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2016年6月28日火曜日

「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」(1933年)-いかなる「離脱」も戦争の引き金とならないことを願う


 「英国のEU離脱(Brexit)」が世界経済に混乱をもたらしているが、この「事件」でわたしが想起する歴史的事件の一つに「日本の国際連盟脱退」(1933年)がある。

国際連盟(league of Nations)は、第二次大戦後、戦勝国が主導する「国際連合」(United Nations: 連合国)の誕生によって発展的解消された国際組織だが、第一次世界大戦後に米国のウィルソン大統領の提唱で誕生したこの組織において、日本はなんと常任理事国だったことは忘れられているようだ。提唱国の米国は議会で否決されて参加していない。

日本が「国際連盟」から「脱退」したのは、1933年3月8日。昭和8年のことである。「満州事変」(1931年)の2年後、日本の傀儡国家である「満州国」誕生の翌年のことである。

「脱退」したのは、満州における利権を批判した英国のリットン調査団の報告書が、常任理事国あった日本の反対を押し切って国際連盟で採択されたからである。採決の結果は42対1、棄権1。日本の完敗である。日本代表が退場したのは、開き直りのようなものであった。

翌朝の日本の新聞は、日本代表・松岡洋右の行動を「連盟よさらば! 我が代表堂々退場す」と見出しをつけて報道した。アタマで考えればバカな話なのだが、その当時の日本人の多くが喝采をおくったのである。正直なところ、わたくしも心情的に理解できないわけではない。あたかも歌舞伎役者が見得を切ったようだからだ。日本的美学である。

上掲の写真は、大学受験では定番の教科書『詳説 山川日本史』からとったもの。高校の授業で日本史が必修でなくなった(残念!)ので、知らない人がいるかもしれないが、国際連盟脱退がなにをもたらしたか、考えてみることも必要だろう。なお、「脱退」を宣言したのちも、猶予期間の2年間にわたって日本は分担金を支払いつづけたことは記しておくべきだろう。

俗なたとえだが、「離脱」や「脱退」というのは、ヤクザの「足抜け」のようなもので、流血沙汰になることが多い。江戸時代の遊女の足抜けもそうだが、経済的な利害がからむ性格をもっている。離脱とは離縁である。縁切りである。金銭問題で済むのなら処理も難しくないが、愛憎という心情面がからむと、そう簡単に解決はできなくなる。落とし前が必要となる。

アメリカ南部が「離脱」した際の南北戦争、ソ「連邦」崩壊やユーゴスラビア「連邦」崩壊なども似たようなものだ。「離脱」と独立を宣言したメンバーが出現したことによって、それが引き金となって激しい戦闘に発展する。アメリカ合州国は分裂を回避し連邦国家としてサバイバルできたが、ソ連もユーゴも消滅した。その他もろもろの帝国崩壊も同様の事例である。

もちろん、「英国のEU離脱(Brexit)」は、日本の国際連盟脱退とは違って、ただちに国際的孤立を招くものではない。また、EU崩壊につながるかは現時点ではなんともいえない。だが、似ている事例について歴史を振り返って確認し、その本質を正確に理解しておくことが必要である。類似点と相違点、である。

歴史に学ぶとは、そういうことである。







<ブログ内関連記事>

書評 『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(加藤陽子、朝日出版社、2009)-「対話型授業」を日本近現代史でやってのけた本書は、「ハーバード白熱授業」よりもはるかに面白い!

「第一次世界大戦」の勃発(1914年7月28日)から100年-この「世界大戦」でグローバル規模のシステミック・リスクが顕在化

『ソビエト帝国の崩壊』の登場から30年、1991年のソ連崩壊から20年目の本日、この場を借りて今年逝去された小室直樹氏の死をあらためて悼む

書評 『ソ連史』(松戸清裕、ちくま新書、2011)-ソ連崩壊から20年! なぜ実験国家ソ連は失敗したのか?

書評 『新渡戸稲造ものがたり-真の国際人 江戸、明治、大正、昭和をかけぬける-(ジュニア・ノンフィクション)』(柴崎由紀、銀の鈴社、2013)-人のため世の中のために尽くした生涯
・・国際連盟の常任理事国となった日本は、国際連盟事務次長として新渡戸稲造を送り込んだ(1919年~1926年)

書評 『民俗学・台湾・国際連盟-柳田國男と新渡戸稲造-』(佐谷眞木人、講談社選書メチエ、2015)-「民俗学」誕生の背景にあった柳田國男における新渡戸稲造の思想への共鳴と継承、そして発展的解消
・・日本民俗学の父・柳田國男は、新渡戸稲造の招請で国際連盟に呼び寄せられジュネーブに赴任した



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2016年6月27日月曜日

「島国」の人間は「大陸」が嫌いだ!-「島国根性」には正負の両面があり、英国に学ぶべきものは多々ある


『島国根性を捨ててはいけない』(布施克彦、洋泉社新書y、2004)という本がある。意表を突いたタイトルで、まっとうな主張を行っている本だ。この本を11年ぶりに再読して、その内容にあらためて大いに納得している。

 「島国根性」の対語(ついご)は「大陸的」大陸に対する憧れや劣等感が「島国根性」ということばに表現されているようだ。「大陸根性」というコトバはない。著者は商社マンとしての15年におよぶ海外勤務を経験した結論として、「島国根性」の重要性を主張している。

著者によれば、「島国根性」は「農耕民的島国根性」と「海洋民的島国根性」の二つの側面がある。それぞれプラス面とマイナス面がある。著者の分類を紹介しておこう。

農耕民的島国根性
 プラス面: 緻密、正確、協調
 マイナス面: 偏狭、狭量、閉鎖
海洋民的島国根性
 プラス面: 積極性、好奇心、進取
 マイナス面: 身のほど知らず

海に囲まれた「島国」の住人である以上、日本人にも「農耕民的島国根性」だけでなく「海洋民的島国根性」の両者がある。後者の「海洋民的」な性格が解き放たれたとき、海外進出に大いに発揮されるが、ときに暴走しがちで制御できなくなった結果、大きな問題を発生させたと指摘している。戦前の大陸進出など、その最たる例だろう。

中国進出にかんしても沿海部だけにとどめて内陸に深入りするな、という主張はまったく賛同。「島国」の人間には、「大陸」内部の複雑な内部事情ははっきりいって理解不能なのだ。思い入れや思い込みに足をすくわれて失敗している日本企業は枚挙にいとまがない。

その意味で学ばなくてはならないのが「島国」の先輩格である英国だ。英国は海賊や海軍をつうじて「海洋民的島国根性」を大いに発揮させてきたが、植民地経営にあたっても内陸には深入りせず、現地の既存の支配構造を活用した「間接統治」を行った。「二重支配体制」といってもいい。大陸国フランスとの違いである。

この英国の特性は、かならずしも「島国」とは見なされていない米国も踏襲している。第二次世界大戦で無条件降伏させた日本を「間接統治」で占領したことは、日本人自身がよく知っていることだ。その結果、既存の官僚機構がそっくりそのまま解体されることなく継承されてしまったのだが・・・。

 基本的に「島国」の人間は「大陸」が嫌いなのだ。大陸に生殺与奪を支配されるのはことのほか嫌う。過去を振り返れば、欧州大陸を制覇した勢力は、つぎに英国を狙ってきた。ナポレオンしかし、ヒトラーしかり。だからこそ、大陸の動向には細心の注意を払い、影響を最小限にとどめようと苦心する。そのためには情報にはきわめて敏感で、英国が歴史をつうじてスパイ活動や情報工作にチカラを入れてきたことはよく知られている。

今回の「英国のEU離脱」(2016年6月24日)の心理的背景に「島国根性」があることは間違いない。こういう視点は、意外と大事なのだ。当たり前すぎて見落としがちな盲点である。

そう考えれば、「島国根性」、大いに結構じゃないか! 島というと孤立という連想をもつ人もいるだろうが、それは孤立主義ではない誰とでも付き合うが、過度に深入りしないという用心深いマインドセットのことでもある。それは人間関係だけでなく、国と国との関係でも同様だ。

しかし同時に、変わり身の早さも「島国」特有のものであることは、著者が言及しているキューバの事例からも明らかだろう。冷戦構造の崩壊後、ソ連という後ろ盾を失った社会主義国キューバはバチカンと関係を正常化した。つい最近の2015年には、オバマ政権下の米国とも歴史的和解を実現している。変わり身が早いのは、日本だけではないのだ。その心は、現実主義である。

日本は大きさからいえば、世界第4の「島国」である。「島国」に生きていることをふだん意識することのないほどの大きさだ。英国ほど大陸に近くはないが、それでも有史以来、大陸の影響をさまざまな意味で受けてきた。

「島国」のマインドセットのうち、「海洋民的」性格は重要だ。この点においては経験不足で失敗しがちな日本は、英国からまだまだ多く学ぶ必要がある。もちろん、反面教師としての学びも重要であることは言うまでもない。





目 次

まえがき
第1章 島国根性を捨ててはいけない
第2章 日本は最も恵まれた島国
第3章 がんばる世界の島国根性
第4章 島国根性と大陸根性
第5章 元祖島国大国・イギリス
第6章 グローバル時代と島国根性
あとがき

著者プロフィール


布施克彦(ふせ・かつひこ)
1947年東京都生まれ。一橋大学商学部卒業。総合商社に28年間勤務。その間、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、アジア各地で約15年間の海外勤務。54歳でサラリーマン引退。現在ノンフィクション作家、大学非常勤講師、NPOコーディネーター、インド企業のエージェントなど、幅広い活動を行っている(本データはこの書籍が刊行された2004年当時に掲載されていたもの)。





<ブログ内関連記事>

ついに英国が国民投票で EU からの「離脱」を選択-歴史が大きく動いた(2016年6月24日)


情報活動をつうじてみる英国

書評 『紳士の国のインテリジェンス』(川成洋、集英社新書、2007)-英国の情報機関の創設から戦後までを人物中心に描いた好読み物

書評 『ジェームズ・ボンド 仕事の流儀』(田窪寿保、講談社+α新書、2011)-英国流の "渋い" 中年ビジネスマンを目指してみる

書評 『紅茶スパイ-英国人プラントハンター中国をゆく-』(サラ・ローズ、築地誠子訳、原書房、2011)-お茶の原木を探し求めた英国人の執念のアドベンチャー

「世界遺産キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々展」(パナソニック汐留ミュージアム(2016年1月22日)-現在の英国を英国たらしめている植物愛を体現している植物園とその世界を紹介した展示会


■「間接統治」の植民地経営と経営現地化

なぜ「経営現地化」が必要か?-欧米の多国籍企業の歴史に学ぶ


島とはテリトリーのことである

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂聰、新潮社、2009)-「平成の林子平」による警世の書

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)-国家ビジョンが不透明ないまこそ読むべき「現実主義者」による日本外交論

ノラネコに学ぶ「テリトリー感覚」-自分のシマは自分で守れ!

「小国」スイスは「小国」日本のモデルとなりうるか?-スイスについて考えるために
・・「スイスも欧州の「陸の孤島」と形容されることもある、欧州の交通の要衝(ようしょう)でありながら、アプローチがかならずしも容易ではない「山岳国家」

書評 『スイス探訪-したたかなスイス人のしなやかな生き方-』(國松孝次、角川文庫、2006 単行本初版 2003)
・・「人口730万人のスイスはたしかに小国であるし、山岳国家でまわりをEU諸国に囲まれたスイスは、さながら陸の孤島のようでもある。 最後の3つめの「プラグマティック」は、これは文字通り彼らが好きな表現であるらしい。たしかに実利を重んじる彼らがEUに加盟しないのは、それが意味がないからであり、ましてや通貨統合など無意味以外の何者でもないようだ。」

書評 『ブーメラン-欧州から恐慌が返ってくる-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓
・・「ともに島国であるアイスランドとアイルランドについては、利益を先食いしてしまった点において、おなじく島国で、すでにバブル経済を経験した日本人には理解できなくない」


■地政学と生態史観から「島国」と「海洋国家」の意味を考える

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)-国家ビジョンが不透明ないまこそ読むべき「現実主義者」による日本外交論

政治学者カール・シュミットが書いた 『陸と海と』 は日本の運命を考える上でも必読書だ!

