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2016年7月31日日曜日

都知事選で小池百合子候補が圧勝!-女性初の都知事誕生を祝す(2016年7月31日)

(NHKで当日午後8時放送の選挙速報より)

東京都民ではなくても全国レベルで関心の高い東京都知事選。なぜなら、東京は「一国の首都」だからだ。もちろん地方自治体ではあるが、単なる地方自治体ではない。

本日(2016年7月31日)は投票日だが、午後8時に終了した投票のすぐあとに始まった開票時点ですでに「当確」! 

バンザイ! バンザイ! バンザイ! しかも、すでにぶっちぎり状態。 よかった。よかった(^_^) 最終的にどこまで伸びるか楽しみだ(*注 を参照)。

都知事選への小池百合子議員の立候補、見事なまでにアッパレであった。 「後出しジャンケン」などという姑息な手段ではなく、退路を断ち切って崖から飛び降りる勝負度胸。神輿に乗るのではなく、自分で決めて自分で行動する。さすがオンナは強し。
   
もちろん勝算あっての一方的な既成事実作りということだったと思うが、選挙だけはやってみないとわからない。これぞ乾坤一擲(けんこんいってき)の大勝負というべきだろう。

まさに退路を断ったのである。「退路を断つ」は英語の該当表現では To burn the bridge behind. という。直訳すれば、「自分の後ろにある橋を燃やす」。もう引き返すことはできないのである。別の言い方をすれば「ルビコンを渡る」となる。かの有名なカエサルによるものだ。

そんなかで、「後出しジャンケン」という姑息な手段で担ぎ出された「自称ジャーナリスト」氏の目を覆うばかりの「自壊」現象、これまでの著作などをつうじて行ってきた持論とは真逆の主張に変節して組織の神輿にのった候補など、すでに戦いの帰趨(きすう)は小池候補が有利と見えていたのだが、だからこそ、単なる勝利ではなく、願うべきは「圧勝」だったのだ。


(*注) 最終的な投票率は59.73%、小池氏の得票数は 2,912,628(=約290万票)で、2位につけた自民党推薦の増田寛也氏(元総務大臣、元岩手県知事)を120万票差の「圧勝」だった。3位の鳥越俊太郎氏(ジャーナリスト)とは160万票差。3位との違いは、言い方を変えれば2倍である。圧勝といって言い過ぎ出ないのはこのためだ。逆にいえば、民進党(かつての民主党)と共産党を中核とした野党連合の「惨敗」である。都民をなめきっていたとしか言いようがない。2位も3位も、いずれも自民党、野党4党と、政党の推薦による組織票頼みのものであったが、無党派層の支持を得られなかったということだろう。有権者数全体の約1/3の290万票を獲得したことに意味は計り知れない。まさに小池百合子氏の「圧勝」である。これを「民意」といわずして、なにが民意か! (2016年8月1日 記す)


(出版当時はテレビキャスター 30歳の小池百合子氏)

原点は日本の大学を中退してのカイロ大学留学

小池百合子氏の原点といえばエジプトのカイロ大学留学。その体験を書いたのが処女作である『振り袖、ピラミッドを登る』(講談社、1982年)。いまから34年前の出版で、表紙カバーは当時30歳の著者。マイコレクションからのお蔵だし。

人がやらないことをやる行動力、当たって砕けろの精神というのが小池氏の真骨頂だとよくわかる内容。「第一作には著者のすべてが出る」といわれるが、そのとおりだというだろう。

タイトルの『振り袖、ピラミッドを登る』は、カイロ大学卒業にあたって実行したパフォーマンスのこと。監視の目をくぐってピラミッドに登り、そこで着物に着替えてお茶をたてた(!)というエピソードから。

卒業後にアラビア語の通訳として、当時のエジプト大統領サダト夫妻やPLOのアラファト議長や、リビアのカダフィ大佐との単独インタビューを実現させた話など、人となりをよく知るエピソードが多数書かれている。テレビの経済番組のキャスターをやる前はアラビア語通訳だったのである。

(『振り袖、ピラミッドを登る』(講談社、1982年)P.62 より)


千葉都民で元東京都民にとっての東京都知事選

わたくしは現在は都民ではないので「元都民」だが、都民歴は結構長い東京湾岸の船橋在住なので、いわゆる「千葉都民」というやつである。

東京都で住んだことがあるのは、少年時代の練馬区、三鷹市、大学時代の小平市、社会人になってからの杉並区、文京区。現在は東京都を「離脱」しているので、残念ながら投票できないので、SNS をつうじて小池氏への投票を呼びかけて間接支援を行った。組織のバックアップのない小池氏の戦いもまた、 SNS に大きく依存したものであった。

当選するとは思っていたが、やはり「圧勝」こそ今後の都政運営に大きな影響を与える。その意味でも、「圧勝」での勝利はまことに喜ばしい。都民のみなさん、ありがとうございました。

小池氏は女性初の東京都知事となる。先日には、イタリアの首都ローマ市長に弁護士の37歳の女性が選出されている。ユーロ離脱を主張する「五つ星運動」のヴィルジニア・ラッジ氏だ。意外と馬が合うのではないかな?

東京の顔は日本の顔でもある。日本国内の女性知事だけでなく、全世界を見回せば、このほかにも女性首長がいるだろう。国際的な連携も楽しみである。


PS 日本国民は直接選挙に飢えている!-今回の都知事選に読み取れるもの

組織に担がれた候補が優位性を発揮するのは、あくまでも平時においてのみ。今回の都知事選に限らず、すでに日本は有事モードにある。その意味では、今回の都知事選に現れた潮目の変化を軽視すべきではない

日本国民は、直接選挙や国民投票に飢えているのだ。英国や諸外国の国民投票をうらやましく思っているのだ。テーマがなんであれ、直接投票で一票を投じたい、そう思っている有権者少なくないことに気がつかなければならない。

憲法改正は改正内容の中身ではなく、国民投票の対象になることに意味がある。そのことを野党はまったく理解していないのだから、直接党ひょに参加したいという思いをも国民をバカにしているとしかいいようがない。それは今回の都知事選についても同じだ。

もちろん既得権を持つ既成の政治勢力にとっては、国民投票は諸刃の剣であることは理解はしているだろうが。 (2016年8月3日 記す)






<関連サイト>

小池百合子FBページ


「小池百合子氏圧勝」が証明した "DR" 戦争”の決着(門田隆将、BLOGOS、2016年8月2日)
・・Dとはジャーナリスト氏に代表される現実をみない夢見る「ドリーマー」のこと。これに対してRは、
「リアリスト」の略。Dの支持者は新聞とテレビが情報源の高齢者。若年層にDはほとんどいない。そもそもテレビも新聞も参照しないのがネット世代の特徴だ。

Tokyo gets its first female governor Yuriko Koike combines nationalism and a steely ambition (The Economist, Aug 2nd 2016)
・・本質においてフェミニストというよりもナショナリストという指摘は、この「英エコノミスト」記事のように日本国内よりも海外からの指摘に多い。小池氏の思想については深く知らないが、アラビア語をつうじての「アラブ・ナショナリズム」からの影響があるのではないかと、わたしは考えている。第4次中東戦争当時は、すでにナセルは死去していたが、PLOのアラファトも、エジプトのサダトも、リビアのカダフィも全盛期であったことは、上記の本文に記述したとおりである。さらにいえば、今回の都知事選で前面に打ち出したグリーン(緑)は、カダフィが唱えていた「緑色革命」を想起させる者があるのだが、それはうがち過ぎというものだろうか。

小池百合子都知事と台湾、知られざる「深い関係」(黄文雄、Mag2News、2016年8月4日)
・・こういう視点も面白い

(2016年8月3日・4日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

都知事経験者関連

書評 『憲法改正のオモテとウラ』(舛添要一、講談社現代新書、2014)-「立憲主義」の立場から復古主義者たちによる「第二次自民党憲法案」を斬る
・・非情によい主張をしていた舛添要一氏だが、人物があまりにもお粗末だったのはまことにもって残念な人

書評 『戦争・天皇・国家-近代化150年を問い直す-』(猪瀬直樹・田原総一郎、角川新書、2015)-「日米関係150年」の歴史で考えなければ日本という国を理解することはできない
・・「東京都知事としては失敗したが、現実問題に鋭く斬り込むジャーナリストとしては、まだまだ活躍してほしい。そういう思いを持っている人も少なくないと思う。そんな猪瀬直樹氏の最新刊が、一回り上の先輩ジャーナリスト田原総一郎氏との共著」

書評 『石原慎太郎-「暴走老人」の遺言-』(西条 泰、KKベストセラーズ、2013)-賛否両論はあるが、きわめて「一橋的」な政治家の軌跡をたどってみることに意味はある
・・いまや「暴走老人」ですらない石原慎太郎氏が、任期途中で退任したことから東京都知事が不安定になっていったのである


選挙関連

書評 『政治家やめます。-ある国会議員の十年間-』(小林照幸、角川文庫、2010)-向いてないのに跡を継いだ「二世議員」と激動の1990年代の日本政治

「西部邁(にしべすすむ)ゼミナール」と秋山祐徳太子
・・かつて東京都知事選に立候補し手泡沫候補と揶揄されたブリキアーチストで前衛芸術家の秋山祐徳太子氏には、『泡沫桀人列伝-知られざる超前衛-』(二玄社、2002)という本もある。

「意図せざる結果」という認識をつねに考慮に入れておくことが必要だ 
・・今回の都知事選でも、組織側の「意図した結果」とは真逆の「意図せざる結果」がもたらされたといえよう。いわゆる「逆効果」のことだ。政党による時代錯誤な締め付け、あからさまな誹謗中傷が無所属の小池候補をいじめているという印象を有権者に与えてしまったのだ。まことにもって愚かな話である


東京関連

「東京オリンピック」(2020年)が、56年前の「東京オリンピック」(1964年)と根本的に異なること(2014年3月18日)

書評 『東京劣化ー地方以上に劇的な首都の人口問題-』(松谷明彦、PHP新書、2015)-東京オリンピック後がこわい東京。東京脱出のすすめ!?

