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2012年10月23日火曜日

書評『中国は東アジアをどう変えるか ー 21世紀の新地域システム』 (白石 隆 / ハウ・カロライン、中公新書、2012)ー「アングロ・チャイニーズ」がスタンダードとなりつつあるという認識に注目!



本書のタイトル『中国は東アジアをどう変えるか-21世紀の新地域システム-』 は、正確には『中国は東南アジアをどう変えてきた』といったほうが内容に即している。「東アジア」というと一般的には、中国・韓国(朝鮮)・日本の三国を思い浮かべるからだ。

東南アジアの国々に、中国をふくめた東アジアの国々が与えてきた影響はビジネスや経済だけでなく、当然のことながら政治にも及んでいる。韓国についてはベトナム戦争以後ではあるが、日本と中国の影響力競争の場である東南アジアは、じつは米国と中国の影響力競争の場でもある。

大東亜戦争に敗戦後の日本は、アメリカの影響圏の範囲内で東南アジアを市場として開拓することを許可され、現在にいたる繁栄の基礎としたことは現代史の常識である。日本は朝鮮戦争で戦後復興の基礎を築き、その韓国はベトナム戦争をキッカケに財閥が基礎を固めた。

大陸中国は、現在のような経済的なパワーになる以前から、共産主義というイデオロギーをつうじて東アジアと東南アジアに大きな影響力を行使してきたことは、先日亡くなったカンボジア前国王シハヌークのことを想起してみればいい。

しかも、日本とは違って、中国は東南アジア、なかでもインドシナ半島とは地続きの関係にある。ベトナム、ラオス、ミャンマーといった国々が、いかに中国とのむずかしい関係を強いられているか。けっして、単純な関係ではないのである。1979年の中越戦争を考えてみればそれは理解できるはずだ。

「大陸国家」と「半島国家」との関係は、日本やフィリピン、インドネシアなどの「海洋国家」の地政学的条件とはまったく異なるのである。アメリカもまた先行していた英国と同様、「海洋国家」であることは、国家どうしの親和性といった観点からアタマに入れておくべきだろう。

本書は、「陸の中国」と「海の中国」の相克がテーマである。政治体制の違いよりも、地政学的な条件の違いに着目した議論である。

「大陸国家」の中国が経済的実力をつけた結果、経済的権益を守るために積極的に海洋進出を行っていることは、いま日中間で最大の対立項目となっている東シナ海の尖閣諸島だけでなく、南シナ海ではベトナムやフィリピンと対立いていることに端的に表れている。

このように、「安全保障システムと経済システムの間に構造的な緊張」(P.9)が存在すること、これこそが欧州統合との大きな違いなのである。ともに第2次大戦後にアメリカ主導で再構築した地域秩序だが、東アジアでは欧州モデルがそのまま適用できないのはそのためだ。もっとも、いまや欧州統合もゆらぎつつある状態であるが。

著者の白石隆氏は、インドンシア研究からスタートして、現在は幅広く東南アジア全体の研究を行っている学者だが、その立場はきわめて明快だ。

それは、「安全保障面では中国主導になることはありえない」という基本的姿勢である。太平洋はアメリカの覇権にあることによって安全保障がなされているのであり、経済的に見てもアメリカと同盟関係のある諸国のパワー全体のほうが、中国一国よりも上回るという事実からである。

東南アジアで経済活動を行う者は、とくに第2章、第3章をじっくり読むべきだ。具体的な国別の事例を見ることによって、それぞれ中国との関係が一様ではないことを知ることができる。

とくにタイにかんしては、華人のプレゼンスが大きいという要因だけでなく、中国とは直接は国境を接していないことの意味が大きい。ラオスやミャンマーといった政治経済的な後進国のエリート層の利権構造にも着目すべきである。

また、すでに「新華僑」とよばれる存在が、ミャンマーにはなんと150万人(!)、カンボジアにも100万人(!)、ラオスにも30万人、ベトナムにも10万人も存在するということにも注目しておきたい。英語でいう伝統的な Overseas Chinese(華僑)ではなく、中国の雲南省などから陸路で国境を越えてやってきた Over-mountain Chinese である。これはタイもまた同様だ。

