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2012年9月28日金曜日

賢者が語るのを聴け!-歴史小説家・塩野七生の『マキアヴェッリ語録』より




『マキアヴェッリ語録』(塩野七生、新潮社、1988)に、こういう一節があります。まずは引用から。

自らの安全を自らの力によって守る意思をもたない場合、いかなる国家といえども、独立と平和を期待することはできない。
なぜなら、自ら守るという力量(ヴィルトゥ)によらずに運(フォルトゥーナ)にのみ頼るということになるからである。

これはマキアヴェッリの『君主論』(Il Principe)にでてくるコトバです。

ここ最近の「尖閣諸島」やその他の国境の島々をめぐる紛争をみていると、まさに15世紀から16世紀のイタリアで活躍した政略家マキャヴェッリに見透かされているという感にとらわれますね...

たとえ日米同盟によって尖閣が米軍出動の適用範囲であるといっても、自国の領土を自らの意思によって守り抜くというのは最低条件。でないと、米国といえども助けてくれないでしょう。

「自らの安全を自らの力によって守る」ことをしない限り、「独立と平和は維持できない」と、すでに16世紀の政略家が言い切っているのです。

「性悪説」の立場に立っているマキアヴェッリは、いわば「悪の論理」からの人間洞察を示しているのですが、人のうえに立つ人は当然のことながら、『君主論』は戦略論として、人間学の教科書として必読書であると確信いたします。

『マキアヴェッリ語録』には、その『君主論』以外にも、『政略論』、『フィレンツェ史』、その他の論考や手紙から引用されています。

全体の構成は三部構成で、引用文は「第一部 君主篇」、「第二部 国家篇」、「第三部 人間篇」に整理されています。いずれも塩野七生自身によるイタリア語からの日本語訳です。

塩野七生の『我が友マキアヴェッリ-フィレンツェ存亡-』によれば、マキャヴェルリ自身が、書物をつうじて古人とつねに対話していたとあります。自らの観察や経験を、知識でもって整理し体系化したわけですね。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」わけですから!









<ブログ内関連記事>

『次の10年に何が起こるか-夢の実現か、悪夢の到来か-』(Foresight編集部=編、新潮社、2000) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その2)
・・特別インタビュー① 塩野七生-「日本再生のためにローマ人から何を学ぶか」から、塩野七生のコトバを抜粋して引用してあるので再録しておこう。「ルネサンスというのは、価値が崩壊した時期の人間が次の価値をどう生み出そうかという運動でした。・・(中略)・・そのルネサンス精神を基盤にして西欧文明が出来上がってから500年がたった。その最後の20世紀末にわれわれはいる。そして再び価値観の崩壊という危機にわれわれは直面しているわけですね。ある意味で、500年続いたルネサンス人の時代も終わりを迎えたとも言えます」。

書評 『日本人へ リーダー篇』(塩野七生、文春新書、2010)

600年ぶりのローマ法王退位と巨大組織の後継者選びについて-21世紀の「神の代理人」は激務である

ノラネコに学ぶ「テリトリー感覚」-自分のシマは自分で守れ!
・・このブログ記事で引用したマキャヴェッリの名言を地で行っているがノラネコだ!

(2016年12月1日 情報追加)



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シンポジウム「これからの日中関係」(GRIPS主催 2012年9月27日)に参加してきた-対話のチャネルはいくらでもあったほうがいいのは日中関係もまた同じ


昨日(2012年9月27日)、東京・六本木の政策研究大学院(GRIPS)で開催された「これからの日中関係を考える」(Japan-China Relations: what next ?)というタイトルノシンポジウムに行ってきました。

本来は「日中国交正常化40年記念」のシンポジウムが開催予定だったそうですが、諸般の事情により中止となり、きゅうきょ企画されたとのことです。

基本的に日本語でしたが、同時通訳の英語があったのは、各国の大使館からの出席者も多いため。日中紛争は、国際的にも関心が高いということなわけですね。

講演者は以下のとおりです。

(パネリスト)
●加藤嘉一氏: 国際コラムニスト、ハーバード大学ケネディスクール 公共政策大学院 フェロー
●津上俊哉氏: 津上工作室代表、現代中国研究家・コンサルタント
●陳海騰氏: 百度(Baidu, Inc)日本駐在首席代表、バイドゥ株式会社取締役
●葛進氏: 科技日報東京特派員
(モデレーター)
●大江麻理子氏: テレビ東京アナウンサー
(総合司会)
●角南 篤: 政策研究大学院大学准教授

約3時間のパネルディスカッションで、とくにつよく印象に残ったのは、熱を帯びた発言をしていた加藤嘉一氏(日本)と、彼とは対照的に穏やかに語っていた陳海騰氏(中国)の二人。