書評 『なぜローカル経済から日本は甦るのか-GとLの経済成長戦略-』(冨山和彦、PHP新書、2014)-重要なのはグローバルではなくローカルだ!


エジプト関連・アラブ関連

書評 『エジプト革命-軍とムスリム同胞団、そして若者たち-』(鈴木恵美、中公新書、2013)-「革命」から3年、その意味を内在的に理解するために

書評 『新月の夜も十字架は輝く-中東のキリスト教徒-』(菅瀬晶子、NIHUプログラムイスラーム地域研究=監修、山川出版社、2010) 
・・アラブ・ナショナリズムにつながるアラビア語復興運動は、聖書をアラビア語に翻訳する事業に携わったアラブ人キリスト教徒が指導的役割を果たした

(2016年8月3日 情報追加)



(2012年7月3日発売の拙著です)







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2016年7月30日土曜日

「土用の丑の日」だからといってウナギは食べません!

(サンマの蒲焼き缶詰で食べる丼もの)

本日(2016年7月30日)は土曜日でかつ「土用の丑の日」。だからといってウナギは食べません。

たしかに脂ののったウナギは旨い。だが、「絶滅危惧種指定」さえ視野に入っているウナギです。はたしてこれ以上食べ続けていいものかどうか? 

こう思うのは、けっして私がアマノジャクだからというばかりではありません。

「養殖ウナギ」ですら稚魚のシラスは天然物を捕獲するしかありません。ウナギは遠い太平洋で産卵するのです。現時点では、依然としてシラスは卵からの養殖が不可能です。

たとえ養殖ウナギの産地が日本だろうが、中国だろうが、台湾だろうが、もとはみな天然もののシラス卵から成魚までの完全な養殖技術は、21世紀の現在においても確立していないのです。

「土用の丑の日」だからウナギを食べるのは、ある意味では日本の「食文化」ではありますが、とくに科学的根拠があるわけではありません。江戸時代のマルチタレント平賀源内がうなぎ屋のために作成した宣伝コピーに由来するものであることは、比較的知られていることでしょう。

どうしても日本人は「土用の丑の日」だからウナギ、となりがちですが、この日の前後に大量に消費されるということは、この日に向けて大量に促成で養殖されているということ。つまり安全性にかんしても大いに疑問符をつけざるを得ません。

養殖技術の研究では日本のトップレベルを走る近畿大学で開発中の 「ウナギ味のナマズ」がまだ量産体制に入っていない以上、「サンマの蒲焼き」で代用するべきでありましょう。缶詰なら1つ100円程度。2つでも200円強。うまくて安いサンマの蒲焼き!

いや、サンマの蒲焼きはウナギの蒲焼きの代用品というべきではありません。それ自体に存在意義のある加工食品ですからね。







PS この投稿で、2112本目の記事となった。「21・12」とは左右対称。こういうシンメトリーはいいものだ。(2016年7月31日 記す)


<関連サイト>

土用の丑の日はいらない、ウナギ密輸の実態を暴く(WEDGE編集部 伊藤悟、ウェッジ、2016年7月28日)
・・この記事は必読!!! 「ウナギの取材を始めると、違法行為や業界のコンプライアンス意識の低さなどが次から次へと明らかになる。ニホンウナギは絶滅危惧種にも指定されており、もはや「今年も土用の丑の日がやってきました」などとお祭り騒ぎをしている状況ではない──。」

「土用の丑の日」が引き起こすウナギ業界の「異常」 台湾のウナギ業界幹部インタビュー(WEDGE編集部 今野大一、ウェッジ、 2016年0月30日)
・・「台湾は2007年にウナギの稚魚であるシラスの輸出を禁止した。しかし、日本の業者が香港を通じて台湾産のシラスを輸入して育て、「国産ウナギ」として販売されていることは業界公然の秘密である。「土用の丑の日」はこうした「違法シラス」によって支えられている面をもつが、こうした状況に台湾の業界団体である台湾区鰻魚発展基金会の郭瓊英元董事長は警鐘を鳴らす。」

(2016年8月3日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

おもしろ本の紹介 『アフリカにょろり旅』(青山 潤、講談社文庫、2009)-爆笑珍道中、幻のウナギ「ラビアータ」を捕獲せよ!

ウナギはイール-英単語のなかにウナギ(eel:イール)を探せ!

「地震とナマズ」-ナマズあれこれ

書評 『缶詰に愛をこめて』(小泉武夫、朝日新書、2013)-缶詰いっぱいに詰まった缶詰愛

書評 『食べてはいけない!(地球のカタチ)』(森枝卓士、白水社、2007)-「食文化」の観点からみた「食べてはいけない!」

「恵方巻き」なんて、関西出身なのにウチではやったことがない!-「創られた伝統」についての考察-

(2016年8月1日 情報追加)



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2016年7月23日土曜日

書評 『パックス・チャイナ-中華帝国の野望-』(近藤大介、講談社現代新書、2016)-2012年に始まった「習近平時代」を時系列で振り返るとクリアに見えてくるもの


『パックス・チャイナ-中華帝国の野望-』(近藤大介、講談社現代新書、2016)を通読してみた。中国と朝鮮半島を中心とする東アジア取材をライフワークとするジャーナリストによる書き下ろしである。
  
日々の情報を追っていると、「いま」の状態があたかも以前から続いているかのような錯覚を抱いてしまうが、それがあくまでも錯覚に過ぎないことは、過去を事実ベースで振り返るとよくわかってくる。それが歴史の効用というものだ。

そんな感想をあらためてもつのは、この本が習近平が就任した2012年11月から現在に至るまでの中国の国際関係を「中米関係」(または「米中関係」)を軸に時系列で追った内容だからだ。

読みながら、あのときはそうだったな、と思い起こしながらアタマを整理することができる。中国の歴史的トラウマと、建国の父・毛沢東にみずからをなぞらえ、ロシアの独裁的指導者プーチンをロールモデルとし、ソ連崩壊後のロシアモデルを手本にしてきた習近平の野望と悲願がどこにあるかを知ることもできる。

中国に対して厳しい弛度で望んだ元国務長官ヒラリー・クリントンが大統領に選出される(と予想される)2016年1月までに南シナ海の領有を完成させるという計画、さらにいえば、日本でも翻訳がでた『百年マラソン』(・・日本語版タイトルは『China 2049-秘密裏に遂行される「世界制覇100年戦略』)で知られるようになった、1949年の中華人民共和国建国から100年後の2049年に米国にとってかわって世界の覇権を握るという中国の秘密戦略。これらを事実関係に即してたどっていく。

どうしても日本国在住の日本人であるために、「日中関係」中心にものを見がちだが、強大化する中国の視野にあるのは、あくまでも米国である。「中米関係」あるいは「米中関係」である。中国からみれば、日本は北朝鮮とならんで「やっかいで手に負えない国」とみなされている。こういう視点は面白い。複眼的な視点を得ることができる。

国際関係と軍事を中心にしている本なので、経済の話はウェイトとしては小さいが、何事であれすべてに政治が優先するのが「社会主義市場経済」を標榜する中国であることを考えれば納得のいく話だろう。そもそも習近平自身が経済オンチ(!)なのだが、中国共産党の思考において、政治優先は習近平に限った話ではない。あくまでも政治のための経済である。

したがって、中国にとって経済もまた重要な政治カードである。それは「一帯一路」(One Belt, One Road)構想や、AIIB(=アジアインフラ投資銀行)のような構想だけでなく、チャイナマネーにものを言わせて黙らせるという手法だ。

これは、アフリカ諸国だけでなくアジア各国でも行われてきた。カンボジアやラオスはすでに完全に取り込まれている。日本人が「親日」と見なしているインドのモディ首相ですら、日中を天秤にかけていることを知らねばならぬ。AIIB創設に際して中国に屈服した英国やドイツをはじめとするEUについては言うまでもない。ただし、中国経済の魅力が陰れば、単なる空手形(からてがた)にしかならないのが、この単純明快な手法の限界である。カネの切れ目は縁の切れ目か。

タイトルの「パックス・チャイナ」というのは著者の造語。20世紀の覇権国・米国による「パックス・アメリカーナ」19世紀の覇権国・英国による「パックス・ブリタニカ」になぞらえたものだ。石平氏なら「中華秩序」と表現するだろう。正確にいえば「新・中華秩序」か。

1840年にアヘン戦争の敗北から動揺が始まり、1894年の日清戦争において西欧近代化の先兵となった日本によって破壊されたのが、中国中心の東アジア世界の国際秩序であった「冊封(さくほう)体制」(・・いわゆる華夷秩序)。その復活こそ中国の悲願なのである。ある意味、17世紀に西欧で生まれたウェストファリア体制への挑戦と考えることもできる。そもそも日本は江戸時代以来、中国の華夷秩序には属していなかった。

中国を好きか嫌いかにかかわりなく、中国の真の意図を知ることは日本人にとってきわめて重要。なぜなら、日本から見れば、中国こそ「やっかいで手に負えない国」だからだ。

このテーマに関心のある人にとっては、内容充実して、読んで面白い本だとおすすめしたい。




目 次

はじめに
序章 東方の二人の敵(2012年~2013年)
第1章 習近平外交始動(2013年)
第2章 東アジア緊迫(2013年秋~2014年春)
第3章 日米離反工作(2014年春~秋)
第4章 オバマの屈服(2014年後半)
第5章 日本外しの策謀(2015年)
第6章 ワシントンの屈辱(2015年秋)
終章 米中対決(2016年)

著者プロフィール


近藤大介(こんどう・だいすけ)
1965年生まれ、埼玉県出身。東京大学卒業後、講談社入社。中国、朝鮮半島を中心とするアジア取材をライフワークとする。講談社(北京)文化有限公司副社長を経て、現在『週刊現代』編集次長。『現代ビジネス』コラムニスト。『現代ビジネス』に連載中の『北京のランダムウォーカー』は300回を超え、日本で最も読まれる中国関連ニュースとして知られる。2008年より明治大学講師(東アジア論)も兼任。『中国経済「1100兆円破綻」の衝撃』『日中「再」逆転』『対中戦略』『「中国模式」の衝撃』他、著書多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。





<関連サイト>

チャイナマネーが「国際秩序」を買う-ASEAN外相会議一致困難 (遠藤誉、2016年7月25日)
・・「ラオスで開催されているASEAN外相会議で南シナ海に関する判決を共同声明に盛り込めないように、中国は早くからカンボジアとラオスを抱き込んでいた。南シナ海沿岸国でないASEAN内陸国を狙った中国の戦略を読む。」

(2016年7月25日 項目新設)

<ブログ内関連記事>

書評 『なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか-中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる-』(石平、PHP新書、2015)-首尾一貫した論旨を理路整然と明快に説く
・・「中華秩序」を破壊したのが近代日本であったという事実。これはしっかりとアタマのなかに入れておかねばならない。琉球処分と日清戦争における日本の勝利によって、「中華秩序」は破壊された。だからこそ、中国の指導者は絶対に日本を許せないのである。」

日清戦争が勃発してから120年(2014年7月25日)-「忘れられた戦争」についてはファクトベースの「情報武装」を!

