所
 -帝国に旅立つ女たち
第9章 準備された衰退
 -女たちの南アフリカ戦争
 -子どもたちの堕落をくい止めよ!
 -日英同盟の顛末
第10章 帝国の遺産
 -イラクに迷う大英帝国
 -帝国の逆襲?
あとがき
参考文献
年表
主要人物略伝
索引



著者プロフィール


井野瀬久美惠(いのえ・くみえ)

1958年、愛知県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。甲南大学文学部教授。専門はイギリス近現代史、大英帝国史。兵庫県長期ビジョン委員会、大阪府河川整備委員会、朝日放送番組審議会などの委員を歴任。著書に『植民地経験のゆくえ』(人文書院、第19回青木なを賞受賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

そもそも「連合王国」(UK:United Kingdom)とは何かについても、本書をよむとよく理解できる。
18世紀のはじめ、イングランドと合併したスコットランド、財政破綻の結果。しかしこの機会をうまく活用し、多大な血を流しながらも連合王国のなかで地歩を築くことに成功。
一方、イングランドの穀物供給基地となったアイルランドは、主食のじゃがいも飢饉で餓死者続出し、アイルランド人は大量にアメリカに流出、現在でも国外在住者のほうが圧倒的に多く、「遠隔地ナショナリズム」として反英闘争の資金を提供してきたのである。これはアメリカ理解にとっても重要なことだ。

このほか、読んで面白い本であることは間違いない。

同じ時代を扱った本に 『大英帝国-最盛期イギリスの社会史-』(長島伸一、講談社現代新書、1989)がある。

ヴィクトリア女王の時代の19世紀の100年を扱ったものだが、ナイチンゲールのいう「高度文明社会」を成立させた大英帝国の最盛期を、大衆社会化という視点から描いたものだ。

あわせて読むと、この時代のイメージをさらにふくらませることができるだろう。こちらは、男性の視点であり、より社会経済史に力点をおいた社会史であり生活史である。

紅茶やボーイスカウトなどについては、それぞれ個別の本もいろいろ出版されているので、それらを参照するといいだろう。



<ブログ内関連記事>

■大英帝国の興亡

書評 『大英帝国衰亡史』(中西輝政、PHP文庫、2004 初版単行本 1997)

書評 『砂糖の世界史』(川北 稔、岩波ジュニア新書、1996)-紅茶と砂糖が出会ったとき、「近代世界システム」が形成された!

書評 『イギリス近代史講義』(川北 稔、講談社現代新書、2010)-「世界システム論」と「生活史」を融合した、日本人のための大英帝国「興亡史」

書評 『民衆の大英帝国-近世イギリス社会とアメリカ移民-』(川北 稔、岩波現代文庫、2008 単行本初版 1990)-大英帝国はなぜ英国にとって必要だったのか?

「東インド会社とアジアの海賊」(東洋文庫ミュージアム)を見てきた-「東インド会社」と「海賊」は近代経済史のキーワードだ


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