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2016年7月14日木曜日

書評 『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)-中国は「リーマンショック」後の2009年に「3つの間違い」を犯した


一昨日(2016年7月12日)、国際仲裁裁判から「中国の南シナ海領有に法的根拠なし」という審判が下された。

たいへん結構なことである。 だが、中国はそもそもなぜ、そのような無法なことをゴリ押ししてきたのか?

その理由を知りたければ、『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)を読むとその事情がよくわかる。

著者は、在野の軍事戦略の大家。軍歴もある実践派である。本書は、その立場から中国の動きを独自の視線で分析したものだ。「中国4.0」とは、中国の対外戦略の推移を4段階で読み解いたものである。

「中国1.0」で「平和的台頭」を行ってきた中国は、そのままその路線を続けていれば経済大国として世界中から歓迎されたはずだった。だが、暴走を初めてしまったのだ。「中国2.0-対外強硬路線」、さらには「中国3.0-選択的攻撃」へと、わずが15年のあいだに3度も対外方針を変更している。15年間で3度も方針を変更していては、外側からみたらあまりにも不安定に映るのは当然だ。しかも、その糸について疑惑さえ招きかねない。

どうやら、中国は「リーマンショック」(2008年)の翌年に大きな勘違いをしてしまったようなのだ。世界金融危機にまで至りかねない状況のなか、米国は経済的に「衰退」し、リーマンショック後に財政出動によって世界経済を「牽引」したのが中国であった。問題は、その際に中国は、「中国の時代」が前倒しに実現可能になったと勘違いし、舞い上がってしまったのである。「米中G2論」などという褒め殺しにも気がつかなかったのだ。

著者が指摘する「中国の戦略的誤り」は次の3点だ。①カネとチカラの混同、②線的(リニア)な予測の錯誤、③二国間関係の錯誤。以下、わたし流に解説しておこう。

①は、小国を「札束で引っぱたいて言うことを聞かせる」ということ。露骨だが効果的な方法である。中国が、とくにアフリカで独裁者をカネで買収してきたことは周知のとおりだ。かつて英国も米国も行ってきたことではある。だが、経済力と影響力はイコールではない経済力が縮小しながらも、いまだ英国は影響力をもっている。このような例は歴史的に多数ある。いまの中国はカネがあるが魅力はない。

②は、右肩上がりで成長し続けるという幻想のこと。バブル期とその後にわたって日本人も致命的な間違いを犯したことを想起すべきだろう。中国もその同じワナに捕らわれてしまったのだ。バブル期を知っているわたしのような人間からみれば、中国の勘違いによる傲慢さはじつに甚だしく、しかもじつに危うい。

①と②はわかりやすいが、③の「二国間関係の錯誤」は、ややわかりにくいかもしれない。著者独自の「逆説的論理」(paradoxical logic:パラドクシカル・ロジック)が適用されるものだ。「ある国が大きくなって、しかもそれが「平和的台頭」でなければ、台頭して強くなったおかげでかえって立場が弱くなること」を意味している。実際の世界には多数の国があり、二国間だけの純粋な関係というものは存在しないのである。合従連衡が発生するのがつねである。これはビジネス世界との大きな違いだ。

ある国が大国化すると周辺諸国に脅威を感じさせることになり、劣勢にある国を支援しようとする動きが必ず発生する。それが軍事同盟である。日露戦争前の日本もそうであった。当時の「小国」日本は日英同盟と米国の支援のおかげでロシアとの戦争に辛くも勝利できたのであった。だが、1930年代には「大国」化への途上にあった日本は大きな間違いを犯してしまう。英米を敵に回してしまったのだ。

南シナ海を「核心的利益」とする現在の中国共産党は、満蒙(=満洲+蒙古)を「帝国の生命線」とした大日本帝国と酷似している。「大陸国家の海洋進出」と、「海洋国家の大陸進出」は真逆の関係にあるが、身の程知らずという点において共通している。前者は中国、後者は日本のことである。2010年現在の中国は、1930年代の日本と同じ失敗をする可能性が高い。

このほか、本書には、ルトワック戦略論のエッセンスがふんだんにちりばめられている。たとえば「潜伏的効果」(latent effect)。民主主義国の米国が米国として存在しているが故に、民主主義政体をとらない中国には破壊的工作を行っているに等しいという。ルトワックは、戦略論の世界では意外なほど効果を発揮していると説くが、これはジョゼフ・ナイのいう「ソフトパワー」のことでもあろう。