朗報! 国際仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)が「中国の南シナ海支配にNO」の審判を下した!(2016年7月12日)

書評 『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)-中国は「リーマンショック」後の2009年に「3つの間違い」を犯した

書評 『それでも戦争できない中国-中国共産党が恐れているもの-』(鳥居民、草思社、2013)-中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」。戦争をすれば・・・
・・「戦争になったら、間違いなく中国共産党は滅びる。中国共産党=中華人民共和国である以上、「亡党亡国」となるのは必定なのである。」

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」
・・この記事に掲載した各種資料を参照

書評 『中国外交の大失敗-来るべき「第二ラウンド」に日本は備えよ-』(中西輝政、PHP新書、2015)-日本が東アジア世界で生き残るためには嫌中でも媚中でもない冷徹なリアリズムが必要だ

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則

書評 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)-軍事戦略の観点から尖閣問題を考える

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂聰、新潮社、2009)-「平成の林子平」による警世の書
・・海上保安庁巡視艇と北朝鮮不審船との激しい銃撃戦についても言及。海上保安官は命を張って国を守っている!

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)-国家ビジョンが不透明ないまこそ読むべき「現実主義者」による日本外交論
・・海は日本の生命線!

(2016年7月24日 情報追加)



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2016年7月22日金曜日

不動産王ドナルド・トランプがついに共和党の大統領候補に指名(2016年7月21日)-75分間の「指名受諾演説」をリアルタイムで視聴して思ったこと


指名されることはわかっていたが、正式に指名されたとなると、今度こそほんとうに冗談では済まされなくなる。"Make America Great Again !" を選挙スローガンにする不動産王ドナルド・トランプが正式に共和党の大統領候補として指名され、「指名受諾演説」(Nomination Acceptance Speech)を行った。

オハイオ州クリーブランドで開催中の「共和党全国党大会」で、日本時間の本日(2016年7月22日)午前11:30から行われた「指名受諾演説」は、なんと75分にも及んだ。ニュースによれば史上最長だそうだ。それにしても声もかすれることなく、しゃべりまくったエネルギーには感服する。これはトップに立つ者にとって重要な要素だ。

たまたま本日は外出の用事が入っていなかったので、最初から最後まで昼飯も食べずにリアルタイムで視聴したのだが、営業マンの成功セオリーどおりの真っ赤なネクタイで登場したトランプの独演会のような感じの演説は、さすがに場慣れているというか、じつに印象深いものであった。

聴衆というか共和党員のファンをその気にさせる、情熱的で絶妙なトーク。その巻き込むチカラは強力で、PC越しにネットで視聴しても思わず引き込まれてしまう。現地でライブ参加なら、なおさらだろう。言葉遣いもシンプルで、わたしでも耳で聞くだけでほぼ100%理解できる口語体の英語だ。

もし自分が保守的で、平均的なアメリカ人で、国際がらみの仕事などしていなかったら、トランプを支持するだろう。なによりもまず、国内治安(law and order : 法と秩序)を最重視する姿勢に賛同するからだ。これはアメリカ人にとっては切実な問題だ。トランプの施策がどこまで現実的であるかは、この際あまり関係ない。問題提起すること、取り組む姿勢を前面に打ち出すことじたいに意義がある。

「忘れられたアメリカ人たちの声」(the voice of forgotten Americans)を体現するとトランプは言う。この表現はじつに印象的だ。サイレントマジョリティの声なき声を拾い上げるという姿勢は、民主主義そのものである。ポピュリズムとして一刀両断するのは間違っている。

日本がらみの話題ではないので日本のマスコミは報道してないが、わたしが驚いたのは、支持層を拡大するためだろうか、フロリダのナイトクラブの銃撃事件に関連してLGBT寄りの発言をしたことだ。LGBTとは、レズ・ゲイ・バイセクシュアル・トランジェンダーの略。性的マイノリティのことである。共和党の党大会で、この発言が大歓迎されたことは意外な驚きだった。ペイパルの創業者ピーター・ティールは、ゲイを公言しているリバタリアンだがトランプ支持を表明している。トランプの発言と符合するわけか。トランプが共和党の保守本流ではない証拠である。

党大会のようなライブでの演説は、内容の支持の度合いが、聴衆の拍手や歓声の大きさ、あるいはブーイングで手に取るようにわかる。ビデオを使用して、政策の一つ一つごとにレスポンスの音声分析をしてみるといいだろう。

トランプの名前は、わたしは1980年代前半から知っている。日本でも「不動産王トランプ」の名前はその頃から知られていた。だからどうしても「昔の名前で出ています」という印象がぬぐえない。トランプの主張で、とくに日本がらみの貿易摩擦関連の発言は、どうも1980年代の「日米関係が熱かった」時代で思考停止しているような印象さえ受けるのだ。今回の演説では、もっぱら中国が言及されていたが。

もちろん自分は日本国民なので、とくに安全保障にかんしては、日本にとってトランプが望ましい候補だとは思わないが、かといってヒラリーがよいかとは必ずしもいえない。あえていえばヒラリーのほうが「よりまし」といった程度か。最悪よりはまし、という程度である。アメリカ人にとっても、好き嫌いが大きく分かれる両候補である。

共和党が一致団結しておらず、もし仮にトランプが大統領に選出されても、就任してからは現実的な対応を取らざるを得ないので、さすがにクチでいっているほど過激にはなれないだろうという「希望的観測」もある。そもそも機を見て敏な特性をもつ起業家だ。しかも、大きなディールに取り組むことも多い不動産業者である。だが、実業家のセンスが政治家として功を奏するか、これだけはじっさいに大統領に就任して3ヶ月以上たってみないとわからない。楽観は禁物だ。

投票日までこれから3ヶ月を切っており、2016年11月8日にトランプ大統領誕生という「悪夢」(?)が実現しないことを願うのみだ。だが、結果がどうでるかは、現時点ではまったくわからない。

きわめて大きな影響を被るのに、残念ながら大統領選には日本国民には投票権がない。国民投票ができるアメリカ人がうらやましい。日本国民としてできることは、いまから自分なりのシナリオを描いておくだけだ。



PS 指名受諾演説以後のトランプ候補

指名受諾演説以後のトランプ候補は、ふたたび暴言ぶりが復活。とくに、国のために命を捧げた米国兵士の両親がムスリムであることを理由に誹謗中傷した言動が猛烈な批判を呼んでいる。これはまことにもって愚かな言動といわざるを得ない。トランプ候補は無意識にこういった言動を行っているのか、それとも自滅を意図して行っているのか? いずれにせよ、宗教がなんであれ、アメリカ国民を冒涜する言動は大統領としての資格に大いに疑問を抱かせる。指名受諾演説では猫をかぶっていたのか? トランプという人物は理解不可能なところがある。(2016年8月4日 記す)。


PS2 ペンシルバニア大学ウォートン校卒業のドナルド・トランプ
 
ドナルド・トランプ氏の学歴について、ペンシルバニア大学ウォートン校卒業とあるので、てっきりMBAだと思っていたがそうではないようだ。

ウォートン校といえばファイナンス分野のMBAというのが、MBAホールダーやその予備軍の「常識」だと思うが、調べてみればウォートン校には学部(undergraduate)もあるようだ。wikipedia英語版には、Born and raised in New York City, Trump received a bachelor's degree in economics from the Wharton School of the University of Pennsylvania in 1968. とある。経済学専攻で学士(バチェラー)とある。

ウォートン校の項目を見てみると(英語版)、2016年現在の在籍数は、Undergraduates(学部): 2,306人、Postgraduates(大学院): 1,671人 とあり、学部生のほうが多いことがわかる。

トランプが大統領になったら、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)卒業のジョージ・ブッシュ(ジュニア)につづいてMBAホールダーの大統領誕生かと思ったが、そうではなかったわけだ。とはいえ、もしトランプが大統領となれば、弁護士出身者以外の大統領となるわけで、その意味でも最近の傾向とははずれることになるわけである。 (2016年9月21日 記す)



*1980年代に日本で翻訳出版された『トランプ自伝』の新訳文庫版(2008年)が、2016年きゅうきょ増刷。




<関連サイト>

 【共和党大会現地レポート】 「ふつうの共和党候補」化していくトランプ お行儀が良くなった!?(渡辺将人、2016年7月23日)
・・民主党で大統領選スタッフとして働いた経験をもつ研究者による現地リポート。この記事によれば、まずはヒラリー当選阻止で共和党の結束を図り、そのためにトランプは共和党のフレームのなかで中和化されたことがうかがわれる