梅棹忠夫の『文明の生態史観』は日本人必読の現代の古典である!
・・ユーラシア大陸をはさんで日本と英国は、同質な存在として東西両端に位置する

書評 『「東洋的専制主義」論の今日性-還ってきたウィットフォーゲル-』(湯浅赳男、新評論、2007)-奇しくも同じ1957年に梅棹忠夫とほぼ同じ結論に達したウィットフォーゲルの理論が重要だ
・・ウィットフォーゲルの理論をもとにした分析フレームワークである「中心(core)-周辺(margin)-亜周辺(submargin) という三層」で文明を論じたもので、中国は「中心」、朝鮮半島は「周辺」、日本は「亜周辺」に位置づけられる

書評 『日本は世界4位の海洋大国』(山田吉彦、講談社+α新書、2010)-無尽蔵の富が埋蔵されている日本近海は国民の財産だ!

「Dデイ」(1944年6月6日)から70年-『史上最大の作戦』であった「ノルマンディ上陸作戦」
・・これは逆に島から大陸への上陸作戦

(2016年7月5日、12月4日 情報追加)




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2016年6月24日金曜日

ついに英国が国民投票で EU からの「離脱」を選択-歴史が大きく動いた(2016年6月24日)

(連合王国のユニオンジャックは構成国の組み合わせである)

英国の国民は、EU(=欧州共同体)からの「離脱」(Leave)を選択した。いわゆる「ブレクジット」(Brexit)である。英国(Britain)と「離脱」(Exit)の合成語であり造語である。

2016年6月23日に実施された国民投票(=レファレンダム)の結果、51.9% 対 48.1%で「離脱」派が過半数を制したのである。まさに今日この日、ついに歴史は大きく動いたのである。「離脱か否か、それが問題だ」(To leave or not, that is the question)と優柔不断なハムレットの心境のような状態が数ヶ月に渡って続いていたが、大方の予想を覆し「離脱」という最終結論が下された。

国民投票には法的拘束力がないとはいえ、議会制民主主義(あるいは代議制)という間接民主制では完全に反映されない「民意」が数字として表明されたのである。悪天候にもかかわらず投票率が72%もあったということが、なによりも雄弁に物語っている。議会制民主主義の本家本元である英国での出来事だけにより注目されるのである。

財政破綻のギリシアですら「離脱」(Grexit)をとどまったのに、主要メンバーである英国が「離脱」を選択したのである。この意味は計り知れない大きさをもつ。「離脱」を選択した英国にとっても、「離脱」によって主要メンバーを失うEUにとっても、今回の「離脱」は EU存続にとってのターニングポイントとなる。ドイツを制御できる大国は EU内に存在しなくなるからだ。

短期的には金融面を中心に、混乱が発生することは避けられない。英国を欧州拠点に戦略展開している日本企業にとっても、頭の痛い問題であろう。しかし、中長期的にみれば、英国国民にとってはよい選択だったと回想されることになるかもしれない。

たしかに、物心ついてからEUに加盟していることが当たり前であった英国の若年層にとってはショッキングなことだろう。それ以外の英国とEUの関係を知らないからだ。彼らはいわゆる「ミレニアム世代」(=新千年紀世代)でもあるが、EUにとどまるという選択は、ある意味で「現状維持」の発想であり、若年層は自分たちが思っている以上に保守的なものかもしれない。

今回の国民投票は、「離脱」支持者が高年齢層に多かったことに示されているように「シルバー民主主義」の問題点が露呈したといえるかもしれない。だが、若年層との顕著な違いは、EU加盟以前の英国を肌身を通じて知っていたという体験の有無である。つまりは歴史を知っているかどうかの違いだ。もちろん英国を抜本的に変身させた「サッチャー改革」をどう評価するかという点にかんする違いもあることだろう。


(投票結果のデモグラフィック分析 BloombergBusinessWeek記事より)

だが、英国は「島国」なのだ。大英帝国の夢よもう一度など郷愁だと解釈する人もいるがそれは当たらない。そうではなくて、「島国」という地政学的特性をもった国家の国民がもつ「見えざる意思」、あるいは本能的なものの発露と受け取るべきではないか。EUを実質的に仕切っているのは「大陸国家」のドイツであり、「島国」の「海洋国家」の英国にとっては不満が強かったことは容易に想像できる。

英国は、共通通貨ユーロには参加せずポンドを使いつづけてきたが、究極の国家主権とされる通貨発行権(=シニョリッジ: seigniorage)を EU に引き渡していなかったことは幸いであった。EUを離脱するに際しても、傷口を小さくすることができるのだ。これはギリシアとの根本的な違いである。

逆にいえば、ユーロを採用していなかったからこそ、英国の「離脱」は可能と考えられたのである。EUに加盟していながらユーロを使用しない国は英国のほかに、スウェーデン・デンマークといった北欧諸国がある。すでにユーロを採用しているオランダやフランスが、仮に国民投票で「離脱」を選択しても、実行には困難をともなうことは明白だ。「離脱ドミノ」はじっさいには置きにくいと考えるべきだろう。

英国国民ではない日本国民にとっても朗報と受け取るべきインプリケーションがあると捉えるべきではないだろうか。というのも、日本は英国と同様に「島国」だからだ。誰が、大陸国家に牛耳られた共同体(あるいは連邦)など望むというのか?

日本に引きつけて考えれば、大陸国家・中国の北京の官僚たちに牛耳られた共同体となる。わたしなら絶対に御免被りたい。前政権のときに浮上した「アジア共同体」なる愚かな政策構想は、今回の「英国離脱」で完全に消えたと思いたい。日本にとって、EUは目指すべきモデルでないことは明らかだろう。

(連合王国とユニオンジャックの秘密 筆者作成)

今後、間違いなく起こってくるのはスコットランド独立運動の再燃だろう。イングランドとウェールズが「離脱」に傾いたのに対し、国際金融と経済の中心であるロンドンだけでなく、スコットランドと北アイルランドは「残留」を望んでいるからだ。スコットランドが独立して連合王国(UK: United Kingdom)から「離脱」となれば、連合王国の「国の形」も変わることになる。ユニオンジャックという国旗の形も変わることになる。もしかすると、本日の国民投票の結果、「連合王国」崩壊の第一歩となった考えるべきかもしれない。

おそらく「英連邦」(=コモンウェルス Commonwealth of Nations: 諸国民の共通の富)という英国にとっての「資産」を、どう経済面で活かすことができるかが大きな焦点になってくる。だが、経済的なパワーが喪失した場合、はたして英連邦も現在のまま推移できるかは不透明である。

また、密接な関係にあるとされる米英関係についてだが、EU離脱した英国が、はたして米国にとって価値あるものであり続けるかうかは不明。ドイツを牽制する役割が英国に期待されていたからだ。

より大きな観点からいえば、「連邦離脱」が流血の事態を招かずに平和裏になされるということは、世界史においても希有な例となる。アメリカ合州国(United States of America)から南部の11州が「離脱」を宣言したとき、「南北戦争」という武力を伴う内戦が1853年から4年間もつづき、なんと60万人(!)も戦死している。

ソビエト「連邦」(=ソ連)もまた「離脱」の危機が迫ったことにより、最終的にソ連邦が解体し、ソ連という国家は地上から消えた。1991年のことだ。そしてその直後からユーゴスラビア「連邦」共和国もスロヴェニアの分離独立宣言が引き金となり解体、その後の凄惨なバルカン戦争へとつながっていった。「エスニック・クレンジング」(=民族浄化)というコトバが作られた戦争のことだ。

現時点ではっきりしていることは、これから2年間のあいだに「離脱」の実務を進めるということである。「離脱」完了のあかつきには、欧州大陸内の空港、たとえば玄関口であるフランクフルト空港のイミグレーションで、英国国民は Non-EU Citizen の列に並ぶことになる。同じ列に並ぶ日本人や米国人と共通の利害関係になるということだ。

英国のEU離脱(Brexit)で、完全に世界の政治経済の「潮目」が変わったのではないか、そんな気がしてならない。いまや、すでに「離脱」の是非を論じる段階ではない。「賽は投げられた」のである。ルビコンを渡ってしまったのである。すでに起こった事実は虚心坦懐に受け止め、それを外部環境変化として「与件」とし、自分の取るべきアクションに反映していかなくてはならないのである。

まだまだ不確実で不確定なことも多いが、世界史的な出来事として捉えるべきなのだ。けっして経済だけで論じるような小さな話ではない。そんな大きな出来事を同時代に体験できたことの意味を十分に理解すべきなのである。





<関連サイト>

Reflections on the Referendum  Analysis(Stratfor, June 26, 2016)
・・「陰のCIA」の異名をもつ米国の民間情報分析機関ストラットフォーがETAとのジョイントによるマクロ経済分析論考。英国のEU離脱は、経済金融の機能不全の「結果」であって、「離脱」が原因となって発生したのではないという主張。Brexit gives it more opportunity for constructive reform and greater flexibility to deal with future regional financial and economic instability and contagion. We also argued, however, that leaving would not cure all of Britain's ills.

英国のEU離脱は、極めて合理的な判断だった 英トップエコノミストが予言していた「崩壊」 (ロジャー・ブートル :エコノミスト、東洋経済オンライン、2016年06月24日)

英国のEU離脱で何が起こるか? (みずほ総合研究所、2016年4月19日) PDfファイル
・・「離脱」決定後のEUとの交渉プロセスについて詳細に解説

英EU離脱で「英連邦」が超巨大経済圏として出現する(上久保誠人、ダイヤモンドオンライン、2016年6月21日)
・・「英国のEU離脱は、おそらく中長期的にみれば、英国にとって不利益ではない。むしろ、英国に抜けられるEUの不利益となるのではないだろうか」 日本人でもこういう見方をする人もいる。

英国の優位性は不変、EU離脱交渉でも主導権を握る(上久保誠人、ダイヤモンドオンライン、2016年7月5日)
・・「国民投票を通じて、英国の分裂が明らかになったといわれるが、筆者には、むしろ残留派と離脱派の歩み寄りが少しずつ始まっているように見える。国民投票がなければ、政府は新自由主義的な政策を継続し、国民はずっと不満を持ち続けることになっただろう。そして、静かに国家の分断は進行し、いつか取り返しのつかないことになったかもしれない。国民投票というプロセスを経て、英国民が学んだことは小さくない」

英国はEU離脱で「のた打ち回る」ことになる 「EU研究第一人者」北大・遠藤教授の現地レポ(東洋経済オンライン、2016年6月27日)
・・「この(イングランドの)主権的な自決意識とナショナリズムの結合は、今回の国民投票を考えるうえでも重要だと思われる。つまり、英国独立党のような、2013年までは周辺的で、その後も決して多数派を掌握できない政党ではなく、何世紀ものあいだ主流を形成してきた保守党とその支持者にも、その2つの結合を経由して欧州懐疑主義が拡がっていった。そのことで初めて、局所的な運動を超えて、それはうねりをなしたのである」

英国が「EUを離脱しない」は本当なのか「EU研究第一人者」北大・遠藤教授が予測(東洋経済オンライン、2016年7月9日)
・・「「主権」的な議会は誰に選ばれているのか。それは国民である。その国民が、形式には諮問的であれ、総意を表明してしまった。それが国民投票である。その直接的な意思表明は、間接的な意思決定である議会の立法や採決に対し、相当な政治的正統性を帯びる。イギリス憲法史の権威でもあるヴァーノン・ボグダノー教授はこう述べた。「国民主権は議会主権より深い」。ほぼ間違いなく、議会は国民の声を尊重し、EU離脱に向かうだろう。