中国人は、たとえどんな僻地に住んでいようが、米国大統領選のことを知っている。それに対して、政治的リ-ダーは自分たちが選んだわけではない。そこが、同じく強権政治を行っていながらも中国の習近平とロシアのプーチンとの大きな違いである。まがりなりにも、プーチンは自分たちが選んだリーダーだという意識がロシア人にはある。ソ連時代とは根本的に異なるのだ。その意味では、共産党独裁体制の中国は、いまだソ連段階なのである。

そして、「海洋パワー」(maritime power)と「シーパワー」(sea power)の違い。地政学でいう「シーパワー」は「ランドパワー」と対になる概念で、軍事力というハードパワーを想定している。これに対して、ルトワックのいう「海洋パワー」とは、「シーパワー」の上位概念で、自国以外の関係性で生まれるという。これもまた、「ソフトパワー」を含んだ概念であろう。「海洋パワー」は米国にはあるが、中国にはない。そう短時日に形成できるものではないからだ。

軍事戦略は、経営戦略とはイコールではないが、この本はじつに面白い。日本語版オリジナルの語り下ろしなので読みやすい。アタマの整理のために、ぜひ読むことを薦めたい。





目 次

日本の読者へ
序章 中国1.0-平和的台頭
第1章 中国2.0-対外強硬路線
第2章 中国3.0-選択的攻撃
第3章 なぜ国家は戦略を誤るのか?-G2論の破綻
第4章 独裁者、習近平の真実-パラメータと変数
第5章 中国軍が尖閣に上陸したら?-封じ込め政策
第6章 ルトワック戦略論のキーワード(奥山真司)


著者プロフィール

エドワード・ルトワック(Edward N. Lutwak)
ワシントンにある大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級顧問。戦略家、歴史家、経済学者、国防アドバイザー。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれのユダヤ系。イタリアやイギリス(英軍)で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学で学位を取った後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得。同年国防省長官府に任用される。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論。国防省の官僚や軍のアドバイザー、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーも歴任。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

訳者プロフィール

奥山真司(おくやま・しんじ)
1972年生まれ。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。英国レディング大学大学院博士課程修了。戦略学博士(Ph.D)。国際地政学研究所上席研究員。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<関連サイト>

「世界的戦略家が“大国中国”を斬る」-著者は語る(週刊文春WEB 2016.05.18)



<ブログ内関連記事>

書評 『パックス・チャイナ-中華帝国の野望-』(近藤大介、講談社現代新書、2016)-2012年に始まった「習近平時代」を時系列で振り返るとクリアに見えてくるもの

朗報! 国際仲裁裁判所が「中国の南シナ海支配にNO」の審判を下した(2016年7月12日)

「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」(1933年)-いかなる「離脱」も戦争の引き金とならないことを願う

「意図せざる結果」という認識をつねに考慮に入れておくことが必要だ
・・どうも中国は、自分の行為がいかなる結果を引き起こすかについての想像力を著しく欠いているようだ

書評 『それでも戦争できない中国-中国共産党が恐れているもの-』(鳥居民、草思社、2013)-中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」。戦争をすれば・・・
・・「戦争になったら、間違いなく中国共産党は滅びる。中国共産党=中華人民共和国である以上、「亡党亡国」となるのは必定なのである。」

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」
・・この記事に掲載した各種資料を参照

書評 『なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか-中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる-』(石平、PHP新書、2015)-首尾一貫した論旨を理路整然と明快に説く
・・「中華秩序」を破壊したのが近代日本であったという事実。これはしっかりとアタマのなかに入れておかねばならない。琉球処分と日清戦争における日本の勝利によって、「中華秩序」は破壊された。だからこそ、中国の指導者は絶対に日本を許せないのである。」

書評 『中国外交の大失敗-来るべき「第二ラウンド」に日本は備えよ-』(中西輝政、PHP新書、2015)-日本が東アジア世界で生き残るためには嫌中でも媚中でもない冷徹なリアリズムが必要だ

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則

書評 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)-軍事戦略の観点から尖閣問題を考える

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂聰、新潮社、2009)-「平成の林子平」による警世の書
・・海上保安庁巡視艇と北朝鮮不審船との激しい銃撃戦についても言及。海上保安官は命を張って国を守っている!

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)-国家ビジョンが不透明ないまこそ読むべき「現実主義者」による日本外交論
・・海は日本の生命線!

(2016年7月20日・21日・24日・25日 情報追加)



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