第4章では、明代の鄭和(ていわ)の大遠征や、「大東亜共栄圏パート2」、「朝貢システム」などを「歴史の亡霊」として切って捨てる小気味よい記述には、思わず喝采を送りたくなる。

なぜなら、近現代の中国を考えるうえで、過度に過去の中国を持ちだすことはナンセンスだからだ。「中国」とは近代の産物であり、華僑もまたタイムラグはあるが近代の産物なのである。アヘン戦争以後の歴史こそ、徹底研究すべきなのである。

第5章は、「アングロ・チャイニーズ」がスタンダード化しつつあるという現実に注目! これは東南アジアで仕事をしていた経験があれば、ひじょうに共感できるコンセプトだ。

「アングロ・チャイニーズ」(Anglo-Chinese)とは、アングロサクソン化されたチャイニーズのことだ。

教育をつうじて「近代の制度」としてのアングロサクソンの影響を受け、共通言語(リンガフランカ)としての英語を駆使するチャイニーズ。かれらはすでに現地社会に「同化」しており中国語を解さないものもいるが、基本的に現地語と英語のバイリンガルである。それに加えて、中国語(=普通話)もできるトリリンガルも少なくはない。

大陸中国の中国人と、こうしたアングロ・チャイニーズとのあいだに存在する違いに敏感になることが、とくに東南アジアでビジネス活動に従事する人間には、必須のマイドセットであることは、わたしも強調しておきたいと思う。

すでに華僑の時代ですらないのである。第2世代、第3世代以降の東南アジア華人は、「アングロ・チャイニーズ」であるのだ。かれらこそ、これからの時代に経済でも政治でも大きな影響力をもつ存在となるだろう。そして、大陸中国人もまたアングロ・チャイニーズ化しつつあるのが現在進行している事態である。

中国の存在感は、今後アジアのみならず世界のなかで、経済的にも政治的にも、ますます増大する。そういう世界のなかで、日本は日本人はどう生きていくべきか。アタマを整理し、方向性をつかむためには必読書といっていい。

新書本だが、腰を据えてじっくりと読むことをすすめたい。





目 次

はじめに-なにが問いか

第1章 東アジア地域秩序の変容
東アジア地域システム-その原型
東アジア地域システム-その変容
「東アジア共同体」構築
GMS(大メコン圏)協力
東シナ海の領土問題
中国の変容
米国のアジア再関与
日本の対応
東アジアからアジア太平洋へ
まとめ

第2章 周辺諸国の行動
タイ
インドネシア
ヴェトナム
ミャンマー
まとめ

第3章 中国の経済協力
対外政策手段としての経済協力
ミャンマーの事例
ラオスの事例
インドネシアの事例
まとめ

第4章 歴史比較のために 
大元モンゴルの時代
大明の時代
一六世紀末
一七世紀初頭の東アジア
大清の時代
歴史の比較

第5章 アングロ・チャイニーズの世界 
中国=チャイナ、チャイニーズ
「まなざし」の変化
東南アジアのチャイニーズ-その先史
チャイニーズの形成
「日本化」と「アングロ・サクソン化」
アングロ・チャイニーズの台頭
ふたたび、「中国」とチャイニーズについて
まとめ

結語にかえて
参考文献と注



著者プロフィール

白石隆(しらいし・たかし)
1950年生。東京大学教養学部教養学科卒業。コーネル大学PhD。東京大学教養学部助教授、コーネル大学教授、京都大学東南アジア研究センター教授を経て、政策研究大学院大学学長。2007年、紫綬褒章受章。主著、An Age in Motion: Popular Radicalism in Java, 1912-1926(Ithaca:Cornell University Press, 1990 大平正芳記念賞)。『海の帝国』(中公新書、2000年 読売・吉野作造賞)。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)

カロライン、ハウ(Caroline Hau)
1969年生。フィリピン大学卒業。コーネル大学Ph.D。フィリピン大学講師、助教授を経て、京都大学東南アジア研究センター准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


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・・とくに戦後日本とインドネシアの関係について

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・・絵に描いたような「典型的なアングロ・チャイニーズ」であったリー・クアン・ユー氏

(2016年6月7日 情報追加)


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