イギリスのEU離脱は経済的に合理的な選択だ(野口悠紀雄、ダイヤモンドオンライン、2016年6月30日)
・・「イギリスは世界的な金融取引の中心になっており、取引先にはオイルマネーなどもある。したがって、こうした取引について金融取引税の負担を免れることができる効果は大きいだろう。・・中略・・ ユーロに参加しなかったイギリスのほうが、概して、ユーロ圏諸国より経済パフォーマンスが良好だったのである。イギリスのEU離脱によって短期的に世界経済が混乱することは避けられない。しかしこのことと、長期的な制度選択の問題を混同してはならない。 今回のイギリス離脱の最大のポイントは、「EUという組織に重大な疑問がつきつけられた」ということなのだ。EU離脱は、イギリスという特殊な一国に限定された問題ではない」

英国の産業構造を知らずにEU離脱問題は語れない (野口悠紀雄、ダイヤモンドオンライン、2016年7月28日)
・・「イギリスの産業構造が高度サービス産業中心になっており、大陸諸国や日本のように製造業の比率がいまだに高い経済とは異なるからである。 日本では、イギリスに関して1980年頃までのイメージを持ち続けている人が多い。つまり、イギリス病から脱却できずに、経済活動が衰退しているというイメージだ。しかしイギリスは、90年代に大きく変貌したのだ。」 この点にかんしては『イギリス近代史講義』(川北稔、講談社現代新書、2010)も参照。また次の指摘も重要。「イギリスは、アメリカと中国に対しては、貿易黒字を計上している。したがって、イギリスが貿易関係をより緊密にしたいと考える相手国は、アメリカと中国であるはずだ。・・中略・・ 日本の場合には、過去の経常収支の黒字によって海外資産が蓄積され、それを受動的に運用しているにすぎない。それに対してイギリスの場合には、積極的に資金調達をして、それを投資に回しているのだ。つまり国際的な資金仲介を行なっているわけだ。」 要は、国際金融立国だということだ。

EU離脱後も揺らがない、金融立国の牙城 在英28年の作家が見た、英国が世界を揺るがした日 (黒木亮、日経ビジネスオンライン、2016年7月6日)
・・「国際取引契約は英語で作られ、英国法かニューヨーク州法が準拠法で、裁判管轄はロンドンかニューヨークである。これをフランス語や英語で契約書を作り、パリやフランクフルトでの裁判を前提にすることはありえない。 また金融機関の為替取引なら金融機関同士だけでできるが、商取引、プロジェクト、M&Aなどは、法律事務所、会計事務所、保険、商品取引、海運なども関わってくる。ロンドンには多数の法律事務所、会計事務所、巨大なロイズの保険市場、世界最大のLME(ロンドン金属取引所)、バルチック海運取引を中心とする屈指の海運市場などがある。・・中略・・ 英国に来ている外国企業は金融機関に限らず、EUだけでなく、中近東とアフリカをカバーしており、EUを離脱してもこの点の重要性は変わらない。・・中略・・ 英国もEU各国も政治的に成熟した先進国で国際交渉にも慣れており、互いに妥当なところで交渉をまとめ上げるはずだ。英国は国連の常任理事国で、核の保有国でもある。28年間住んで感じるのは、そう簡単には駄目にならない英国独特の強さである。

頼りにしていた英国が!ショックを受けるフランス 英国EU残留を望んでいたフランス、英仏関係はどうなるのか(山口昌子、JBPress、 2016年6月.27日)

「政治家は市民の力を恐れるなかれ」、直接民主制の専門家が指南(スイスの直接民主制)(Swissinfo.ch、2016年6月2日)

統合は死んだ、だがEUは生きている 国家でも単なる国際機関でもない、等身大のEUとは? (遠藤 乾、東洋経済オンライン、2013年6月18日)
・・参加国にとってのメリットは、3つのP:Peace(域内平和), Prosperity(域内繁栄) and Power(域外への対抗力)。「2005年、フランスとオランダというECSC以来の原加盟国が欧州〈憲法〉条約を国民投票で葬り去り、その二年後「憲法概念は放棄」とEU首脳が明示的に合意したとき、そうした「統合」物語もまた放棄されていた」 EUは国家でも連邦でもない宙ぶらりんな存在

英国EU離脱で「欧州と世界」はどう変わるのか (遠藤乾、東洋経済オンライン、2016年7月16日)
・・「いまのドイツは戦間期のアメリカに近く、自身の権力と責任(意識)とが見合っていない状況にある。じつは、いま欧州で必要とされるのは、責任に見合ったより一層のドイツの権力行使であり、正しい権力の使い方なのだが、「ドイツの覇権が復活した(ので警戒せねば)」とだけ述べる多くの言説は、その必要を覆い隠してしまう。こうして中途半端なドイツの権力と責任感の下で、欧州経済社会は窒息する。そのなかで、不満分子は当然増え、反EU機運が盛り上がる。それを担うのは、イギリス同様、グローバル化=EU統合でないがしろにされてきたと感ずる中流以下の層である。・・中略・・ 特に独仏における政党政治が底抜けすると、EUが内破するというのがボトムラインであり、それが当面ありそうにないとすると、今回のイギリス国民投票はEU崩壊・瓦解でなく、再編をもたらすものとなろう。」

「英国国民投票-EUの反応と今後の手続きは?」(2016年6月号 質問コーナー、EUの日本語広報誌『EU MAG』記事)
・・「Q2.国民投票に先立ち、英国政府の要請で英国とEUが交渉した条件についてはどうなるのですか?  A: 2016年2月18日、19日の欧州理事会(EU首脳会議)で合意された「EU内の英国の特別な地位を強化する合意(the UK Settlement)」は、消滅しました」

EUの盟主ドイツで「イギリス離脱」はどう報じられたか-これって「イジメ」じゃない? 結論が出て、ますます混迷深まる (川口マーン惠美、現代ビジネス、2016年7月1日)

英EU離脱の隠れた理由は「宗教」だ (宿輪純一、ダイヤモンドオンライン、2016年7月6日)
・・英国を英国たらしめているのは国教会(=アングリカン・チャーチ)。英国国王は国教会の首長である。英国が大陸と一線を画している理由の背景にあるものに宗教がある

イギリスEU離脱と中国の計算 (遠藤誉、2016年6月26日)
・・「イギリスがEUから離脱しても、イギリスはますます中国への経済依存度を高めるだけで、中国がEUとの距離をメルケル首相を通して強化していれば、中国は漁夫の利を得ることになる。・・中略・・ AIIB加盟に関し、イギリスに率先して手を挙げさせることによって先進7ヵ国(G7)の切り崩しを図ったわけだ。日米を除くG7のAIIB参加に成功した中国は、イギリスのEU離脱の日に備えて、イギリスとは別にEUとの連携を強化し、EUで最大の力を持っていると中国がみなしているドイツをターゲットにした。」

Brexit: The Impact on Business (Bloomberg BusinessWeek, July 29, 2016)

EU離脱もイギリス経済は全然ヤバくなってない-あの懸念は何だったのか 黄信号が灯ったのはむしろユーロ圏 (安達誠司、現代ビジネス、2016年8月25日)
・・「リーマンショック後、イギリスは先進国の中ではもっとも成長率が高い国に分類される・・中略・・ イギリスの国民投票後に、大陸欧州の銀行株が急落したことを考えると、今回の「Brexit」問題は、イギリス経済の問題というよりも、欧州の金融問題の深刻さを炙り出したと言えなくもない。このように考えると、「Brexit」の問題は、経済面でいえば、イギリスというよりも、むしろユーロ圏を中心とした大陸欧州経済の深刻さをあらためて浮き彫りにしたのではなかろうか。」

 【ゼロからわかる】イギリス国民はなぜ「EU離脱」を決めたのか 露わになるグローバル化の「歪み」(笠原敏彦、現代ビジネス、2017年1月8日)

(2016年6月27日・28日・30日、7月3日・9日・24日・29日、8月27日、2017年3月18日 情報追加)



<参考情報>

「ノルウェーはなぜEUに加盟していないのですか」(ノルウェー大使館 公式ウェブサイト よくある質問 FAQ)
・・「1994年に行なわれた国民投票の結果、ノルウェーはEUに加盟しないことを決定しました。主な理由としては、EUに加盟することによって国内および国際的政治政策で、国としての独自性を保つことが難しいことや、貿易・産業の分野でノルウェーの利益を十分に守ることができないことなどがあげられます。ただし、1994年の国民投票の結果をみても反対52%、賛成48%とその差は大変小さく、意見の分かれる難しい問題です。現在でも引き続き議論が行なわれています」


英国のEU離脱の衝撃は何百年と語り継がれるだろう「逆回し」で歴史をさかのぼると見えてくること(佐藤けんいち、JBPress、2017年6月6日)
・・このブログのオーナーであるわたくし自身が執筆したコラム記事。

(2017年8月15日 情報追加)


(追記) なお、2017年5月18日に出版した拙著『ビジネスパーソンのための近現代史の読み方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017)では、「想定外」であった英国の「EU離脱」と米国のトランプ大統領誕生を「2016年の衝撃」と捉えて、その衝撃を出発点とした近現代史を描いているので参照していただきたい。(2016年8月15日 記す)





<ブログ内関連記事>

■「近代」以降の英国史

書評 『大英帝国という経験 (興亡の世界史 ⑯)』(井野瀬久美惠、講談社、2007)-知的刺激に満ちた、読ませる「大英帝国史」である
・・本書には、スコットランド併合と北部アイルランド併合の歴史も詳述されている。連合王国(United Kingdom)とは、イングランドによる周辺王国の併合の結果生まれたものだ。歴史的経緯を考えれば解体もあり得る話だとわかる

書評 『大英帝国衰亡史』(中西輝政、PHP文庫、2004 初版単行本 1997)-「下り坂の衰退過程」にある日本をどうマネジメントしていくか「考えるヒント」を与えてくれる本
・・「英国に対する挑戦者としてヨーロッパ大陸から急速に勃興し英国を脅かす存在となったドイツが、何かしら日本に対して挑戦者として急速に勃興してきた中国を想起させるものがあるのだ。 歴史の教訓として、英国はドイツを意識しすぎるあまり、衰退を早めたことが本書では語られている」

映画 『マーガレット・サッチャー-鉄の女の涙-』(The Iron Lady Never Compromise)を見てきた
・・EUに懐疑的であったサッチャー首相

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)
・・「金融ビッグバン」後の英国で、英国の証券会社に日本人として勤務していた著者が体験し、つぶさに観察した実情を「鏡」にして、日本の行く末を考察した内容の本。英国の格差社会化は、日本に先行している

書評 『イギリス近代史講義』(川北 稔、講談社現代新書、2010)-「世界システム論」と「生活史」を融合した、日本人のための大英帝国「興亡史」
・・「サッチャー革命」による金融街シティの変貌が、ジェントルマン資本主義から新自由主義への完全な移行をもたらした・・(中略)・・ 現在のシティは、すでに白洲次郎が語っていたような金融界ではない」

「近代スポーツ」からみた英国と英連邦-スポーツを広い文脈のなかで捉えてみよう!
英国については、2012年にインターネット放送で、「近代スポーツ」からみたイギリスとイギリス連邦」というテーマで語っているのでご参照いただきたい。


■EU(欧州共同体)とドイツ

書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている
・・「国債とは英語でいえばソブリン・ボンド(Sovereign Bond)のことだ。ソブリンとは主権国家の「主権」を意味する。だが、共通通貨ユーロの加盟国であるギリシアには、究極の国家主権である通貨発行権はいまやない。国家として独自の通貨はもてないのである。 にもかかわらず、ギリシアだけでなくその他のユーロ加盟国も、財政主権など通貨発行権以外の主権を有したままの中途半端な状態になっている。これが、ユーロ設計の問題点なのだ。設計ミスといっていい」

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る
・・すでに経済的にはドイツに従属するフランス。英国が「離脱」したあと、ドイツのさらなる巨大化は避けられないか?