(2016年7月23日 項目新設)

「強い」オバマが摑んだ 新潮流に乗っかるトランプ(横江公美 (政治アナリスト)、ウェッジ、 2016年7月23日)
・・この記事は必読。オバマ政権8年の「チェンジ」がアメリカ政治の潮目を変えたこと、トランプもヒラリーもその延長線上にあることが理解できる。

If Trump Wins, Asia Loses South Korea, Philippines are most at risk in Asia if trade barriers rise (BloombergBusinessWeek、July 26, 2016)
・・米国の最大の貿易相手は中国だが、TPPが批准されないと韓国とフィリピンがもっとも大きな影響を受けるという調査結果。韓国は米国とのFTA、フィリピンはコールセンターなどBPO(ビジンス・プロセス・アウトソーシング)の分野で打撃

現地報告 共和党全国大会(上)-ハイライト、トランプの指名受託演説 (東京財団上席研究員・現代アメリカプロジェクトリーダー、東京大学教授・久保文明、東京財団)

現地報告 2016年共和党全国大会(下)-トランプ支持率が6%上昇(同上)

トランプの意味する「法と秩序の回復」 (海野素央、ウェッジ、2016年7月27日)

トランプ人気が急加速、悪役クルーズ登場が契機に 受け狙いの米国・日本のメディアが伝えない真の潮流(堀田佳男、ウェッジ、2016年7月29日)
・・「現地で見聞きしたこととメディアで報道されている内容の違いが目にとまった」  現地で体験した人ならではの、」8割方リベラル派が占めるジャーナリズムとは違う感想が伝えられる。この感想は、トランプの「指名受諾演説」を視聴したわたしの感想だ。共和党は、とにかくヒラリー阻止でまとまったと伝える

The dark history of Donald Trump's rightwing revolt (Timothy Shenk, The Guardian, 2016年8月16日)
・・「The Republican intellectual establishment is united against Trump – but his message of cultural and racial resentment has deep roots in the American right」

(2016年7月25日・27日・28日・29日、9月4日 情報追加)


<参考>


米大統領選 民主党クリントン氏の受諾演説 日本語訳を全文掲載(NHK NEWS WEB、2016年7月30日)
・・ヒラリー・クリントンについては受諾演説の全文紹介があるが、なぜかドナルド・トランプについては存在しない。NHKおよび政権の意向の反映か?

(2016年8月3日 項目新設)




<ブログ内関連記事>

米国大統領選でドナルド・トランプ氏が劇的な逆転勝利(2016年11月9日)-米国はきょうこの日、ついに「ルビコン」を渡った
・・「民意」が示されたのである。「英国のEU離脱」(Brexit)につづいてアングロサクソンの米国においても「民意」が示されたのである。その根幹にあるのは「反・知性主義」。「もし自分がアメリカ人ならトランプに投票する」とわたしはブログ記事で書いたが、アメリカ人の多くがそう考えてトランプ氏に投票したのである。

「是々非々」(ぜぜひひ)という態度は是(ぜ)か非(ひ)か?-「それとこれとは別問題だ」という冷静な態度をもつ「勇気」が必要だ
・・「「是々非々というのは正しい大人の態度ではない。選挙であれば政策単位で投票するのではなく、一人の候補者に投票するのだから「是々非々」なんてありえないのだ」、と主張する人もいる。「一人の候補者に投票する」というのはただしい。だが、「政策単位で投票」行動を考えるべきである。属人的な意思決定ではなく、あくまでも「期待される成果」を選択基準とするべきではないか?」

書評 『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)-アメリカの知られざる「政治思想家」たち
・・米国の政治思想地図が参考になる




書評 『反知性主義-アメリカが生んだ「熱病」の正体-』(森本あんり、新潮選書、2015)-アメリカを健全たらしめている精神の根幹に「反知性主義」がある
・・米国の「反知性主義」は「知性」そのものへのアンチではなく、「知性」が「権力」と結びつくことへの異議申し立てであることに注意!

米国は「熱気」の支配する国か?-「熱気」にかんして一読者の質問をきっかえに考えてみる
・・「オバマケア」をめぐる論争について2009年に考えたこと

書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)-日本人を無意識のうちに支配する「見えざる2つのチカラ」。日本人は 「空気」 と 「世間」 にどう対応して生きるべきか?
・・ヒラリー大統領誕生を願望した「空気」がマスコミとネット空間にtyくられていた

映画 『アメリカン・スナイパー』(アメリカ、2014年)を見てきた-「遠い国」で行われた「つい最近の過去」の戦争にアメリカの「いま」を見る

日米関係がいまでは考えられないほど熱い愛憎関係にあった頃・・・(続編)-『マンガ 日本経済入門』の英語版 JAPAN INC.が米国でも出版されていた

アンクル・サムはニューヨーク州トロイの人であった-トロイよいとこ一度はおいで!・・「アンクル・サム伝説が生まれたのは、1812年の米英戦争(・・第二独立戦争ともいう)がキッカケ」

映画 『正義のゆくえ-I.C.E.特別捜査官-』(アメリカ、2009年)を見てきた

書評 『沈まぬアメリカ-拡散するソフト・パワーとその真価-』(渡辺靖、新潮社、2015)-アメリカの「ソフトパワー」は世界に拡散して浸透、そしてアメリカに逆流する
・・トランプの主張は、アメリカ全体を「ゲーテッド・シティ」に変えるという発想か?

『愛と暴力の戦後とその後』 (赤坂真理、講談社現代新書、2014)を読んで、歴史の「断絶」と「連続」について考えてみる

『動員の革命』(津田大介)と 『中東民衆の真実』(田原 牧)で、SNS とリアル世界の「つながり」を考える

起業家が政治家になる、ということ

(2016年7月25日、8月6日、12月1日・4日 情報追加)



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2016年7月14日木曜日

書評 『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)-中国は「リーマンショック」後の2009年に「3つの間違い」を犯した


一昨日(2016年7月12日)、国際仲裁裁判から「中国の南シナ海領有に法的根拠なし」という審判が下された。

たいへん結構なことである。 だが、中国はそもそもなぜ、そのような無法なことをゴリ押ししてきたのか?

その理由を知りたければ、『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)を読むとその事情がよくわかる。

著者は、在野の軍事戦略の大家。軍歴もある実践派である。本書は、その立場から中国の動きを独自の視線で分析したものだ。「中国4.0」とは、中国の対外戦略の推移を4段階で読み解いたものである。

「中国1.0」で「平和的台頭」を行ってきた中国は、そのままその路線を続けていれば経済大国として世界中から歓迎されたはずだった。だが、暴走を初めてしまったのだ。「中国2.0-対外強硬路線」、さらには「中国3.0-選択的攻撃」へと、わずが15年のあいだに3度も対外方針を変更している。15年間で3度も方針を変更していては、外側からみたらあまりにも不安定に映るのは当然だ。しかも、その糸について疑惑さえ招きかねない。

どうやら、中国は「リーマンショック」(2008年)の翌年に大きな勘違いをしてしまったようなのだ。世界金融危機にまで至りかねない状況のなか、米国は経済的に「衰退」し、リーマンショック後に財政出動によって世界経済を「牽引」したのが中国であった。問題は、その際に中国は、「中国の時代」が前倒しに実現可能になったと勘違いし、舞い上がってしまったのである。「米中G2論」などという褒め殺しにも気がつかなかったのだ。

著者が指摘する「中国の戦略的誤り」は次の3点だ。①カネとチカラの混同、②線的(リニア)な予測の錯誤、③二国間関係の錯誤。以下、わたし流に解説しておこう。

①は、小国を「札束で引っぱたいて言うことを聞かせる」ということ。露骨だが効果的な方法である。中国が、とくにアフリカで独裁者をカネで買収してきたことは周知のとおりだ。かつて英国も米国も行ってきたことではある。だが、経済力と影響力はイコールではない経済力が縮小しながらも、いまだ英国は影響力をもっている。このような例は歴史的に多数ある。いまの中国はカネがあるが魅力はない。

②は、右肩上がりで成長し続けるという幻想のこと。バブル期とその後にわたって日本人も致命的な間違いを犯したことを想起すべきだろう。中国もその同じワナに捕らわれてしまったのだ。バブル期を知っているわたしのような人間からみれば、中国の勘違いによる傲慢さはじつに甚だしく、しかもじつに危うい。

①と②はわかりやすいが、③の「二国間関係の錯誤」は、ややわかりにくいかもしれない。著者独自の「逆説的論理」(paradoxical logic:パラドクシカル・ロジック)が適用されるものだ。「ある国が大きくなって、しかもそれが「平和的台頭」でなければ、台頭して強くなったおかげでかえって立場が弱くなること」を意味している。実際の世界には多数の国があり、二国間だけの純粋な関係というものは存在しないのである。合従連衡が発生するのがつねである。これはビジネス世界との大きな違いだ。

ある国が大国化すると周辺諸国に脅威を感じさせることになり、劣勢にある国を支援しようとする動きが必ず発生する。それが軍事同盟である。日露戦争前の日本もそうであった。当時の「小国」日本は日英同盟と米国の支援のおかげでロシアとの戦争に辛くも勝利できたのであった。だが、1930年代には「大国」化への途上にあった日本は大きな間違いを犯してしまう。英米を敵に回してしまったのだ。

南シナ海を「核心的利益」とする現在の中国共産党は、満蒙(=満洲+蒙古)を「帝国の生命線」とした大日本帝国と酷似している。「大陸国家の海洋進出」と、「海洋国家の大陸進出」は真逆の関係にあるが、身の程知らずという点において共通している。前者は中国、後者は日本のことである。2010年現在の中国は、1930年代の日本と同じ失敗をする可能性が高い。