1984年生まれの加藤嘉一氏は、「これまでの40年」よりも「これからの40年」にかかわる世代としての発言でしたが、「国民感情」と「国益」のせめぎ合いが生じているのは、中国も日本も同様といった観点のうえに立って、「建設的なNO」を言える関係であることの重要性を主張していていました。「建設的なNO」という点には賛成です。もちろん、なにが「建設的」と判断されるのかはわかりませんが。

陳海騰氏(中国)は、中国の検索最大手の百度(バイドゥ)の日本代表として、あくまでも「商売人」の立ち位置から一貫した発言をしていたことが印象に残りました。ビジネスパーソンはあくまでもビジネスについて語るという姿勢は、けっして悪くないと思います。ただし、政治について語らないということじたいが、じつはきわめて政治的なのではありますが。

上記の二人の発言だけでなく、「政府だけでなく、民間交流もふくめて、対話のチャネルはいくらでもあったほうがいい」ということにかんしては、まったく同感です。

コンフリクトが発生するのは、それだけ日中双方が経済的に相互依存しているからこそですね。1980年代後半の日米関係だって「半導体戦争」の頃は戦争前夜みたいな感じがありましたが、それは言うまでもなく日米経済の相互依存のレベルが高くなっていたからであります。

「日中友好」とか「熱烈歓迎」なんてフレーズは、日中国交回復時、つまりわたしが小学生だった40年前にはすごく流行りましたが、現在ではあまりにも美辞麗句でつかう気にもなりません。陳海騰氏は、さかんにこの「日中友好」というフレーズをつかっていましたが、やや耳障りな印象をもったのはわたしだけではないでしょう。

いずれにせよ、いやがおうでも付き合わざるをえないのが中国ですから、好き嫌いに関係なく、まずは知ることが重要です。「知彼知己者百戦不殆」という孫子の兵法ですね。彼(=中国)を知り、己(=日本)を知ること。

わたしは個人的には、現時点では安易に妥協するよりも、お互い言うべきことをぶつけ合う段階でいいのではないかと思ってます。

議論が平行線をたどることでしょうが、そのうちお互いバカバカしくなってくるのでは、という期待もあるでしょう。その暁には、なんらかの「建設的妥協」が成立するのではないかな、と。しかし、これはあまりにも希望的観測すぎますね。

いずれにせよ、日中間の主張のぶつけあいは言論戦となるわけですから、日本サイドが中国サイドに根負けして腰折れしないことを望みます。対外宣伝にかんしては、歴史的にみて中国のほうがはるかに上手(うわて)であることは認めざるを得ません。

「プリンシプル」(原理原則)は絶対に曲げてはいけません日本的な「水に流す」という態度は、国際交渉においては負けを意味するのですから。

国際社会という弱肉強食の世界で苦闘し続けてきた明治の先人のことを思い出したいものです。そこまでいかなくても、「日本人にはプリンシプルがない」と嘆いた白洲次郎のことを。

その意味では、外部環境としての日中関係の悪化は、太平の眠りを覚まし、平和な島でまどろんでいた日本人にスイッチが入ったことを感謝すべきかもしれませんね。もちろん、逆説的な意味ですが。

.
(付記) なお、この記事に書いたことは、わたしの個人的な感想やコメントであり、パネリストたちの意図とは異なるかもしれませんし、パネリストとたちの見解にすべて賛成するものではないことも明記しておきます。あくまでもシンポジウム聴講記として読んでいただきたいと思います。



<ブログ内関連記事>

「第67回 GRIPSフォーラム」で、タイ前首相アピシット氏の話を聞いてきた(2012年7月2日)

「GRIPS・JBIC Joint Forum"After Fire and Flood: Thailand's Prospects"」と題したタイの政治経済にかんする公開セミナーに参加してきた

書評 『習近平-共産中国最弱の帝王-』(矢板明夫、文藝春秋社、2012)-「共産中国最弱の帝王」とは何を意味しているのか?

書評 『チャイナ・ジャッジ-毛沢東になれなかった男-』(遠藤 誉、朝日新聞出版社、2012)-集団指導体制の中国共産党指導部の判断基準は何であるか?・・習近平の最大のライバルであった薄熙来 (はく・きらい)の失脚事件の全貌を推論も踏まえて描いた力作

書評 『拝金社会主義中国』(遠藤 誉、ちくま新書、2010)

書評 『中国動漫新人類-日本のアニメと漫画が中国を動かす-』(遠藤 誉、日経BP社、2008)

書評 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)-軍事戦略の観点から尖閣問題を考える

「修身斉家治国平天下」(礼記) と 「知彼知己者百戦不殆」(孫子)-「自分」を軸に据えて思考し行動するということ

「プリンシプルは何と訳してよいか知らない。原則とでもいうのか」-白洲次郎の「プリンシプル」について


PS. この記事で満願成就-通算1,000本目の記事!