主権在民というプリンシプルと国家主権の意味

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!
・・「主権国家」(ソブリン・ステート)という概念と、それを発展させてきた欧州の歴史を見ることで、現在の国民国家(ネーション・ステート)危機が、国民国家の主権者である国民にとっての危機でもある」 欧州共同体のメンバーであるということは、国家主権が制限されることを意味する。

「小国」スイスは「小国」日本のモデルとなりうるか?-スイスについて考えるために

書評 『スイス探訪-したたかなスイス人のしなやかな生き方-』(國松孝次、角川文庫、2006 単行本初版 2003)
・・「国民投票による直接民主制を堅持するスイスには、実はプロの政治家はいっさい存在しない。みな他に職業をもっており、連邦レベルでも政治は奉仕活動」

書評 『大英帝国の異端児たち(日経プレミアシリーズ)』(越智道雄、日本経済新聞出版社、2009)-文化多元主義の多民族国家・英国のダイナミズムのカギは何か? 
・・英国の強みは移民がもたらす多様性にあるのだが、度が過ぎると捉えたのが「離脱」派なのであろう

「主権在民」!-日本国憲法発布から64年目にあたる本日(2011年5月3日)に思うこと


「脱出」関係

「島国」の人間は「大陸」が嫌いだ!-「島国根性」には正負の両面があり、英国に学ぶべきものは多々ある

欧州に向かう難民は「エクソダス」だという認識をもつ必要がある-TIME誌の特集(2015年10月19日号)を読む

「3-11」後の個人の価値観の変化に組織は対応できていますか?-個人には「組織からの退出」というオプションもある
・・経済学者ハーシュマンの voice/exit (発言/退出)を地で行くような英国の「EU離脱」劇 

(2016年6月27日・28日、7月5日・9日、2017年8月15日 情報追加)




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(2012年7月3日発売の拙著です)









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2016年6月21日火曜日

『日本がアメリカを赦す日』(岸田秀、文春文庫、2004)-「原爆についての謝罪」があれば、お互いに誤解に充ち満ちたねじれた日米関係のとげの多くは解消するか?


アメリカ関連の本は、ふだん参照することはあまりないので、処分していないものはダンボール箱につめたままにしているのだが、ここのところ改めてアメリカについて考えてみたいと思うことがあって、箱の中を点検してみたら、『日本がアメリカを赦す日』(岸田秀、文春文庫、2004)という本があるのを再発見した。

単行本初版は2001年に出版されている。文庫化されたのは2004年、初読したのは2004年と、すでに12年も前になるのだが、この本の存在も読んだこともすっかり記憶から消えていた。

パラパラとページをめくってみると、これがめっぽう面白い。いわゆる「唯幻論」で一世を風靡した精神分析学者によるアメリカ論であり、日本論であり、日米関係論でもある。結局、最初から最後まで再読してしまった。

アメリカの「黒船」による強いられた「開国」から始まった「近代日本」アメリカの「子分」でありながら「親分」に刃向かったために徹底的に叩きつぶされた「近代日本」。原爆を投下されて無条件降伏させられた日本近現代史は、日本と米国をともに離れた地点から眺めると、このように理解すべきかもしれない。著者の指摘には説得力がある。

「黒船」をめぐるパーセプションギャップが日米に存在するのである。日本での扱いの大きさに対して、米国における扱いはひじょうに小さいのだ、と。つまり非対称的なのである。

「屈辱感、敗北感、劣等感に呻(うめ)きつづけて」きた被害者意識濃厚な日本に対し、非西欧の「後進国を文明化するという使命」を遂行したと思い込んでいる普遍主義と正義の立場に立つ米国。「黒船」の主体と客体の違いと言うべきか。植民地化は「かろうじて免れた日本だが、精神的には圧迫されつづけてきたことは言うまでもない。

お互いに無理解のまま、勝手にイメージをつくりあげた関係である日米関係の歴史。日米双方にに「自己欺瞞」があるという著者の指摘は興味深い。

日本人の自己欺瞞とは、外部から見れば明らかにアメリカの子分でありながら、それを認めたくないという気持ちを内向させているということ。たとえ無意識レベルの話だとしても、「外的自己」と「内的自己」の分裂だと著者は指摘する。これは一般的な表現をつかえばタテマエとホンネの分裂といえるかもしれない。この自己の分裂が、敗戦後は米国に従順に振る舞いながらも、ときどき日本側のホンネが噴出して米国を当惑させイライラさせ、ときに激昂させる。

アメリカ人の自己欺瞞とは、インディアン(=ネイティブ・アメリカン)虐殺がアメリカ史の原点にあることを隠蔽しようとする心的規制のことをさす。先住民の虐殺後も、南北戦争において連邦離脱をはかった南部諸州に対して非道な仕打ちを行っている。米国の眼中には殲滅戦しかないのである。無条件降伏を求めながら、敗戦後は寛大な態度を示すパターンは日本にも適用された。

先住民虐殺の延長線上に、日本人に対する無差別空爆や原爆投下があるのではないか、という著者の主張には一定の説得力がある。だからこそ、無条件降伏に持ち込んだ対日戦とは異なり、ベトナム敗戦のショックが米国人のあいだで長引いた理由もそこにありそうだ。

出版後の出来事であるため本書には反映はないが、米国のイラク改造計画が失敗に終わったのは、日本での「成功体験」があまりにも大きすぎて、イラク人が従順に振る舞うと勘違いしたことにありそうだ。

著者は、基本的に個人について適用されるフロイト流の精神分析を国民全体に拡大適用可能だとしている。その根拠はフロイトが『モーセと一神教』でユダヤ民族について行った分析方法にある。原点にあるトラウマを認めない自己欺瞞が自己の分裂を招いているのだが、現実をきちんとみつめることをつうじて、分裂した自己の統合を行うことが治癒につながるというのが著者の主張だ。

被害者意識を内向させている日本、加害者意識のまったく皆無の米国。この構図が続く限り、日米関係は健全な二国間関係とは言いがたい。現実をきちんと見て、現実を認めること、これは個人の治癒の前提であるが、国家間関係についても日米双方にとって必要なのである。

第11章が「日本がアメリカを赦す日」と題されており、原爆投下について取り扱っている。こういう一節があるので引用しておこうと思う。

日本国民は、謝罪されれば、つけあがって補償を寄越せというようなことを言い出す国民ではなく、謝罪してくれたというだけで、アメリカを赦すでしょう・・(以下略)・・

さて今回のオバマ大統領のヒロシマ訪問だが、公式の謝罪のコトバはなかったにしても、限りなく謝罪に近い感情を被爆者とのハグをつうじて言外に示したものと日本人の多くが解釈したのであれば、それ以上はグダグダ言わないと考えていいのかもしれない。

であれば、「日本がアメリカを赦す日」はすでに来たといえるかもしれない。もちろん、つぎの大統領の言動で日本人の気持ちが180度ひっくり返るかもしれないが・・・。いずれにせよ、いつの時点かわからないが「公式な謝罪」がおこなわれることを期待することには変わりない。

なんてことを考えてみたりするキッカケになる好著なのだが、どうやら肝心要の2016年において品切れのようだ。出版社も重版かけるなりして、もっと商売を熱心に考えたほうがいいのではないかと思うのだが・・・。





目 次

第1章 アメリカの子分としての近代日本
第2章 屈辱感の抑圧のための二つの自己欺瞞
第3章 ストックホルム症候群
第4章 嘘のプライド
第5章 平和主義の欺瞞
第6章 アメリカ文化の普遍性
第7章 和を乱す必要
第8章 東京裁判とアメリカの病気
第9章 侵略と謝罪
第10章 愛国心について
第11章 日本がアメリカを赦す日
補論 個人の分析と集団の分析
あとがき
文庫版あとがき
解説 東谷暁

著者プロフィール
岸田秀(きしだ・しゅう)
1933年香川県善通寺市生まれ。精神分析の立場に立つ思想家。人間は本能が壊れて、現実を見失い、幻想の世界に迷い込んだ変な動物であるとの唯幻論に基づいて、自我、神経症、セックス、宗教、歴史、国家、文化など、人間に関するさまざまな現象を解明しようとしている。著書多数。





<ブログ内関連記事>

書評 『戦争・天皇・国家-近代化150年を問い直す-』(猪瀬直樹・田原総一郎、角川新書、2015)-「日米関係150年」の歴史で考えなければ日本という国を理解することはできない
・・「「戦後70年」においては、近隣諸国である東アジアの中国と韓国との対応が焦点になっているが、じつは真の問題はアメリカとの関係なのである。アメリカとの抜き差しならない関係は、大東亜戦争の敗戦による占領期間中に実行された「日本改造」から始まったのではなく、黒船来航の恐怖から始まったことは、肝に銘じておく必要がある。 日米関係は、その原点から非対称的な関係にあるのだ。圧倒的な国力の差である。それはハードパワーだけでなくソフトパワーも含めた総力としての差である。1980年代後半には経済面でその差は縮まったかに見えたが、バブル崩壊以後は逆に差は開く一方だ。 アメリカのパワーは今後も依然として巨大なのか、それとも衰退しつつあるのか? この国には両極端の議論が存在するが、いずれも現実そのものを見つめた結果というよりは、論者の願望が強く反映されたものに過ぎないような気もしないわけではない。アメリカという存在を虚心坦懐に見ることは、局外中立的な立場にはない日本人にはむずかしい。日米関係が抜き差しならない関係とはそういう意味だ。
反米でも親米でもなく、自虐でも自分褒めでもなく、さらには主義主張の是非とは関係なく、「近代化150年」というスパンでものを考えることが、日本について考えるための大前提である。まずは、読みやすい本書から始めてみるのがよいだろう。」

書評 『西洋が見えてきた頃(亀井俊介の仕事 3)』(亀井俊介、南雲堂、1988)-幕末の「西洋との出会い」をアメリカからはじめた日本
・・「1980年代後半はバブル時代だと片づけられてしまう傾向があるが、その一方では強大化する日本に対するアメリカからの「日本異質論」という猛反発がものすごい時代であり、開戦前夜のような空気すらあった。 その当時もまた日本人はナショナリズムをつよく刺激されていたのである。 現在はナショナリズムが向かう方向が中国に向かっているが、本質的にはアメリカに対しての愛憎関係が中核にあるといっていいだろう。日中関係はじつは日米関係であり米中関係である。アメリカを媒介変数にしないと日中関係も理解できないのだ。
「西洋の衝撃」(Western Impact)は日本人だけではなく、中国人も朝鮮人もその他のアジア人もみな受けたわけだが、なぜ日本人だけがいちはやくその挑戦を真正面から受け入れ、苦難と苦闘をへながらも乗り越えることができたのか。たとえ精神の奥底には衝撃のトラウマがあるかもしれないにせよ。 そしてまた、なぜ日本はアメリカの影響を受け、その後は旧世界であるヨーロッパの影響を受けて「脱亜入欧」し、こんどはアジアに向かい、そしてまたアメリカの影響を受け・・・と振幅のブレが激しいのか?」

『愛と暴力の戦後とその後』 (赤坂真理、講談社現代新書、2014)を読んで、歴史の「断絶」と「連続」について考えてみる
・・「アメリカ占領軍の占領政策が成功したのは、日本人の多くが「敗北を抱きしめた(ジョン・ダウワー)からだ。占領軍を進駐軍と言い換え(・・侵略を進出と言い換える心理的メカニズムを想起する)、日本人の多くがアメリカの占領政策を支えたことはまぎれもない事実である。見ないふりをしてきたツケがまわってきている。そのツケは精神的空洞をもたらしているし、いわゆるネトウヨに代表されるように、「いままで騙されてきた感」という過剰なエネルギーの逆噴射もある。見ないふりをしてきたが、もはや決壊も近いのなのかもしれない。いわば歴史を無視してきいたことのツケ、歴史の復讐であり、歴史の逆襲といえるかもしれない」

書評 『ワシントン・ハイツ-GHQが東京に刻んだ戦後-』(秋尾沙戸子、新潮文庫、2011 単行本初版 2009)-「占領下日本」(=オキュパイド・ジャパン)の東京に「戦後日本」の原点をさぐる

本日(2013年7月4日)はアメリカ独立=建国から237年。いや、たった237年しかたってない「実験国家」アメリカ
・・「神話の国」である日本と「実験国家」であるアメリカ。価値観を同じくするとこの国の首相(=安倍晋三)はクチにしてますが、じっさいには日米は水と油のようなまったく異質の存在です。アメリカに住んでいたことのあるわたしはそう言い切って問題ないと思います。