このほか、本書には、ルトワック戦略論のエッセンスがふんだんにちりばめられている。たとえば「潜伏的効果」(latent effect)。民主主義国の米国が米国として存在しているが故に、民主主義政体をとらない中国には破壊的工作を行っているに等しいという。ルトワックは、戦略論の世界では意外なほど効果を発揮していると説くが、これはジョゼフ・ナイのいう「ソフトパワー」のことでもあろう。

中国人は、たとえどんな僻地に住んでいようが、米国大統領選のことを知っている。それに対して、政治的リ-ダーは自分たちが選んだわけではない。そこが、同じく強権政治を行っていながらも中国の習近平とロシアのプーチンとの大きな違いである。まがりなりにも、プーチンは自分たちが選んだリーダーだという意識がロシア人にはある。ソ連時代とは根本的に異なるのだ。その意味では、共産党独裁体制の中国は、いまだソ連段階なのである。

そして、「海洋パワー」(maritime power)と「シーパワー」(sea power)の違い。地政学でいう「シーパワー」は「ランドパワー」と対になる概念で、軍事力というハードパワーを想定している。これに対して、ルトワックのいう「海洋パワー」とは、「シーパワー」の上位概念で、自国以外の関係性で生まれるという。これもまた、「ソフトパワー」を含んだ概念であろう。「海洋パワー」は米国にはあるが、中国にはない。そう短時日に形成できるものではないからだ。

軍事戦略は、経営戦略とはイコールではないが、この本はじつに面白い。日本語版オリジナルの語り下ろしなので読みやすい。アタマの整理のために、ぜひ読むことを薦めたい。





目 次

日本の読者へ
序章 中国1.0-平和的台頭
第1章 中国2.0-対外強硬路線
第2章 中国3.0-選択的攻撃
第3章 なぜ国家は戦略を誤るのか?-G2論の破綻
第4章 独裁者、習近平の真実-パラメータと変数
第5章 中国軍が尖閣に上陸したら?-封じ込め政策
第6章 ルトワック戦略論のキーワード(奥山真司)


著者プロフィール

エドワード・ルトワック(Edward N. Lutwak)
ワシントンにある大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級顧問。戦略家、歴史家、経済学者、国防アドバイザー。1942年、ルーマニアのトランシルヴァニア地方のアラド生まれのユダヤ系。イタリアやイギリス(英軍)で教育を受け、ロンドン大学(LSE)で経済学で学位を取った後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で1975年に博士号を取得。同年国防省長官府に任用される。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論。国防省の官僚や軍のアドバイザー、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーも歴任。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

訳者プロフィール

奥山真司(おくやま・しんじ)
1972年生まれ。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学卒業。英国レディング大学大学院博士課程修了。戦略学博士(Ph.D)。国際地政学研究所上席研究員。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<関連サイト>

「世界的戦略家が“大国中国”を斬る」-著者は語る(週刊文春WEB 2016.05.18)



<ブログ内関連記事>

書評 『パックス・チャイナ-中華帝国の野望-』(近藤大介、講談社現代新書、2016)-2012年に始まった「習近平時代」を時系列で振り返るとクリアに見えてくるもの

朗報! 国際仲裁裁判所が「中国の南シナ海支配にNO」の審判を下した(2016年7月12日)

「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」(1933年)-いかなる「離脱」も戦争の引き金とならないことを願う

「意図せざる結果」という認識をつねに考慮に入れておくことが必要だ
・・どうも中国は、自分の行為がいかなる結果を引き起こすかについての想像力を著しく欠いているようだ

書評 『それでも戦争できない中国-中国共産党が恐れているもの-』(鳥居民、草思社、2013)-中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」。戦争をすれば・・・
・・「戦争になったら、間違いなく中国共産党は滅びる。中国共産党=中華人民共和国である以上、「亡党亡国」となるのは必定なのである。」

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」
・・この記事に掲載した各種資料を参照

書評 『なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか-中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる-』(石平、PHP新書、2015)-首尾一貫した論旨を理路整然と明快に説く
・・「中華秩序」を破壊したのが近代日本であったという事実。これはしっかりとアタマのなかに入れておかねばならない。琉球処分と日清戦争における日本の勝利によって、「中華秩序」は破壊された。だからこそ、中国の指導者は絶対に日本を許せないのである。」

書評 『中国外交の大失敗-来るべき「第二ラウンド」に日本は備えよ-』(中西輝政、PHP新書、2015)-日本が東アジア世界で生き残るためには嫌中でも媚中でもない冷徹なリアリズムが必要だ

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則

書評 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)-軍事戦略の観点から尖閣問題を考える

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂聰、新潮社、2009)-「平成の林子平」による警世の書
・・海上保安庁巡視艇と北朝鮮不審船との激しい銃撃戦についても言及。海上保安官は命を張って国を守っている!

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)-国家ビジョンが不透明ないまこそ読むべき「現実主義者」による日本外交論
・・海は日本の生命線!

(2016年7月20日・21日・24日・25日 情報追加)



(2012年7月3日発売の拙著です)









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2016年7月13日水曜日

朗報! 国際仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)が「中国の南シナ海支配にNO」の審判を下した!(2016年7月12日)」


まさに朗報! この審判を待っていたのだ。産経新聞が「号外」を出していることを知ったので、ここに掲載しておこう。【産経新聞号外】 中国の南シナ海支配認めず 仲裁裁判所判決(2016年7月12日)  である。

内容は、中国共産党が主張する「九段線」は認められないというものだ。ちょうど牛タンのような下達をした九段線の内側、つまり南シナ海のほぼ全域を対象に管轄権を主張し、人工島を造成するなど実効支配を強めている中国の主張には歴史的根拠はなく、いっさい認められないという審判内容だ。

中国共産党の主張に国際法上の法的根拠なし! 歴史的根拠なし! 「天網恢々(てんもうかいかい)疎(そ)にして漏らさず」。このフレースを中国に差し上げようではないか!

発表を受けてフィリピン政府は歓迎の声明、米国政府も審判内容に法的拘束力あり、としている。



このニュースの意味は日本人が想像する以上に大きい。この画像は、シンガポールの Channel NewsAsia のLIVEニュースからキャプチャしたもの(2016年7月12日)。フィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシアが直接かかわってくる問題だ。

たしかに東シナ海は、日本にとっての直接的な脅威であるが、南シナ海もまた、日本の生存と密接な関係がある。南シナ海は東シナ海とつながってからだが、それだけではない。

南シナ海は、日本のシーレーンであり、この海域を通過する日本の船舶にとって最重要な海域の一つである。日本の輸出入の7割は海上輸送に頼っており、とくに石油という戦略物資はタンカーによってこのルートを通るのである。原発依存が急減している現在、発電用燃料としての石油依存が高止まりしている現在の日本にとって、南シナ海の平和は、まさに死活的な問題である。

もしこの海域で大規模な武力衝突が発生すれば、輸入物資の高騰が日本人の生活を苦しめることにもなるのである。

(中国が勝手に線引きしている「第一列島線」と「第二列島線」 wikipedia より)

しかし、中国共産党は、審判内容を紙くずだといって強弁している。よほど衝撃が大きいのだろう。犬の遠吠えというやつである。

中国共産党は、南シナ海を「核心的利益」としている。まことにもって勝手な話である。戦前の日本は、満蒙(=満洲と蒙古)を「帝国の生命線」としていた。

そう考えると、2010年代の中国にとって南シナ海は、戦前の1930年代の日本にとっっての満洲と同等の価値と意味をもつことになる。中国にとっての南シナ海は、ある意味では「海の満洲」というべきか。これは単なるアナロジーとして考えるには、あまりにも危険だ。

「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」(1933年)-いかなる「離脱」も戦争の引き金とならないことを願う にも書いたが、国際連盟の常任理事国であったは日本は、満州における利権を批判した英国のリットン調査団の報告書が、常任理事国あった日本の反対を押し切って国際連盟で採択されたため、国際連盟を脱退した。1933年のことだ。

国際連合(=国連)の常任理事国である中国は、2016年に下された 国際仲裁裁判所が「中国の南シナ海支配に法的根拠なし」の審判を拒否して、国際海洋法(?)を離脱することがありえるか?

冷静に思考すれば、そんなことはあり得ないというのが大方の見方であろう。しかし、何度も述べているように、戦前の日本という歴史上の実例がある以上、荒唐無稽な妄論として排除できるだろうか?? たかだか83年前のことである。もちろん当時の生き証人はいないとはいえ、歴史を振り返れば、日本人の多くはこの教訓は身にしみて痛感しているが、中国には通用しない話かもしれない。

日本は、硬軟両面で、中国に国際ルールを守らせることが重要である。おかしな妥協は敗北主義への道である。英国の首相チェンバレンがヒトラーに対して宥和主義で臨んだ「ミュンヘン会談」の轍を踏まないことが重要だ。後悔先に立たず、である。

中国が無法者であることが国際的に明らかになったわけだが、とはいえ、あまり追い詰めすぎると、国際的に孤立した中国が暴発する可能性もある。追い詰めすぎずに国際ルールを学ばせることが求められる。中国にとって面子(メンツ)をつぶさずに妥協できる落としどころを見つける必要があるのだが、難しい課題であることは否定できない。

日本人は、すでに「戦争前夜」であり、「準戦時状態」という覚悟をもたなければならない。いつ戦争になってもおかしくないし、もしかすると自制心を失った中国は、軍事的に敗北するまで目覚めないかもしれないからだ。







<関連サイト>

南シナ海めぐる対立-基礎知識-(NHK)

フィリピンからのメッセージ 「中国に立ち向かいますので応援お願いします」 ついに始まった国家総出の「法律戦」 (松本太、JBPress、2014年4月9日)

