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2016年8月6日土曜日

書評 『ルポ ニッポン絶望工場』(出井康博、講談社+α新書、2016)-日本人が見て見ぬふりをしようとしている外国人労働の実態


 『ルポ ニッポン絶望工場』(出井康博、講談社+α新書、2016)は今月の新刊。帯に書いてあるように「新聞・TVが報じない「現代の奴隷労働」をフィールドワークによる徹底的な取材で描いたものだ。

 「ブラックバイト」というコトバと実態はすでに日本人の多くが知るところになっており、マスコミでもネットでもやり玉に挙がるようになっているが、コンビニ弁当工場、新聞配達、宅配便仕分け、農業といった人手不足が深刻な現場における外国人労働者の実態については、あまり取り上げられることはない。

新聞やTV報道で取り上げられないのは理由がある。それは日本独自の制度である新聞配達(=宅配)が、いまや外国人「留学生」によって担われているからだ。いわゆる「奨学生」という制度である。自分の足下の話だけに、新聞社はもとより系列にあるTV局も積極的に取り上げないのだろうというのが著者の見解だ。

新聞配達は、夕刊制度のある都市部では早朝と夕方の2回の重労働だが、それでもまじめに勉強したい「留学生」は恵まれているという。夜勤に依存しなくて済むからだ。新聞配達以外では、夜勤のウェイトが高い。「留学生」は昼間は勉強というのがタテマエだからだ。

この本を読む必要があるのは、外国人労働者の多くを占めていた中国人が減少し、いまではベトナム人がそれにとって代わっているという実態を知ることにある。たしかに最近ベトナム人が増えているな、と感じているところだったので、本書の内容は大いに納得できるものだ。

その意味では、カバーの写真として使用されている写真はややミスリーディングだ。ホタテ加工場で働く中国人労働者は、日本人がイメージする外国人労働者なのだが、主役はいまでは中国人ではない。

2008年のリーマンショックで仕事が減少、さらに2011年の「3・11」の大地震と原発事故で中国人ワーカーの多くが帰国している。さらに、「円安」状況がつづくなか、日本円での給料支給では出身国の通貨に換算すると手取りが減ってしまう。日本で働くことは、相対的に魅力がなくなっているのだ。

現在の外国人労働者の中心はベトナム人である。経済発展に乗り遅れたベトナムから日本を目指す者は多い。その中心は「実習生」よりも「留学生」が多い。といっても、勉学が主目的というよりも、労働が目的来日する者が多い。ブローカーへの支払いのため、ともに多額の借金を追っている。

 「実習生」には3年という期限があり再入国できないので、失踪して不法就労する者が少なくないこと、さらには犯罪者予備軍になっていることなど、日本社会にとっては大きな問題だ。

これは「留学生」についても同様だ。 問題は、「実習生」や「留学生」という、タテマエの制度とは乖離した実態と、官僚機構によるピンハネ構造にある。「実習生」や「留学生」をカッコ書きで書いてきたのは、実態は実習生でも留学生でもないからだ。労働力不足だから外国人労働を導入するといえばいいものを、美辞麗句で糊塗するから問題が発生するのだ。まさに「裸の王様」である。

たとえ人手不足に苦しむ日本の雇用主がキチンとした処遇をしたとしても、送り出し国と受け入れ国(=日本)の双方で官僚機構がサヤを抜く構造になっているので、外国人労働者の手取りは極端に低い。手取りが少ないため、来日するためにした借金が返済できないのである。それは人権問題というよりも、端的にいってカネの問題であると著者は指摘している。

せっかくあこがれて日本に来たのに、実態とのギャップがあまりにも大きすぎるために、かえって日本が嫌いになって帰国している外国人労働者たちも少なくない。まことにもって残念なことであり、日本にとってはきわめて大きな損失だ。

現在は世界中で外国人労働者の奪い合い状況となっている。それは高度人材だけではない製造現場や介護など単純労働の現場では慢性的に労働力不足が続いている。日本の魅力がかつてに比べて大幅に減少している結果、そう遠くない将来には外国人労働者が集まらなくなる事態も予想されるのだ。これはじつに恐るべきことだ。日本人は認識を変えなくてはならない。

 「働き方改革」を政策課題として担当大臣まで設定する現政権だが、外国人労働についても考慮に入れなければならないのではないか? 労働問題は、日本人の正規と非正規だけではないのだ。外国人労働者がいなかれば社会全体がうまく回らない状況になっている状況を直視しなくてはならない。

 世の中の実態を知り、考えるために読むべき本である。





目 次

はじめに-復讐される日本
第1章 ベトナム人留学生という "現代の奴隷"
第2章 新聞・テレビが決して報じない「ブラック国家・日本」
第3章 日本への出稼ぎをやめた中国人
第4章 外国人介護士の受け入れが失敗した理由
第5章 日本を見捨てる日系ブラジル人
第6章 犯罪集団化する「奴隷」たちの逆襲
おわりに-英国のEU脱退と日本の移民問題

著者プロフィール

出井康博(いでい・やすひろ)
1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。 著書には『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<関連サイト>

もはや外国人の「ブラック労働」なしでは成り立たない新聞配達の過酷な現場 「奨学金留学制度」の功罪(出井康博、現代ビジネス、2016年8月26日)

外国人労働者が絶望する「ニッポンのブラック工場」の実態 安すぎる給料、過酷な労働条件…(出井康博、現代ビジネス、2016年8月25日)


(2016年8月27日 項目新設)


<ブログ内関連記事>

書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)-中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本

書評 『中国絶望工場の若者たち-「ポスト女工哀史」世代の夢と現実-』(福島香織、PHP研究所、2013)-「第二代農民工」の実態に迫るルポと考察

書評 『新・通訳捜査官-実録 北京語刑事 vs. 中国人犯罪者8年闘争-』(坂東忠信、経済界新書、2012)-学者や研究者、エリートたちが語る中国人とはかなり異なる「素の中国人」像

『ストロベリー・ロード 上下』(石川 好、早川書店、1988)を初めて読んでみた
・・外国人労働者としての日本人

書評 『仁義なき宅配-ヤマト vs 佐川 vs 日本郵便 vs アマゾン-』(小学館、2015)-宅配便の「送料無料」は持続可能なビジネスモデルか?

『移住・移民の世界地図』(ラッセル・キング、竹沢尚一郎・稲葉奈々子・高畑幸共訳、丸善出版、2011)で、グローバルな「人口移動」を空間的に把握する




(2012年7月3日発売の拙著です)







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