オバマ大統領が米国の現職大統領として広島の原爆記念館を初めて訪問(2016年5月27日)-この日、歴史はつくられた

(2016年7月22日、12月4日 情報追加)



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2016年6月18日土曜日

「赤羽末吉スケッチ写真 モンゴル・1943年」(JCIIフォトサロン 東京・半蔵門)に立ち寄ってきた(2016年6月18日)-絵本作家の赤羽末吉が撮影した戦前の内蒙古

(会場で販売している図録)

東京・半蔵門の JCIIフォトサロンで開催中の「赤羽末吉 スケッチ写真 モンゴル 1943」に立ち寄ってきた(会期:2016年5月31日~6月26日 入場無料)。たまたま、ネットの情報で展覧会のことを知ったのは幸いであった。

赤羽末吉(1910~1990)は戦後日本を代表する絵本作家の一人。日本の民話を題材にした『かさじぞう』や『だいくとおにろく』、そしてモンゴルの民話を題材にした『スーホの白い馬』で有名な絵本作家だ。

その赤羽末吉が、戦前の内蒙古で撮影した貴重な記録写真の初公開である。73年前の写真ネガから、今回あらたにニュープリントしたもので、じつに鮮明なモノクロ写真の数々である。

モンゴル平原の抜けるような青い空、そして乾燥した大地。そしてその大地に生きる遊牧の民と動物。古武士のような風貌のモンゴル人男性たち、そして民族衣装に身を包み装飾品を身につけた女性たち、天真爛漫な子どもたち、馬や羊、ラクダ、そして蒙古犬。

(会場入り口近くの案内 右は王妃の写真)

遊牧民の移動住居であるパオ(=ゲル)、そしてラマ教(=チベット仏教)関連。寺院に僧侶、そして貝子廟(ベイズミャオ)における仏教僧侶による仮面舞踏チャム。

ソ連の影響下で独立を保つことができた外蒙古(=外モンゴル:現在のモンゴル国)とは異なり、帝国陸軍の支援による「モンゴル統一運動」が失敗に終わったのち、中国共産党が中国で支配を確立してから中国領として取り込まれた内蒙古(=内モンゴル)は、文化大革命の時代に仏教寺院が破壊されたのみならず、内国植民地としてモンゴル人のジェノサイド(=大量虐殺)が行われ、漢人の入植によって固有文化や遊牧民としての生活形態まで徹底的に破壊されてしまったことは、近年明らかにされつつある歴史的事実である。

その意味では、赤羽末吉が撮影した90点に及ぶ写真は、じつに貴重なものなのである。

写真が撮影されたのは1943年7月。日本の敗戦後は現地で留用されたが、1947年に帰国した際に写真やスケッチを持ち帰ることに成功したのだ、と。じつにラッキーなことであった。

モンゴル好きなら行くべき写真展である。 そして『スーホの白い馬』の読者ならなおさらモンゴルでの実体験があってこそ、あの名作が生まれたのだと納得されるのだ。 とくに人々の表情がじつに魅力的だ。

会場で販売している図録(800円)はぜひこの機会に購入しておきたい(通販あり)。貴重な写真資料としてざひ手元に置いておきたい。



赤羽末吉(あかばね・すえきち)
1910年、東京の神田に生まれる。1932年旧満州(中国東北部)大連に渡る。運送業、電信電話会社などの仕事のかたわら独学で絵を学び、満州国国展に出品、特選賞を3回受賞。1947年帰国。1949年から69年までアメリカ大使館に勤務。1959年「民話屏風」で日本童画会展・茂田井武賞受賞。1961年、50歳のときに絵本の処女作『かさじぞう』を出版。『ももたろう』『白いりゅう黒いりゅう』で1965年サンケイ児童出版文化賞、『スーホの白い馬』で1968年サンケイ児童出版文化賞、1975年ブルックリン美術館絵本賞など。1990年、80歳にて没す。(ちひろ美術館サイトの情報に加筆)







<ブログ内関連記事>

『スーホの白い馬-モンゴル民話-(日本傑作絵本シリーズ)』(大塚勇三・再話、赤羽末吉・絵、福音館書店、1967)-「良質な絵本」もまた大事にしていくべき「昭和遺産」だ

書評 『回想のモンゴル』(梅棹忠夫、中公文庫、2011 初版 1991)-ウメサオタダオの原点はモンゴルにあった! 
・・戦前の内蒙古におけるフィールドワークの記録。馬についての生物学、生態学、人類学的な記述がある

書評 『ノモンハン戦争-モンゴルと満洲国-』(田中克彦、岩波新書、2009)-もうひとつの「ノモンハン」-ソ連崩壊後明らかになってきたモンゴル現代史の真相 ・・この戦争でモンゴル人は内外二つにわかれて対峙することになる

書評 『「シベリアに独立を!」-諸民族の祖国(パトリ)をとりもどす-』(田中克彦、岩波現代全書、2013)-ナショナリズムとパトリオティズムの違いに敏感になることが重要だ
・・「連邦制を最終的に拒否した中国共産党においては、漢族中心の国家体制においては少数民族のチベットや内モンゴルを「国内植民地」扱いしてきた」

書評 『帝国陸軍 見果てぬ「防共回廊」-機密公電が明かす、戦前日本のユーラシア戦略-』(関岡英之、祥伝社、2010)-戦前の日本人が描いて実行したこの大構想が実現していれば・・・
・・モンゴル、トルキスタン

書評 『朝青龍はなぜ強いのか?-日本人のためのモンゴル学-』(宮脇淳子、WAC、2008)
・・同じアジア人であっても自然環境と地理的条件で大きく異なった文化と民族性

チベット・スピリチュアル・フェスティバル 2009
・・チベットの密教僧によるチャム(仮面舞踏)の映像あり



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書評 『沈まぬアメリカ-拡散するソフト・パワーとその真価-』(渡辺靖、新潮社、2015)-アメリカの「ソフトパワー」は世界に拡散して浸透、そしてアメリカに逆流する


つねづね疑問に思っているのだが、ほんとうにアメリカは衰退しているのだろうか? 「衰退論」というのは「ためにする議論」であり、「願望」に過ぎないのではないか、と。
   
現在でも全世界に空母部隊を展開できる圧倒的な軍事力、それを支えるGDP規模世界一の経済力、そして米ドルという基軸通貨などを考えれば、依然としてアメリカの存在は圧倒的だ。しかもシェールガス革命によってエネルギー自給も可能となった。

たしかに中国が台頭し、その他インドも含めた「新興国」の登場がアメリカの絶対的優位性を弱めていることも確かだろう。冷戦崩壊後にスーパーパワーとしての「米国一極化」が実現したが、四半世紀前のそのイメージと比較すれば陰りがみえるのも、当然と言えば当然だろう。

そんなことを考えているなか、『沈まぬアメリカ-拡散するソフトパワーとその真価-』(渡辺靖、新潮社、2015)という本の存在を知って、さっそく読んでみた。なによりもタイトルに惹かれたからである。


「ソフトパワー」をつうじて影響力を行使しつづけるアメリカ

そう、衰退論に欠けているのはソフトパワーという視点なのだ。軍事力というハードパワーだけでなく、ソフトパワーという視点をもたないと見誤るのである。一国のパワーはハードパワーとソフトパワーに区分して考えるべきだと主張したのは、たしか米国の政治学者ジョゼフ・ナイだったと思うが、きわめて重要なポイントだといえる。

文化人類学者でアメリカ研究を専門とする著者が取り上げているのは、ハーバード―大学、リベラル・アーツ、ウォルマート、メガチャーチ、 セサミストリート、政治コンサルタント、ロータリークラブ、ヒップホップの8章。

メガチャーチや政治コンサルタントは、いまだ日本文化には浸透していないが(・・今後もないかもしれない)、ヒップホップを「現代アメリカ文化の象徴」としているのは興味深い。ジャズやロックも、かつてその役割を果たしてきた。

アメリカのソフトパワーといえば、上記のほかにハリウッドやディズニーランド、マクドナルド、スターバックス、ベースボール、アマゾン、フェイスブックやツイッターなどのSNSがあるが、あえてこれらの定番はとりあげなかったという。著者があげていないものでいえば、アメリカンフットボールやコカコーラもあげておくべきだろう。

このようにアメリカ発のソフトパワーは列挙するだけでも多岐にわたって枚挙にいとまがない。著者は、文化人類学者としてアメリカだけでなく世界中をフィールドワークして、アメリカのソフトパワーがいかに世界中で受容されているかをつぶさに調べている。

アメリカのソフトパワーは、けっして上流から下流への一方的な流れではなく、それを受容するサイドの取捨選択が働くし、経済性の問題もある。これは日本だけでなく、世界中どこでも同様だ。価値観の異なるはずの中国やイスラーム圏でもアメリカのソフトパワーは部分的に浸透していることに示される。受け入れ側で定着するのはローカーリゼーション、つまり土着化が必要となる。

そして、世界に拡散したアメリカのソフトパワーは、それがすでにアメリカ起源だと意識されなくなっても依然として大きな影響を与え続けている。世界中でその土地のローカル文化に浸透しており、ことさらアメリカというイメージで飛びつくわけでもない。それが「拡散」という意味であるが、さらにいえローカルでカスタマイズされた文化がアメリカに逆輸入されるという「逆流」もある。

「帝国」であるとは、文化という側面でいえば、支配地域の文化を取り入れて自らも変化することだ、という捉え方がある。「逆流」とはその流れである。まさにこの動きによって「アメリカ帝国」は成熟期に入っているといえるかもしれない。

ピーク(=絶頂)は過ぎて「衰退」期に入っているとはいえ、滅亡まではまだほど遠い。大英帝国も同様のプロセスをたどった。ローマ帝国もまたそうだったではないか。


「アメリカ衰退論」は20年ごとに繰り返される

「アメリカ衰退論」は、著者によれば20年に一回は繰り返されてきたという。たしかに言われてみればそのとおりだ。

今回の2008年のリーマンショック後の「衰退論」は、ハードパワーにかんしては相対的な意味ではそうかもしれないが、ソフトパワーにかんしては明らかに異なる、と結論していいかもしれない。もちろん、アメリカ国内には格差問題が存在するのではあるが、格差問題にかんしては日本もまたひどいものがある。

やはり、「アメリカ衰退論」というのは「ためにする議論」であり「願望」に過ぎないのではないか、と言っても言い過ぎではないだろう。いわゆるポジショントークのたぐいである。過去なんども衰退論が声高に語られていたことを思い出すが、そのたびにアメリカは復活し、しかも日本をぶっちぎりで驀進さえしてきたではないか。

米国一極中心の世界が終わったのは、米国のパワーが衰えたからというよりも、インターネット時代の「非国家アクター」の存在が急速に増大化し、拡散しつつあるからだ。その結果、米国もそのアクターの一つにしか過ぎない存在となってしまったのである。

なにごとも、世の中の論調だけで判断せず、実感を大事にして、自分のアタマで考えることが重要だ。参照軸としてのトクヴィルの『アメリカのデモクラシー』からの引用も適切だ。フランス貴族のトクヴィルもまた、自分で観察し、実感を大事にして自分のアタマで考えた人だ。