中国が渇望する「南シナ海有事」に備えよ 日中外相会談、4時間20分の「先」を読む (福島香織、日経ビジネスオンライン、2016年5月4日)
習近平が局地的な軍事衝突を望んでいるのではないか、と想像するのは、鄧小平の先例に倣おうというのではないか、という見方だ。・・中略・・ 文革終了によって復活した鄧小平は、文革で混乱した軍の整理に着手するが、その過程で自分が信頼する第二野戦軍出身の将校を重用、その人事の正当性を戦争に勝利するという形で認めさせることが軍権掌握の早道であった。・・中略・・ 今の南シナ海は非常に危機的な状況であると認識すべきである。キューバ危機のように、ぎりぎりのところで回避されるかもしれないし、中越戦争のように本当に局地戦が起きるかもしれない。だが具体的なことを少しは想像しておくことだ。

南シナ海問題、裁定を「紙くず」と切り捨てる中国 「アメリカ黒幕説」を展開する理由 (石平、ウェッジ、2016年7月14)
・・「一連の批判の中で、中国政府や国営メデイアは裁定を口々に「茶番」や「紙くず」だと切り捨てている。しかし裁定が単なる「茶番」や「紙くず」なら、中国政府と国営メディアはそこまで猛烈な反撃に出る必要はないだろう。中国側がそれほど神経質になって総掛かりの反撃キャンペーンを展開していること自体、裁定の結果が中国政府にとっての深刻なボディブローとなって効いていることの証拠である。中国政府は当初から、裁定の結果を一切拒否する方針であった。しかしここまでくると、騒げば騒ぐほどいわば「無法国家」としてのイメージを国際社会に定着させていくだけで、中国の国際社会からの孤立はますます進むだろう。」

中国、南シナ海領有権否定判決で日米がとるべき姿勢 (田岡俊次・軍事ジャーナリスト、ダイヤモンドオンライン、2016年7月14日)
・・米中対立は日本には不利。米中の落としどころはどこかを探る

仲裁裁判所の南シナ海判決尊重を フィリピンが中国に呼びかけ (BBCジャパン、2016年7月14日)

「全面敗北」皮肉な結果を生んだ強国路線のツケ 南シナ海仲裁判決を絶対受け入れない習近平の危機感 (城山英巳、ウェッジ、2016年7月16日)
・・「中国は西側諸国から圧力が加えられればより意固地になり、独自の道を歩む。習近平指導部は「宣伝戦」「外交戦」「軍事戦」を駆使し、伝統的な「統一戦線」と「持久戦」で危機を乗り切る戦略を展開するだろう。」

南シナ海仲裁判決、中国の「次の一手」に備えよ 「判決無視」を許せば、世界は暴走を止める術を失う (福島香織、日経ビジネスオンライン、 2016年7月20日)
・・「中国側は、南シナ海判決については、世界60か国近くが中国側を支持し、日本の平和主義的元首相も判決がアンフェアだと見ていることなどを根拠に、正義は中国にあり、国際常識・国際秩序のルールメーカーは中国であるとの立場を国内で喧伝しているわけである。これは従来の国連主導、米国主導の国際秩序、国際常識に対するある種の“宣戦布告”ともいえる。・・中略・・ 現在の国際ルールは、すでに無力化し、強大な軍事力と経済力を持つ国が粗暴な恫喝と懐柔で、新たなルールメーカーになろうとしている。南シナ海における今の中国の動きは、そういう意味もあるのだと想像する。」

どう動くのか中国、南シナ海の判決受け (中国問題研究家・遠藤誉が斬る、2016年7月13日)
・・「ここまで明確に、しかも断定的に言い切る判決が出たことは、世界にとっても「爽快な驚き」をもたらすものだが、南シナ海の領有権を軸の一つとして世界への覇権を主張することによって国内における求心力を高めようとしてきた習近平政権にとっては、計り知れない打撃だ。一党支配体制を揺るがしかねない。常設仲裁裁判所は、国際司法裁判所と違って、国連の管轄下ではない。そのため、異議があった時に国連安保理理事会に申し立てることはできないし、また国連加盟国であるが故の拘束力は持ちえない。さらに国際司法裁判所なら提訴されたときに「受けない」と拒否できるが、常設仲裁裁判所の場合は、裁判所に判断が委ねられるために拒否できないのだ。今般のフィリピンの提訴は、二つの点において実に賢明であった。・・中略・・ アメリカはレーガン大統領当時、国連海洋法条約に反対だった。アメリカの安全保障と商業的な利益に損害を与えるというのが理由だった。だから最初は加盟していたのに脱退している。オバマ大統領は加盟(批准)に積極的だが、上院下院の保守派の抵抗勢力の賛同を得られないまま、こんにちに至っている。その意味でアメリカは、実は中国を責められる立場にはなく、中国はその弱点をしっかりつかんで、アメリカの真似をしようと虎視眈々と「なし崩し」を狙っているのである。」

(2016年7月17日・20日・24日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『中国4.0-暴発する中華帝国-』(エドワード・ルトワック、奥山真司訳、文春新書、2016)-中国は「リーマンショック」後の2009年に「3つの間違い」を犯した

「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」(1933年)-いかなる「離脱」も戦争の引き金とならないことを願う

「意図せざる結果」という認識をつねに考慮に入れておくことが必要だ
・・どうも中国は、自分の行為がいかなる結果を引き起こすかについての想像力を著しく欠いているようだ

書評 『それでも戦争できない中国-中国共産党が恐れているもの-』(鳥居民、草思社、2013)-中国共産党はとにかく「穏定圧倒一切」。戦争をすれば・・・
・・「戦争になったら、間違いなく中国共産党は滅びる。中国共産党=中華人民共和国である以上、「亡党亡国」となるのは必定なのである。」

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」
・・この記事に掲載した各種資料を参照

書評 『なぜ中国は覇権の妄想をやめられないのか-中華秩序の本質を知れば「歴史の法則」がわかる-』(石平、PHP新書、2015)-首尾一貫した論旨を理路整然と明快に説く
・・「中華秩序」を破壊したのが近代日本であったという事実。これはしっかりとアタマのなかに入れておかねばならない。琉球処分と日清戦争における日本の勝利によって、「中華秩序」は破壊された。だからこそ、中国の指導者は絶対に日本を許せないのである。」

書評 『中国外交の大失敗-来るべき「第二ラウンド」に日本は備えよ-』(中西輝政、PHP新書、2015)-日本が東アジア世界で生き残るためには嫌中でも媚中でもない冷徹なリアリズムが必要だ

書評 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)-軍事戦略の観点から尖閣問題を考える

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂聰、新潮社、2009)-「平成の林子平」による警世の書
・・海上保安庁巡視艇と北朝鮮不審船との激しい銃撃戦についても言及。海上保安官は命を張って国を守っている!

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)-国家ビジョンが不透明ないまこそ読むべき「現実主義者」による日本外交論
・・海は日本の生命線!

(2016年7月20日・21日 情報追加)




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2016年7月7日木曜日

書評 『世界最強の女帝メルケルの謎』(佐藤伸行、文春新書、2015)-メルケル首相をつうじて現代ドイツとEUを知る


2016年6月24日に英国の国民投票で「EU離脱」を選択してから、すでに2週間近くたつ。

「EU離脱」は、さすがにトップニュースではなくなりつつあるが、物事の本質というものは騒がれなくなってから初めて明らかになってくるものだ。 ニュースで報道されない本質を理解するためには、事態が沈静化し、やや冷却してきた段階で、反対側の視点や立場から見る必要もある。いわゆる「複眼的思考」というやつだ。

「離脱する側」の英国に対して、「離脱」される側にあるのはEU。そのEUの中核に現在位置するのがドイツである。したがって、今回の「EU離脱」問題は、簡単にいってしまえば英国とドイツとの関係となる。英国とドイツは、「リーマンショック」後の「ユーロ危機」で対立を深めていた。

そのドイツを10年にわたって率いてきたのがメルケル首相。東西分断時代に東ドイツで35年間すごした物理学者である。そういう経歴もあって、さまざまな謎に包まれている。

 『世界最強の女帝メルケルの謎』(佐藤伸行、文春新書、2015)は面白い本だ。この本は、基本的にアンゲラ・メルケルという政治家の生涯をたどることによって、彼女にまとわりつくさまざまな「謎」を解明することを第一義にしているが、1954年生まれで東ドイツ出身、ポーランド系ドイツ人であるメルケルについて語ることは、東西分断から「再統一」を経て現在に至る現代ドイツ史を語ることにもなる。

人間というものは、じつに忘れっぽい生き物で、メルケルの前のドイツの首相や、「ドイツ再統一」時点の首相が誰だったか覚えている人はあまりいないだろう。メルケルはドイツ再統一を成し遂げたコール首相の秘蔵っ子でありながら、造反して権力を奪取した政治家。そして本当の意味でドイツ経済を復活させたのは、メルケルではなく前首相のシュレーダー時代の改革のおかげである。

欧州政治におけるメルケルの裁量が巨大化したのである。だが、それは必ずしもメルケルの資質と手腕によるものではなかった。冷戦終結にともなうEUの東方拡大という大きな変化により、ドイツの地政学的パワーが飛躍的に増大したことの帰結であって、メルケルはたまたまその局面に居合わせた指導者である。(P.244) 

もちろん、メルケルの力量を過小評価しているわけではない。だが、実質的にEU=ドイツとなっている現状、ドイツ首相がEUの顔になっているのが現実である。 ドイツは地政学的に見れば「大陸国家」であり、中欧(=中欧ヨーロッパ)の中核に位置する大国であるが、両隣にはロシアとフランスを抱えている。ドイツは強大化すると制御できなくなり、過去2回にわたって世界大戦を引き起こしている。「島国」で「海洋国家」の英国は、大陸とはつねに距離感を計算しながら付き合ってきた。

そういう大きな視点から「大陸国家」としてのドイツ、「海洋国家」としての英国を見れば、おのずから「英国のEU離脱」の本質も見えてくるというものだ。日本もまた「海洋国家」であり、ドイツとはそもそも大きく異なる存在である。

メルケル首相をつうじてドイツを知る。ドイツとロシアの関係、ドイツと中国の関係、ドイツとアメリカの関係をつうじてドイツの立ち位置を知る。 読む意味のある本だと思う。わたしがとくに面白く思ったのは、メルケルが政治に対して理系的なアプローチを取っているという点。仮説と実験による検証、である。このほか、プーチンやオバマなど、メルケルと関係する政治指導者たちの描写が興味深い。

再統一後のドイツが、旧東ドイツを吸収するにあたって通貨の交換比率で寛大な態度で臨んだことが、巨大な財政赤字を生み出したこと、その結果、「欧州の病人」とまで言われていたことなど嘘のような現在の状況だが、そんな現在のドイツは、「EUあってのドイツ」であり、「ドイツあってのEU」であるといっても過言ではない。

ドイツが今後どうなっていくかはわからないが、ドイツの将来はEUの将来でもある。両者は一体なのである。メルケル首相に難しい局面の舵取りが期待されていることは間違いない。まだまだ謎の多い人物であるが、今後も要注視である。




目 次
はじめに-「危険な女帝」か「聖女」か
1. 培養基の東ドイツ
2. メルケル立つ
3. 統一宰相の「お嬢ちゃん」
4. 魔女メルケルの「父親殺し」
5. 独中ユーラシア提携の衝撃
6. メルケルを盗聴するアメリカ
7. ロシア愛憎
8. メルケル化した欧州
9. リケジョのマキャベリスト
あとがきに代えて-中韓の術中に嵌まるなかれ

著者プロフィール
佐藤伸行(さとう・のぶゆき)
1960年山形県生まれ。ジャーナリスト。追手門学院大学経済学部教授。1985年、早稲田大学卒業後、時事通信社入社。1990年代前半はハンブルク支局、ベルリン支局でドイツ統一プロセスとその後のドイツ情勢を取材。1998年から2003年までウィーン支局に勤務し、旧ユーゴスラビア民族紛争など東欧問題をカバー。2006年から2009年までのワシントン支局勤務などを経て、2015年から現職。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<ブログ内関連記事>


「再統一」後のドイツ現代史

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?
・・「本書を読むと、先進工業国という共通性をもちながら、およそドイツ人と日本人は似て非なる民族であることが手に取るようにわかる。ユーラシア大陸の東端にある島国と、大陸の「中欧」国家であるドイツとは地政学的条件もまったく異なるのである。陸続きで何度も国土を蹂躙された経験をもつドイツ人の不安心理は長い歴史経験からくるものであろう。(・・中略・・) もちろん日本人の「根拠なき楽観」は大きな問題だが、といって一概にドイツを礼賛する気にはなれない。なんだかナチスドイツに一斉になびいた戦前のドイツを想起してしまうからだ。」 怒濤のように「反原発」になだれ込んだドイツ。なにか危ういものを感じるのはわたしだけだろうか?

書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている
・・「いい意味でも悪い意味でも、いまやドイツは欧州の中核にある。ドイツがいかなる行動をとるかによってユーロの運命は決まるのである」

ドイツを「欧州の病人」から「欧州の優等生」に変身させた「シュレーダー改革」-「改革」は「成果」がでるまでに時間がかかる
・・大連合によって成立したメルケル政権は「シュレーダー改革」の延長線上にある

ドイツが官民一体で強力に推進する「インダストリー4.0」という「第4次産業革命」は、ビジネスパーソンだけでなく消費者としてのあり方にも変化をもたらす

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る 
・・「気がついたら出現していた「ドイツ帝国」。はたしてドイツ人に帝国をマネジメントしていく覚悟と能力があるのか? 「ドイツ帝国」がふたたび世界の混乱要因となるのではないかという著者の懸念と憂慮は、大いに傾聴に値する」

書評 『ドイツリスク-「夢見る政治」が引き起こす混乱-』(三好範英、光文社新書、2015)-ドイツの国民性であるロマン派的傾向がもたらす問題を日本人の視点で深堀りする
・・「21世紀になっても、依然として「夢見る人」というロマン派的な思考回路をもつドイツ人が、またなにか大きな問題を引き起こして道を誤るではないかと懸念する声があるのも、当然のことかもしれない」


旧東ドイツ

ベルリンの壁崩壊から20年-ドイツにとってこの20年は何であったのか?
・・メルケルは東ドイツで35年間過ごした人である

映画 『善き人のためのソナタ』(ドイツ、2006)-いまから30年前の1984年、東ドイツではすでに「監視社会」の原型が完成していた
・・「スノーデン事件」で、ドイツのメルケル首相の個人用の携帯電話が、米国の情報機関 NSA によって盗聴されていたことが明らかになったときの過敏な反応は、メルケル氏が東ドイツに生きていた人であることと大いに関係している。」

ドイツ再統一から20年 映画 『グッバイ、レーニン!』(2002) はノスタルジーについての映画?


旧西ドイツ

映画 『バーダー・マインホフ-理想の果てに-』(ドイツ、2008年)を見て考えたこと ・・西ドイツの「1968世代」のなかから生まれた極左テロ組織の末路

(2016年7月18日 情報追加)




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2016年7月3日日曜日

東武博物館に立ち寄ってみた(2016年7月1日)-鉄道車両をつうじて日本近現代史を振り返る

(東向島駅にて)

先日、用事があって初めて東武線の東向島駅(ひがし・むこうじま)で下車した。東向島駅は旧「玉の井駅」。玉の井といえば、永井荷風の『墨東綺譚』(ぼくとう・きだん)の舞台。 墨田区である。

下車してみてはじめて知ったのだが、東向島駅には「東武博物館」が併設されている。せっかくなので、用件を済ませて帰る前に博物館に立ち寄って見ることとした。入場料は大人200円。東武鉄道の歴史を実物展示した企業ミュージアムである。

真夏日だったので、冷房がきいた博物館が心地よい。立ち寄ってみた甲斐があったというものだ。

東武鉄道のメインは、かつて東京の繁華街の中心であった浅草から北関東の観光地・日光をつなぐ私鉄路線。その他、多数の支線をもっている。池袋駅以外にも、東京でも亀戸から曳舟まで亀戸線、千葉県では東京湾岸の船橋から柏を経由して、埼玉県の大宮までつないでいる野田線がある。

東武鉄道は、東京スカイツリー開業にあたって伊勢崎線をスカイツリー線に改称しているが、じつにダサいネーミングだ。業平橋駅をスカイツリー駅に改称するなど、愚の骨頂である。歴史を軽視すること、まことにもってはなはだしい。

(2003年まで貨物列車が走っていた! 筆者撮影)

まあ、それはさておき博物館のなかを歩いてみよう。博物館の展示の中心は初期の蒸気機関車や電気機関車、特急列車や普通列車の車両などなど。レトロ感あふれる車両の数々がこの博物館に集められている。

機関車は初期のものは英国製蒸気機関を発明した「産業革命」の発祥国である英国は、蒸気機関車の製造でも世界をリードしていたのだなあ、と。日本が「ものづくり大国」となって、「国産」が当たり前の時代というのは、歴史的にみれば100年もないのである。いや、戦後しばらくたってからというべきか。

(1897年に輸入された英国製の蒸気機関車。1956年まで現役! 筆者撮影)

東武に限らず、古い時代の日本の列車はみな「あずき色」である。関東ではあずき色の電車はすでに姿を消して久しいが、関西ではあずき色は健在どころか主流である。この違いは何なんだろうか、と思ってみたりもする。サービス業にかんしては関西の方が先進地帯なのに・・・。

(浅草と西新井間を走っていた電車 筆者撮影)

鉄道ファンにとっては知られた博物館だろうが、東武博物館は産業博物館としても大いに訪問する価値ありと思う。

今回は時間がなかったので訪問していないが、工業地帯であった墨田区には、セイコーや花王など各種の産業博物館(=企業ミュージアム)が集積している。機会をみて訪問してみたいと思う。






<関連サイト>

東武博物館 公式サイト


<ブログ内関連記事>

「地下鉄博物館」(東京メトロ東西線・葛西駅高架下)にいってみた

「もの知りしょうゆ館」(キッコーマン野田工場)の「工場見学」にいってみた。「企業ミュージアム化」が求められるのではないかな?
・・東武鉄道野田駅から下車

「企画展 成田へ-江戸の旅・近代の旅-(鉄道歴史展示室 東京・汐留 )にいってみた

書評 『京成電鉄-昭和の記憶-』(三好好三、彩流社、2012)-かつて京成には行商専用列車があった!

『新京成電鉄-駅と電車の半世紀-』(白土貞夫=編著、彩流社、2012)で、「戦後史」を振り返る

書評 『鉄道王たちの近現代史』(小川裕夫、イースト新書、2014)-「社会インフラ」としての鉄道は日本近代化」の主導役を担ってきた

書評 『「鉄学」概論-車窓から眺める日本近現代史-』(原 武史、新潮文庫、2011)-「高度成長期」の 1960年代前後に大きな断絶が生じた

『貨物列車のひみつ』(PHP研究所編、PHP、2013)は、貨物列車好きにはたまらないビジュアル本だ!