「アメリカ衰退論」に疑問をもつすべての人に勧めたい。





目 次

はじめに-衰退か、それとも拡張か
第1章 ハーバード-アメリカ型高等教育の完成
 ハーバードの神話
 ハーバードとは何だったのか
 リベラル・アーツ教育
 反知性主義と「アメリカ型高等教育」
第2章 リベラル・アーツ-アメリカ型高等教育の拡張
 中東のニューヨーク
 アブダビにとっての「アメリカ」
 東アジアの新興国へ
 理念の拡張か、妥協か
 「アメリカ型高等教育」のレガシー
第3章 ウォルマート-「道徳的ポピュリズム」の功罪
 ウォルマートの「聖地」
 スモールタウンの経営哲学
 「ウォルマート・ネーション」
 ウォルマートの南部性
 ウォルマーティゼーション
 道徳的ポピュリズム
第4章 メガチャーチ-越境するキリスト教保守主義
  「ウガンダへのクリスマス・ギフト」
 「神様はウガンダを愛する」
 Cストリート
 したたかなダブルスタンダード
 ワトト教会
 アメリカのジレンマ
 シンガポールのメガチャーチ
 拡散する信仰のOS
第5章 セサミストリート-しなやかなグローバリゼーション
 "セサミストリート" はどこにある?
 革新的な制作手法
  リベラルマインドの結晶
 綿密なローカライゼーション
 その理念は日本にも届いたのか
 文化外交のツールとして
 中国化するセサミストリート
第6章 政治コンサルタント-暗雲のアメリカ型民主主義
 政治のビジネス化の幕開け
 「信条よりもビジネス」
 越境するアメリカの政治手法
 色褪せるアメリカン・デモクラシー
第7章 ロータリークラブ-奉仕という名のソフト・パワー
 奉仕のクラブ
 日本人も会長に
 第二次世界大戦後の躍進
 世界的展開とその限界
 奉仕大国・アメリカ
 ミドルクラスが担う世界
第8章 ヒップホップ-現代アメリカ文化の象徴
 セジウィック・アベニュー1520番地
 現代アメリカ文化の顔へ
 ポストモダン的拡張
 政治や外交の手段としてのヒップホップ
 ヒップホップとアメリカ文化の伝統
終章 もうひとつの「アメリカ後の世界」
 地域コミュニティからテーマ・コミュニティへ
 アメリカナイゼーションの実態
 通底するデモス=市民へのこだわり
 マーケットの論理や力学への信頼
 アメリカナイゼーション批判の陥穽
 私たちは如何なる代替案を持ち得るのか おわりに
おわりに



<ブログ内関連記事>

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12 を読む-特集テーマは「The World Ahead」 と 「インド、パキスタン、アフガンを考える」
・・「国際政治の文脈で、いち早く、軍事や産業などの「ハード・パワー」ではない、文化などの「ソフト・パワー」が重要だと主張したナイ教授は、最近は「スマート・パワー」(smart power)概念を打ち出している。・・(中略)・・ まさに文字通り「賢いパワー」として、きわめて強力なものとなるであろう。 ただし、ナイ教授が言うように、パワーは善し悪しや大小で論ずべきものではなく、自らがもてるパワーリソース(=パワーを支える資源)をいかに優れた戦略に結びつけることができるかという方法論で決まってくる。だからこそ、賢いパワーなのである。情報化時代における同盟とネットワークのありかたについても示唆の多い論文である」
・・「インターネット「相互接続権力」は、米国のパワーの相対的な低下を招いた要因としては、新興国の勃興に勝るとも劣らない重要な意味をもつようになっている。 インターネットは、ある意味では米国発の「ソフトパワー」であるが、テクノロジーとしてのインターネットの本質は、政治的には「諸刃の剣」であることに注目する必要がある。テクノロジーそのものは価値中立的なツール(道具)であるからだ」

「世界の英知」をまとめ読み-米国を中心とした世界の英知を 『知の逆転』『知の英断』『知の最先端』『変革の知』に収録されたインタビューで読む

書評 『やっぱりドルは強い』(中北 徹、朝日新書、2013)-「アメリカの衰退」という俗論にまどわされないために、「決済通貨」「媒介通貨」「基軸通貨」「覇権通貨」としての米ドルに注目すべし
・・「アメリカ衰退論」への反証

書評 『無人暗殺機ドローンの誕生』(リチャード・ウィッテル、赤根洋子訳、文藝春秋、2015)-無人機ドローンもまた米軍の軍事技術の民間転用である
・・「技術そのものは価値中立的な存在である。倫理的な問題が発生するのは運用面にかんしてである。そしてまたアメリカという国家の底知れぬチカラもまた感じることができるはずだ。アメリカ衰退論などという与太話を一蹴する内容」

映画 『プロミスト・ランド』(米国、2012)をみてきた(2014年9月8日)-衰退するコミュニティ(=共同体)とプロミスト・ランド(=約束の地)
・・「アメリカ中西部のスモールコミュニティにこそ、大都市にはない本当のアメリカがある。「ハイスクールの体育館で行われるタウンミーティングは民主主義(=デモクラシー)の最小ユニットであり原点でともいうべきものだ。コミュニティのことは、コミュニティで決めるという自治の精神。これが現在でも生きているのがアメリカらしさ」。 1980年代に「アメリカ衰退論」が盛んだった頃のスプリングスティーンの名曲を想起する。バブル経済で快進撃の日本とは、えらく対照的であった。「1980年代のこういった曲を思い出しながら、いまの日本はまさにあの時代のアメリカを後追いしているのだなという感をぬぐうことができない。国全体で減少しつつある人口、消滅する自治体・・・。衰退する日本、である。」

鹿のマークの John Deere (ジョン・ディア)-この看板にアメリカらしいアメリカを感じる

書評 『アップル帝国の正体』(五島直義・森川潤、文藝春秋社、2013)-アップルがつくりあげた最強のビジネスモデルの光と影を「末端」である日本から解明

レンセラー工科大学(RPI : Rensselaer Polytechnic Institute)を卒業して20年

アンクル・サムはニューヨーク州トロイの人であった-トロイよいとこ一度はおいで!
・・「アンクル・サム伝説が生まれたのは、1812年の米英戦争(・・第二独立戦争ともいう)がキッカケ」

書評 『ワシントン・ハイツ-GHQが東京に刻んだ戦後-』(秋尾沙戸子、新潮文庫、2011 単行本初版 2009)-「占領下日本」(=オキュパイド・ジャパン)の東京に「戦後日本」の原点をさぐる

「日米親善ベース歴史ツアー」に参加して米海軍横須賀基地内を見学してきた(2014年6月21日)-旧帝国海軍の「近代化遺産」と「日本におけるアメリカ」をさぐる
・・「アメリカ的なものがすっかり日本に溶け込んでしまった現在、アメリカそのものも色あせてしまったような気がしなくもない。一般庶民レベルでは極端な「反米」が消えたと同時に、「親米」も影が薄くなったような気もする。いまや、「戦後」になってからまもなく70年(!)である。
それだけ、アメリカ的なものが日本に溶け込んで一部になってしまったということだろう。現在の「アメリカナイズされた日本」であるが、もはや自覚症状ないくらいアメリカは自明の存在である。この30年のあいだにはすっかりディズニーランドも日本の定着して日本の一部となっている。ことさら、アメリカ、アメリカという発言をするまでもないくらいなわけだ。」




(2012年7月3日発売の拙著です)









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2016年6月14日火曜日

書評 『反知性主義-アメリカが生んだ「熱病」の正体-』(森本あんり、新潮選書、2015)-アメリカを健全たらしめている精神の根幹に「反・知性主義」がある


「反知性主義」が流行語となっている。「反知性主義」とは、もちろん「反」が先頭につくから「知性主義」を否定する主義を意味していることは容易に理解できる。だが、どうやらこの日本で使用される意味と、もともと「反知性主義」の本家本元である米国では、意味合いが大きく異なるようだ。

そのことを読みやすいが内容の濃い『反知性主義-アメリカが生んだ「熱病」の正体-』(森本あんり、新潮選書、2015)でおおいに納得することができた。

わたしは本書を読んで、アメリカの反知性主義(anti-intellectualism)は大いに評価すべきものであり、個人的には共感するものが多いと感じた。すくなくとも世間のなかで長いものに巻かれるのをよしとする日本人とは対極の思想であることがわかったからだ。

日本では「反知性主義」というフレーズを語りたがる知識階級の人間が少なくないが、自分は教養人だという「うぬぼれ」(という勘違い)をもっているリベラル派のインテリに多いようだ。上から目線の決めつけであり、ステレオタイプの発想しかできない残念な人たちである。

わたしは本書を一読して、「反知性主義」とはアメリカそのものであり、アメリカに土着したキリスト教が生み出した思想であり、世界に先駆けて実現した「政教分離」の産物であり、プラグマティズムでもある。つまるところ、アメリカを健全たらしめている精神の根幹にある思想だと理解した。

パラフレーズして考えてみよう。

「アメリカそのもの」とは、少数の知的エリートを除いた圧倒的多数のアメリカ国民のよりどころという意味である。プラグマティズムと言い換えてもいいかもしれない。

「アメリカに土着したキリスト教」とは、はじめ英国、その後は欧州を脱出してきた移民たちによる、プロテスタント諸派をベースにしたキリスト教のことだ。アメリカの大地に移植されたキリスト教は、その地でローカライズされたのだが、その根幹に、神と人との「双務契約」がベースにあると著者は指摘している。ある意味で功利的であるとさえ言えようか。かなりドライな印象を受けるのだ。

「天は自ら助くる者を助く」(Heaven Helps Those Who Help Themselves)とは、ベン・フランクリンの引用で有名になった格言だが、「セルフヘルプ」(自助)が根本にある。日本語には「人事を尽くして天命を待つ」という表現があるが、著者の説明を読むとアメリカのキリスト教も似たような印象を受ける。人間側でやることはやったのだから、神はかならずそれに応えるべきだ、と。

世界に先駆けて実現した「政教分離」(Separation of church and state)の産物とは、国家(=ステート)と教会(=チャーチ)を区分するという基本姿勢である。英国国教会(=アングリカン・チャーチ)のような「公定宗教」ではないということを意味している。宗教そのものを国家から遠ざけるというフランス革命的な発想とは違う。

「政教分離」制度のもとにおいては、国民は特定の宗教に縛られることがないかわりに、国家は特定の宗教の財政の面倒も見ない。したがって、さまざまな宗教の存在が認められるが、宗教教団は自力で運営資金を調達しなければならないのである。こういう文脈において、宗教とビジネスが結びつきやすいのである。これもまた「セルフ・ヘルプ」である。

米ドルの紙幣には In God We Trust と印刷されている。基本的にその God とはキリスト教の神を中心とした一神教の神が暗黙裏に想定されている。だが、あくまでも抽象的な God であり、特定の宗派が説く God ではないことに注意しておきたい。

このような背景のこと、アメリカそのものともいってもよい、アメリカを健全たらしめている精神の根幹にある思想として「反知性主義」が存在することが理解されるのだ。


「反知性主義」は誤解を生む表現だ。その心は、「知性」そのものを否定することにはない。「知性主義」を否定するものだ。つまり、「反・知性主義」であって、「反知性・主義」ではない

「知性」が権威や権力と結びつく「知性主義」への異議申し立てなのである。それは反権力という姿勢を取ることもある。その根底には、自分のアタマで考えて自分で行動するというマインドセットがあるのだ。先般亡くなったボクシング・ヘビー級の世界チャンピオンであったモハメド・アリも、きわめてアメリカ的な「反知性主義」の人だといえるのではないだろうか。

その意味では、出版社がつけたタイトルはミスリーディングではないかと思う。たしかに「熱病」的な要素もあるが、「反インテリ」というマインドセットにはポジティブな響きがあるからだ。しかも帯には「いま世界でもっとも危険なイデオロギーの根源」とあるが、これも誤解を生むあおりである。

著者は、日本で「反知性主義」を体現している人物としては、歴史上の人物としては親鸞や日蓮などの仏教者、政治家としては田中角栄などをあげている。わたしは思うに、日本に限らずビジネス界は、アメリカ的な意味の「反知性主義」はむしろメインストリームというべきだろう。

ビジネス界では、机上の空論を語る学者や研究者に対する反発は依然としてきわめて根強い。「評論家になるな!」というのは、ビジネス界においては最大の否定表現である。実践の場に身を置いている人は、たとえ学があり深い教養の持ち主であろうと、必然的に「反知性主義」になるのではないか? アタマでっかちを何よりも嫌うのが実践の世界だ。

知性そのものを否定するのでなく、知性が権威や権力と結びつくのを極端に嫌うのが「反知性主義」。そしてそれは、アメリカ社会のメインストリームのマインドセット。ハーバード大学そのものを否定するのではなく、ハーバード大学「主義」への反発なのだ。