(2016年7月23日 情報追加)



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2016年7月1日金曜日

書評 『ふしぎなイギリス』(笠原敏彦、講談社現代新書、2015)-「EU離脱」をめぐる「国民投票」実施前の現代英国をまるごと理解できる充実した内容


 「EU離脱」問題で世界中の話題の焦点になっている英国。これを機会に積ん読だった本を読んでみることにした。『ふしぎなイギリス』(笠原敏彦、講談社現代新書、2015)である。

民主主義の本家本元でありながら、立憲君主制を維持し続けてきた英国。たしかに英国は「ふしぎな国」だ。この本は、英国王室の動向をにらみつつ、外部環境変化のなかでしたたかに生き抜いてきた英国について、王室、政治、経済、社会という切り口から丸ごと捉えようとした意欲的な内容の一冊だ。

著者は、毎日新聞の記者(現在は編集委員)。特派員として英国に2回、トータル8年間駐在して、英国社会をつぶさに観察を行ってきた人。第一回目の英国駐在のあとには米国にも特派員として駐在しており、英国と米国について、比較しながら複眼的にみる視点がありがたい。

そもそも英国がEUに参加したのは1973年、慢性的な「イギリス病」に苦しんでいた頃だ。その後、1979年に就任した「鉄の女」サッチャーによる新自由主義的改革、いわゆる「サッチャー改革」で英国は息を吹き返した。現代英国は、その延長線上にある

労働党政権でありながら中道路線を選択し、保守党のサッチャー改革路線を継承したのがブレア首相。ブレア時代の「近代化」の功罪の詳細、そしてその反動ともいうべきなのが、2008年の「リーマンショック」後に緊縮財政を実行してきた、現在の保守党のキャメロン首相の政策

2016年6月23日に実施された、 「EU離脱」の是非を問う国民投票で「EU離脱」が結論と出される前に出版された本だが、この本を読むと、国民投票に至る事情を理解することができる。スコットランド独立騒動で揺れる「連合王国」という国のかたちイラク戦争参戦による財政的疲弊中東欧諸国のEU加盟後の移民の増大などである。

個人的にとくに興味深いのが「第5章 アングロ・サクソン流の終焉」。アングロサクソンとしてひとくくりにされがちで、しかも「特別な関係」とされてきた英米関係だが、著者によれば、国際社会のなかで生き残りをかけた英国がつくりあげたイメージというのが真相に近いようだ。

だが、イラク戦争への参戦後は、英国内で米国との関係見直しが行われているだけでなく、米国にとっても欧州における英国の価値が低下傾向にある。もはや、かつてのような「特別の関係」ではないのだ。英国は、すでに米国と欧州の「橋渡し役」は果たせなくなりつつあったのである。「EU離脱」は、さらに拍車をかけることになるだろう。

そもそも成文憲法をもたない慣習法の連合王国(UK:United Kingdom)と、成文憲法で連邦制という「国のかたち」を明確にしている米国(US:United States)は、政治的には根本的に異なる存在であることを、あらためて考えてみる必要があろう。

地政学的に見てユーラシア大陸の両端に位置する「島国」の英国と日本。歴史的個性については似て非なるものがあるとはいえ、グローバリゼーションを主導することによって、もろにその影響を受けている英国社会は、先行事例としてはひじょうに気になる存在だ。国民投票による「EU離脱」選択後も、それは変わらない。

新書本にしては350ページと、けっこうなボリュームがあるが、最初から最後まで読ませる内容となっている。帰国後に、構想1年、執筆に2年かけて完成したという。現代英国について知るにはお薦めの一冊だ。




目 次

序文
第1章 ロイヤル・ウェディングの記号論
 現代の錬金術
 ダイアナの DNA が変える王室
  ファイネスト・アワー(歴史への誇り)
第2章 柔らかい立憲君主制
 政権交代というドラマ
 回避された憲政の危機
 揺れる伝統の2大政党制
 議会と王権
第3章 女王と政治家 サッチャーの軌跡
 階級が違う2人の女性指導者
 フォークランド・スピリット
 自信を取り戻せ
 大英帝国が生んだ「鉄の女」
 女王が示した不仲説への暗黙の答え
第4章 階級社会とブレア近代化路線
 打破すべき「古いイギリス」
 ニュー・ミレニアム
 キツネ狩り禁止に見る階級社会の現状
 世襲貴族議員の断末魔
 ブレアと王室
第5章 アングロ・サクソン流の終焉
 アングロ・サクソンの盟友
 ホワイトハウス最後の夜
 ブレアはなぜ嫌われたか
 アメリカを利用した世界戦略
 イラク戦争が変質させた英米関係
 イギリス、アメリカ、そして世界
第6章 イギリス経済の復元力
 「開かれた経済」という理念
 産業革命はなぜイギリスで起きたか
 イギリス病の発病と克服
 モノ作り大国への回帰と金融部門の優位性
 外国人投資家に選ばれる理由
第7章 スコットランド独立騒動が示した連合王国の限界
 つぎはぎを重ねた統治構造
 揺れるナショナル・アイデンティティ
 連合王国の歴史的経緯
 独立は得か損かのそろばん勘定
 消えない独立の火種
 試練にさらされる「国家の形」
第8章 激動期の連合王国
 ロンドニスタン・テロリストを生む土壌
 デジタル時代暴動
 漂流する国家像
 イギリスはEUを離脱するのか?
第9章 ソフトパワー大国への脱皮
 成熟のロンドン五輪
 労働者階級の血を引くプリンス誕生
 王位継承に布石を打つチャールズ皇太子
 キープ・カーム・アンド・キャリー・オン
あとがき ロンドンから見た日本


著者プロフィール

笠原敏彦(かさはら・としひこ)
毎日新聞編集編成局編集委員。1985年3月東京外国語大学卒。同年4月毎日新聞社入社 徳島支局、大阪本社特別報道部勤務。95年4月外信部配属 97年10月~02年9月ロンドン特派員。ブレア政権の政治・外交、ダイアナ後の英王室、北アイルランド和平など英国情勢のほか、遊軍記者としてアフガン戦争、コソボ紛争などを現地で長期取材。2002年10月 外信部副部長。04年米国務省のIVプログラム(研修)参加。05年4月~08年3月ワシントン特派員 。ブッシュ政権の外交を担当。大統領の外遊先約20カ国に同行。主な課題はイラク戦争、北朝鮮核問題など。2008年大統領選前半も取材。08年4月外信部副部長。2009年4月~2012年3月 欧州総局長(ロンドン)として欧州7支局を統括。12年4月~外信部編集委員。2013年4月~編集編成局編集委員(オピニオンG統括) (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

近代合理主義を育んだイギリス人が、世襲の君主制を支持しつづけるのはなぜか?(本書の著者・笠原敏彦へのインタビュー記事)(現代ビジネス、2015年6月4日)

イラク戦争を検証し続けるイギリスと、一顧だにしない日本-その「外交力」の致命的な差 日本が噛み締めるべき「教訓」(笠原敏彦、現代ビジネス、2016年7月21日)
・・「イギリスは「検証の国」だ。その背景には、今ある社会を、現在と過去と未来をつなぐ存在とみなす叡智があるように思う。将来世代に対し記録と教訓を引き継ぐ意思が社会のDNAとなっているということである。・・中略・・ 検証報告書からは多くの教訓を引き出すことが可能である。しかし、その最大のメッセージは英米同盟についてのものであり、報告書は「我々の利益と判断がことなるとき、無条件の(対米)支援は必要ない」と結論付けている。」

 【ゼロからわかる】イギリス国民はなぜ「EU離脱」を決めたのか 露わになるグローバル化の「歪み」(笠原敏彦、現代ビジネス、2017年1月8日)


(2016年7月21日、2017年3月18日 情報追加)



書評 『大英帝国という経験 (興亡の世界史 ⑯)』(井野瀬久美惠、講談社、2007)-知的刺激に満ちた、読ませる「大英帝国史」である
・・本書には、スコットランド併合と北部アイルランド併合の歴史も詳述されている。連合王国(United Kingdom)とは、イングランドによる周辺王国の併合の結果生まれたものだ。歴史的経緯を考えれば解体もあり得る話だとわかる

書評 『大英帝国衰亡史』(中西輝政、PHP文庫、2004 初版単行本 1997)-「下り坂の衰退過程」にある日本をどうマネジメントしていくか「考えるヒント」を与えてくれる本
・・「英国に対する挑戦者としてヨーロッパ大陸から急速に勃興し英国を脅かす存在となったドイツが、何かしら日本に対して挑戦者として急速に勃興してきた中国を想起させるものがあるのだ。 歴史の教訓として、英国はドイツを意識しすぎるあまり、衰退を早めたことが本書では語られている」

映画 『マーガレット・サッチャー-鉄の女の涙-』(The Iron Lady Never Compromise)を見てきた
・・EUに懐疑的であったサッチャー首相

書評 『イギリス近代史講義』(川北 稔、講談社現代新書、2010)-「世界システム論」と「生活史」を融合した、日本人のための大英帝国「興亡史」
・・「サッチャー革命」による金融街シティの変貌が、ジェントルマン資本主義から新自由主義への完全な移行をもたらした・・(中略)・・ 現在のシティは、すでに白洲次郎が語っていたような金融界ではない」

「近代スポーツ」からみた英国と英連邦-スポーツを広い文脈のなかで捉えてみよう!
・・英国については、2012年にインターネット放送で、「近代スポーツ」からみたイギリスとイギリス連邦」というテーマで筆者(=佐藤けんいち)が語っているのでご参照いただきたい。


情報活動をつうじてみる英国

書評 『紳士の国のインテリジェンス』(川成洋、集英社新書、2007)-英国の情報機関の創設から戦後までを人物中心に描いた好読み物

国際報道 アタマの引き出し



英国社会

書評 『大英帝国の異端児たち(日経プレミアシリーズ)』(越智道雄、日本経済新聞出版社、2009)-文化多元主義の多民族国家・英国のダイナミズムのカギは何か? 
・・英国の強みは移民がもたらす多様性にあるのだが、度が過ぎると捉えたのが「離脱」派なのであろう

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)
・・「金融ビッグバン」後の英国で、英国の証券会社に日本人として勤務していた著者が体験し、つぶさに観察した実情を「鏡」にして、日本の行く末を考察した内容の本。英国の格差社会化は、日本に先行している

書評 『「イギリス社会」入門 -日本人に伝えたい本当の英国-』(コリン・ジョイス、森田浩之訳、NHK出版新書、2011)

書評 『ジェームズ・ボンド 仕事の流儀』(田窪寿保、講談社+α新書、2011)-英国流の "渋い" 中年ビジネスマンを目指してみる

日本語の本で知る英国の名門大学 "オックス・ブリッジ" (Ox-bridge)




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