今後は「アメリカの」という枕詞をつけたうえで「反知性主義」上等じゃないか! と言おうと思う。なんてことを考えてみたりもする。

本書は、アメリカのキリスト教史に精通した研究者による、独自の切り口によるアメリカ論でもある。ぜひ読むべきだと推奨したい。





目 次

はじめに
プロローグ
第1章 ハーバード大学 反知性主義の前提
 1. 極端な知性主義
 2. ピューリタンの生活ぶり
第2章 信仰復興運動 反知性主義の原点
 1. 宗教的熱狂の伝統
 2. 「神の行商人」
 3. 反知性主義の原点
第3章 反知性主義を育む平等の理念
 1. アメリカの不平等
 2. 宗教改革左派とセクト主義
 3. 宗教勢力と政治勢力の結合
第4章 アメリカ的な自然と知性の融合
 1. 釣りと宗教
 2. 「理性の詩人」と「森の賢者」
第5章 反知性主義と大衆リバイバリズム
 1. 第二次信仰復興運動
 2. 反知性主義のヒーロー
 3. リバイバルのテクニック 
第6章 反知性主義のもう一つのエンジン
 1. 巨大産業化するリバイバル
 2. 信仰とビジネスの融合
 3. 宗教の娯楽化
第7章 「ハーバード主義」をぶっとばせ
 1. 反知性主義の完成
 2. 知性の平等な国アメリカ
 3. アメリカ史を貫く成功の倫理
エピローグ
あとがき


<関連サイト>

アメリカを動かす「反知性主義」の正体 森本あんり・国際基督教大学副学長に聞く (日経ビジネスオンライン、2015年4月24日)
・・「森本 この、反知性主義(※以下、特記なき限り米国でのそれを指します)というのは、正直、日本人にはどうにも理解しにくいのではないかと思います。米国人にとっては自明のことから説明してもらわないと、我々には「なぜそうなるのか」が分からない。」

(2016年7月25日 項目新設)



<ブログ内関連記事>

アメリカのキリスト教とアメリカ精神

書評 『アメリカ精神の源-「神のもとにあるこの国」-』(ハロラン芙美子、中公新書、1998)-アメリカ人の精神の内部を探求したフィールドワークの記録

レビュー 『これを見ればドラッカーが60分で分かるDVD』(アップリンク、2010)-ドラッカー自身の肉声による思想と全体像
・・ドラッカー晩年のメガチャーチとのかかわりが映像でわかる。これは日本では知られざるドラッカーだ

「アラブの春」を引き起こした「ソーシャル・ネットワーク革命」の原型はルターによる「宗教改革」であった!?
・・「ルターの宗教改革によってプロテスタント化したのは、じつは個人単位ではなく、領国単位であったことにも注意しておきたい。個人が自主的に選択した結果ではなく、領主がプロテスタントになったあとに、プロテスタンティズムは個人に内面化していったということだ。順番は逆ではない。」 これを「公定宗教」という。英国の国教会がそうであったし、植民地時代のヴァージニアもそうだったことが『反知性主義』に描かれている。この前提を知った上で「政教分離」の真の意味を考えるべきなのだ

資本主義のオルタナティブ (1)-集団生活を前提にしたアーミッシュの「シンプルライフ」について
・・「チューリヒの宗教改革は、神学者ツヴィングリが主導したものであったが、「スイス兄弟団」とよばれたラディカル派(急進派)は、教会と国家(=宗教と政治)の癒着を批判し、再洗礼派運動を展開したのであった。都市部で当局から激しく弾圧されたこの運動は、農村部へと拡がっていったのである。 この流れの一部が、メノナイトとなり、さらにはアーミッシュとして分派していったわけである。そして彼らは宗教的迫害を逃れて、自らの信仰をまっとうするため、ピューリタンなどと同様、新天地アメリカに集団移住し、終の棲家(すみか)をみつけることとなったわけである。」

書評 『ドアの向こうのカルト-九歳から三五歳まで過ごした、エホバの証人の記録-』(佐藤典雅、河出書房新社、2013)-閉鎖的な小集団で過ごした25年の人生とその決別の記録


■空気と熱気

米国は「熱気」の支配する国か?-「熱気」にかんして一読者の質問をきっかえに考えてみる
・・「オバマケア」をめぐる論争について2009年に考えたこと

不動産王ドナルド・トランプがついに共和党の大統領候補に指名(2016年7月21日)-75分間の「指名受諾演説」をリアルタイムで視聴して思ったこと

米国大統領選でドナルド・トランプ氏が劇的な逆転勝利(2016年11月9日)-米国はきょうこの日、ついに「ルビコン」を渡った
・・「反・知性主義」の勝利というべきだろう。「健全なアメリカ」がトランプ大統領を誕生させたと考えるべきだ。日本にとっての影響はさておき


アメリカの政治思想

書評 『追跡・アメリカの思想家たち』(会田弘継、新潮選書、2008)-アメリカの知られざる「政治思想家」たち


「自己啓発」の思想

『自助論』(Self Help)の著者サミュエル・スマイルズ生誕200年!(2012年12月23日)-いまから140年前の明治4年(1872年)に『西国立志編』として出版された自己啓発書の大ベストセラー

映画 『マーガレット・サッチャー-鉄の女の涙-』(The Iron Lady Never Compromise)を見てきた
・・サッチャー女史はメソジストの家に生まれた人。メソジストは米国では主流派だが、英国ではそうではない。英国の主流は国教会。サッチャーが非英国的な理由はそこにある。徹底して「セルフ・ヘルプ」の人であった

The Greatest Salesman In the World (『地上最強の商人』) -英語の原書をさがしてよむとアタマを使った節約になる! 
・・『地上最強の商人』(オグ・マンディーノ著)として知られている自己啓発の古典。原著は、コミッションセールスを念頭においている


■「地頭の良さ」は「反知性主義」につながるものがある?

「地頭」(ぢあたま)について考える (1) 「地頭が良い」とはどういうことか?

(2016年6月28日、7月25日、12月1日 情報追加)



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2016年6月6日月曜日

書評 『続・100年予測』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、ハヤカワ文庫、2014 単行本初版 2011)-2011年時点の「10年予測」を折り返し点の2016年に読む


『続・100年予測』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、ハヤカワ文庫、2014)という本の凄さに感嘆している。

オバマ政権の外交政策である「オバマ・ドクトリン」が明らかになってきたいま、2011年に出版された「10年予測」(The Next Decade:次の10年)を目的にした本書の内容の正しさが、つぎつぎと実証されつつあることに戦慄さえを覚えるのだ。

2011年の原書出版後、『激動予測-「影のCIA」が明かす近未来パワーバランス-』というタイトルイで早川書房から出版されたものを、タイトルを『続・100年予測』と変更して2014年に文庫化されたものだ。販売戦略として、ベストセラーとなった『100年予測』を意識したものだ。

ただし、100年という超長期の予測と、10年という長期の予測では本質が異なる地政学的要因でほぼすべてが説明可能な「100年単位」の話と、そのときの政治指導者の個性や行動がおおいに影響を与える「10年単位」の話では性質が大きく異なるのだ。

この本を読むと、オバマ政権末期の外交軍事戦略がよく見えてくる。多くの読者もそう思うことだろう。

オバマ政権2期目の末期近くになって実現したのが、宿敵イランとの「核問題の包括的解決」、キューバとの国交正常化など、つぎからつぎへと事態が進展しているが、本書で説かれている内容を後追いしているかのような印象さえ受けるのだ。このほか、復活したロシア、蜜月であったはずのイスラエルとのあいだで拡がる距離感などなど。

オバマ政権は就任当初から核廃絶など理想主義的な姿勢で出発したが、結局は現実主義の観点に至ったというべきだろうか。いや理想は掲げつつ、現実的に実行するという姿勢に落ち着いたというべきか。

その現実的な対応の背景にあるのが、米国が「意図せざる帝国」になっているという著者のスタンスと、世界のいたるところにコミットせざるをえない米国のとるべきスタンスが勢力均衡策(=バランス・オブ・パワー)である。いわゆる価値観外交ではなく、古典的な外交軍事戦略である。

本書は、「意図せざる帝国」となった米国がとるべき戦略について、なぜそのような戦略をとるべきかというロジックを説得力ある議論として展開している。それが本書の読みどころである。


「意図せざる帝国」(Unintented Empire)とは、じつにうまい表現だ。もはやそう簡単には孤立主義をとれないほどの巨大な存在となっている米国は、世界の隅々にまでコミットせざるをえない帝国という「現実」と、共和国という「理念」のコンフリクトに揺れる存在である。

「共和制」であり、「連邦制」である、というのが独立以来の米国の建国理念であり、この基本を守り抜くために南北戦争という内乱や、海外の戦闘で多くの血を流してきたのである。つまり米国は理念国家としての性格がつよい。

理念を守り抜くためには現実的にならざるを得ない。現実的な策を実行するためにはパワーの裏付けが不可欠だ。ただしパワーには限界があり、効果的な資源配分を行う必要がある。

そのためには戦略的に重要なポイントと、かならずしもそうではないポイントを区分し、同盟関係をつうじた合従連衡も行う。そして、この合従連衡は、環境の変化に応じて柔軟に組み直すことが必要となる。

そしてまた、戦略的に重要な地域で強力なパワーが発生して米国の国益を脅かさないように、競合関係にある勢力を互いに牽制させるという勢力均衡策という古典的な手法をとることも必要となる。

ブッシュ・ジュニア政権でテロに直面した米国は、国民の不安感情を抑えるためにテロ対策にのめり込み、戦略の常道から逸脱してしまう。思わずクチにしてしまった「十字軍」という表現が、価値観の戦争であることを無意識に示してしまった。

イラクへの介入がイラクじたいの弱体化を招き、中近東におけるイラクとイランによる勢力均衡を破綻させてしまったのである。アフガニスタンへの介入もまた、インドとパキスタンとの勢力均衡にはマイナス要因として働く。

そのツケをオバマ政権が負うことになったわけだが、オバマ政権もまた理想肌ゆえに対話を重視したものの、結局は勢力均衡策という現実的な対応をとらざるを得なくなったわけだ。

本書で特筆すべきなのは以下の諸章である。じつに読み応えがある。

第6章 方針の見直し-イスラエルの場合
第7章 戦略転換-アメリカ、イラン、そして中東 
第8章 ロシアの復活
第9章 ヨーロッパ-歴史への帰還
 EUの危機とドイツの再浮上 ロシアとの相互補完
第10章 西太平洋地域に向き合う
 日中のパワーバランス
第13章 技術と人口の不均衡


東アジア情勢にかんしては、不安定化を避けながらも日中を競合させる勢力均衡策を米国がとっっている理由もよく理解できるが、韓国を過大評価している印象が残る。これは多くの日本人読者が抱く感想ではなかろうか。オバマ政権も末期になればなるほど、米国と韓国の距離は拡がる一方だ。この点で、フリードマン氏の予測は外れている。


オバマ政権の2期目の末期となった2016年後半のいま、レイムダック視される状態にもかかわらずオバマ政権がじつは戦略の常道を進んでいる。出版後すでに5年を経過した現在は「次の10年」の折り返し点にあるわけだが、予測の正しさがこの時点で実証されたといえるのである。

だが、トランプ大統領誕生となったら、米国はどうなるのか? 米国の圧倒的影響圏にある日本はどうなるのか?

『カミング・ウォー・ウィズ・ジャパン-「第二次太平洋戦争」は不可避だ-』(徳間書店、1991)などの著書をもち、日本に対してシビアな姿勢を崩さないジョージ・フリードマン氏であるが、その見解を欧州情勢だけでなく、日米中の三角関係を中心にみたアジア情勢としてまとめていただきたいものである。的確で厳しい視点こそ日本には必要だからだ。






目 次

日本版刊行によせて-地震型社会、日本(ジョージ・フリードマン)
まえがき
序章 アメリカの均衡をとり戻す
第1章 意図せざる帝国
 アメリカの皇帝
 帝国の現実に対処する
 アメリカの地域戦略
第2章 共和国、帝国、そしてマキャヴェリ流の大統領
第3章 金融危機とよみがえった国家
第4章 勢力均衡を探る
 イラクの賭け
 イランの複雑性
第5章 テロの罠
 テロはどれほど深刻な脅威か
 テロと大量破壊兵器
第6章 方針の見直し-イスラエルの場合
第7章 戦略転換-アメリカ、イラン、そして中東 地域の心臓部-イランとイラク
第8章 ロシアの復活
 ロシアの恐れ
 ロシアの再浮上 アメリカの戦略
 ロシアをどう扱うか
第9章 ヨーロッパ-歴史への帰還
 EUの危機
 ドイツの再浮上 アメリカの戦略
第10章 西太平洋地域に向き合う
 中国、日本、そして西太平洋
 中国と日本 日中のパワーバランス アメリカの戦略-時間稼ぎ
 インド、アジアのゲーム
第11章 安泰なアメリカ大陸
 対ブラジル、アルゼンチン戦略
 メキシコ
 アメリカの対メキシコ戦略
第12章 アフリカ-放っておくべき場所
第13章 技術と人口の不均衡
第14章 帝国、共和国、そしてこれからの10年
謝辞
訳者あとがき
解説 「帝王」への忠言にして、帝国の統治構造の暴露の書(池内恵)



<関連サイト>

The Obama Doctrine The U.S. president talks through his hardest decisions about America’s role in the world. (By JEFFREY GOLDBERG The Atlantic APRIL 2016 ISSUE)

Coming to Terms With the American Empire Geopolitical Weekly APRIL 14, 2015
・・帝国は意図してなるものではない。共和制ローマも、アメリカもまた?

A Net Assessment of Europe Geopolitical Weekly MAY 26, 2015

A Net Assessment of the World Geopolitical Weekly MAY 19, 2015

World War II and the Origins of American Unease Geopolitical Weekly MAY 12, 2015
・・大恐慌とパールハーバーに不意打ちされたアメリカ。核戦争への備えを用意したマインドセット・・・
China's New Investment Bank: A Premature Prophecy Global Affairs APRIL 22, 2015


<ブログ内関連記事>

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)-地政学で考える
・・「地理的・環境的制約条件という人間が変えることのできない絶対的制約条件からみたら、個々の政治指導者の行動など、長期的にみれば重視する必要はない、というのが地政学の立場に立った著者の基本姿勢である。経済学が個々のプレイヤーに注意を払わないのと同じだ、と。
 1492年のコロンブスの大航海に始まって1991年のソ連崩壊までの500年にわたって続いた、大西洋世界を中心とした西欧による「世界システム」が終わり、大西洋と太平洋の制海権をともに支配する地理的条件にめぐまれ、世界最大かつ最強の海軍力をもつにいたった米国に「世界システム」が始まったという認識
 安価で大量輸送が可能な海上交通を保護するには、海軍力による制海権がモノをいうからである。1980年代に、太平洋貿易が大西洋貿易を上回ったことが、覇権交代を象徴的に物語っている。著者の認識を一言でいえば、「アメリカは衰退寸前であるどころか、上げ潮に乗り始めたばかり」(P.374)ということで
 ユーラシア大陸とは異なり、南北戦争という内乱を例外として、建国以来200年以上にわたって本格的な侵略を受けたことがないという地政学的条件から考えると(・・「9-11」は攻撃だが、侵略ではない)、次の500年続くかどうかはわからないが、少なくとも今後100年は米国の覇権が続くと考えたほうがいいのかもしれない。」

書評 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる-日本人への警告-』(エマニュエル・トッド、堀茂樹訳、文春新書、2015)-歴史人口学者が大胆な表現と切り口で欧州情勢を斬る
・・「リーマンショック」後のユーロ危機のなかから浮上したのは強国ドイツ

書評 『ドイツリスク-「夢見る政治」が引き起こす混乱-』(三好範英、光文社新書、2015)-ドイツの国民性であるロマン派的傾向がもたらす問題を日本人の視点で深堀りする
・・ドイツとロシアの相互補完関係

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則
・・「本書の特徴は、とかく日中関係という二国関係だけでものをみがちな日本人に、米中関係という人きわめて強い人的関係をベースにした二国関係の視点を提供してくれている点にある。中国問題は、すくなくとも日米中の三カ国関係でみなければ見えてこない。「大型大国間関係」という、G2=米中二国間関係にちらつくキッシンジャーと習近平の親密な関係、アメリカの世論にきわめて大きな影響力をもつ在米華人華僑の存在、アメリカの中国重視政策と日米同盟のズレなど、米国の中国政策を前提にしないと日中関係も見えてこない。」


■未来予測を事後に検証する

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)

『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その2)




(2012年7月3日発売の拙著です)









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2016年6月5日日曜日

書評 『仮面の日米同盟-米外交機密文書が明らかにする真実-』(春名幹男、文春新書、2015)-地政学にもとづいた米国の外交軍事戦略はペリー提督の黒船以来一貫している


 『仮面の日米同盟-米外交機密文書が明らかにする真実-』(春名幹男、文春新書、2015)という本は、かならず読んでおくべき本だ。

昨年11月に出版されてからすぐに購入したが、「積ん読」となっていた。しかし、「日米同盟」について辛辣なビジネスライクのトランプ大統領誕生が絵空事ではなくなりつつある状況のなか、「日米同盟」についてキチンと認識しておくことは不可欠だ。そう思って、このたび読んでみることとした。


この本のメッセージは一言で要約してしまえば以下のようになる。

「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」 

これは前々から指摘はされていたが、本書の著者である春名氏によって、はじめて米国側の機密文書の裏付けをもって示されたことになる。

ではなぜ、米軍は日本に、とくに沖縄に駐留しつづけているのか?

それは、もっぱら日本列島のもつ地政学的な優位性、ことにロジスティクス(・・軍事用語でいえば兵站)にあるのだ。これは、ペリー提督の「黒船来航」以来、一貫した米国の戦略的視点である。 いわゆる「開国」は、米国の捕鯨船の補給問題と日本市場開放が目的であった。

日本の敗戦後、「安保条約」にもとづいて日本に駐留する米軍にとって、日本列島は水や食料と燃料の補給基地であり、艦船の補修基地でもある。これは朝鮮戦争においても、ベトナム戦争においてもそうだっただけでなく、中近東における戦闘においても継続している。

そもそも第二次世界大戦において、米軍は戦略的優位性をもつ沖縄を獲得したかったからこそ、硫黄島を制圧したあとにそのまま北上せず、沖縄上陸作戦を敢行したのである。日本の敗戦後もそのまま米軍による軍政を敷いたのは、基地として沖縄を絶対に確保したかったからなのだ。

そして、基地を返還したくないからこそ、妥協策として「沖縄返還」に応じたのである。

米国は沖縄基地を死守するために、沖縄返還に応じたのだ、という事実をしれば、米国が沖縄から撤退したがらない理由が理解できる。

もちろん、沖縄本島に米軍将兵が多数駐留していることじたいが抑止力になるが、「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」 なのである。尖閣で問題が発生しても、はたして米軍は動けるのか、おおいに疑問だ。中国に対しては、キッシンジャー以来、いわゆる「瓶のフタ」論という詭弁で在日米軍の存在を自己正当化してきたことも忘れるべきではない。日本が暴発しないよう、米軍が駐留しているという論である。

「沖縄返還」交渉の当事者であった佐藤栄作首相とニクソン大統領の認識のズレと、平行して行われていた日米繊維交渉におけるニクソンの怒りは、読ませる内容になっている。これが本書の中核として第3章から第5章まで詳述される。

沖縄返還交渉と日米繊維交渉はほんらいは別個のものであったが、佐藤栄作が大見得をきったにもかかわらず繊維交渉が決着しなかったことが、日本の頭越しの「米中交渉」開始や貿易摩擦解消のための「ドル防衛」など、いわゆる「ニクソン・ショック」となって炸裂したのだ。この歴史的事実は、あらためて振り返っておく必要が強い。

先日も沖縄の軍属による殺人事件が発生して、沖縄のみならず日本全体で怒りの声があがっている。米軍にとっての、米国政府にとっての沖縄の基地、日米同盟の意味について、冷静な観点から押さえ置く必要があることを痛感させられる。


「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」

著者の取材によれば、自衛隊もまた在日米軍が防衛型ではなく攻撃型のものであると認識していることが指摘されている。兵站基地である日本列島から、攻撃のために米軍は出撃するのだ。

 「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」という事実を直視しなければ、日本は危うい。





目 次

はじめに-アメリカは頼れる同盟国か?-逃げるアメリカ、前のめりの日本
第1章 アメリカは日本を守ってくれるか
  「集団自衛権」を行使する理由
  安部の「美しい」誤解
 1. 新ガイドライン翻訳の仕掛け
 2. 作為的翻訳で米軍関与の印象強化
 3. 米防衛公約の後退
第2章 米機密文書は語る
 1. 「米軍は日本本土防衛のため駐留せず」
 2. 沖縄返還が転機に
 3. 防衛力増強の要求
 4. どうなる日本の抑止力
第3章 アメリカ依存を誘導する戦略
 1. 日本を操る米国の地政学的策略
 2. 在日米軍撤退を阻む策略
第4章 裏切りの沖縄返還
   だれも知らない沖縄返還の理由
 1. 親米の佐藤だから
 2. 秘密主義、盗聴、そして罠
 3. 沖縄返還交渉の罠
 4. 世紀のドタバタ外交
 5. 日本への不満を残した米軍部
第5章 「繊維」の欺きと報復の「ニクソン・ショック」
 1. 沖縄返還を人質にした繊維交渉
 2. 煮と米関係が暗転した理由
 3. 報復としてのニクソン・ショック
 4. 対日政策の見直し
第6章 米中の狭間で翻弄される日本
 1. ニクソンの狙い
 2. カードは「瓶のふた論」
 3. 日本をないがしろにした外交
 4. 見えない米中コネクション
第7章 尖閣諸島問題におけるアメリカの本音
 1. 有事への懸念と異常事態
 2. 沖縄返還協定前のサプライズ
 3. 台湾への融和策
 4. 沖縄返還協定の秘密
 5. 米国内で強まる「巻き込まれ論」
 6. 日米中首脳の微妙な関係
結論に代えて-同盟の疲労
  日米両政府はどう説明するのか?
略称一覧
参考文献





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日米関係

書評 『戦争・天皇・国家-近代化150年を問い直す-』(猪瀬直樹・田原総一郎、角川新書、2015)-「日米関係150年」の歴史で考えなければ日本という国を理解することはできない

書評 『黒船の世紀 上下-あの頃、アメリカは仮想敵国だった-』 (猪瀬直樹、中公文庫、2011 単行本初版 1993)-日露戦争を制した日本を待っていたのはバラ色の未来ではなかった・・・

書評 『マンガ 最終戦争論-石原莞爾と宮沢賢治-』 (江川達也、PHPコミックス、2012)-元数学教師のマンガ家が描く二人の日蓮主義者の東北人を主人公にした日本近代史

「神やぶれたまふ」-日米戦争の本質は「宗教戦争」でもあったとする敗戦後の折口信夫の深い反省を考えてみる

書評 『「普天間」交渉秘録』(守屋武昌、新潮文庫、2012 単行本初版 2010)-政治家たちのエゴに翻弄され、もてあそばれる国家的イシューの真相を当事者が語る

書評 『日米同盟 v.s. 中国・北朝鮮-アーミテージ・ナイ緊急提言-』(リチャード・アーミテージ / ジョゼフ・ナイ / 春原 剛、文春新書、2010)

書評 『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(遠藤誉、WAC、2013)-中国と中国共産党を熟知しているからこそ書ける中国の外交戦略の原理原則
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書評 『田中角栄 封じられた資源戦略-石油、ウラン、そしてアメリカとの闘い-』(山岡淳一郎、草思社、2009)-「エネルギー自主独立路線」を貫こうとして敗れた田中角栄の闘い

『愛と暴力の戦後とその後』 (赤坂真理、講談社現代新書、2014)を読んで、歴史の「断絶」と「連続」について考えてみる



(2012年7月3日発売の拙著です)









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