なお、この記事で当ブログの通算1,000本目の記事となります。よくぞ書きも書いたりという気分です。

「千夜一夜」、「千本ノック」といったものもありますが、比叡山の「千日回峰行」というものもあります。ブログ記事を書き続けるのも、ある意味では「行」(ぎょう)のようなものかもしれません。

まだまだやりますよ! 比叡山の「千日回峰行」を生涯に二回実行してる酒井雄哉師にならって、もう一巡はしないといけませんね!

「千里の道も一歩から」といいますが、地道にブログ記事を書き続けるという「行」(ぎょう)は、今後も続けて参ります。

今後もよろしくお願いします!





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2012年9月24日月曜日

書評 『習近平-共産中国最弱の帝王-』(矢板明夫、文藝春秋社、2012)-「共産中国最弱の帝王」とは何を意味しているのか?




中国はまもなくあたらしい指導体制となるわけですが、胡錦濤(こ・きんとう)氏の後継者に事実上確定している人物が習近平(しゅう・きんぺい)氏。しかし、彼がいったいどういう人となりであるのかは、依然として謎に包まれてます。

習近平というと、天皇陛下への謁見をごり押しで実現させた男という印象がひじょうにつよく、なんだか「無礼者」ではないかというイメージをもっているのは、わたしだけではないと思います。

そろそろ習近平とはどんな人であるかアタマのなかにいれておかないと、というわけで読んでみたのが、今年の3月に出版された 『習近平-共産中国最弱の帝王-』(矢板明夫、文藝春秋社、2012)という本です。

副題にある「共産中国最弱の帝王」とはいったい何を意味しているのか? 習近平は、どうも日本人がばくぜんと思っているイメージとは違う存在のようですね。

カリスマ的指導者として中華人民共和国建国の父でありながら、文化大革命で中国を大混乱に陥らせた毛沢東が「共産中国最強の帝王」であったとすれば、集団指導体制のもので、妥協の結果として次期最高指導者に選ばれることになる習近平は「最弱」となる、そう理解しなくてはならないのでしょう。

著者は産経新聞の北京特派員で、出版社が文藝春秋。これだけの情報で本の内容がだいたい想像できるでしょうが、特筆すべきは著者の矢板氏の経歴です。

1972年に天津生まれで15歳のときに日本に引き揚げてきたという残留孤児二世という経歴の持ち主であること。その後の中国留学や特派員としての取材経験が、ある意味では、中国を内側から理解することができる人にしているのでしょう。

2012年3月の出版ですので、その後に明らかになったライバルの薄熙来 (はく・きらい)失脚事件を踏まえたものではありませんが、習近平についての人物像を描こうとする試みはある意味では成功しているといっっていいのではないかと思います。

「共産中国最"弱"の帝王」の意味をよく理解することが、今後10年間の日中関係を考えるための前提となるのです。

日中関係は対立と友好の愛憎半ばする関係でありますし、大陸の大国の影響力がますます増大していることを踏まえれば、中国の政治状況についての知識も「アタマの引き出し」として、備えておくことが不可欠なのです。

中国が好きであるかキライであるかにかかわらず。






目 次

まえがき

第1部 習近平はなぜ選ばれたのか

第1章 習近平はどんな人物なのか
第2章 指導者はどのように選ばれるか
第3章 太子党とはなにか
第4章 長老政治が復活するのか
第5章 権力闘争激化で不安定な時代へ
第6章 派閥対抗はどう変遷するのか

第2部 謎に満ちた習近平の人間像

第7章 波瀾万丈の家族史
第8章 青春期の原点を訪ねて
第9章 浮上する学歴詐称疑惑
第10章 性格のわかるエピソード
第11章 政治人生を支えた家族
第12章 趣味と仲間たち

第3部 習近平時代の中国はどうなるのか

第13章 習近平は軍を掌握できるのか
第14章 中国の外交は強硬路線に転じるのか
第15章 少数民族問題は命取りになるのか
第16章 言論統制はいつまでできるのか
第17章 習近平時代の中国は崩壊するのか
あとがき


著者プロフィール

矢板明夫(やいた・あきお)  
産経新聞中国総局(北京)特派員。1972年中国天津市生まれ。15歳の時に残留孤児2世として日本に引き揚げ。千葉県出身。1997年慶応義塾大学文学部卒業。同年、松下政経塾に入塾(第18期)、アジア外交が研究テーマ。その後、中国社会科学院日本研究所特別研究員、南開大学非常勤講師も経験。2002年中国社会科学院大学院博士課程修了後、産経新聞社に入社。さいたま総局記者などを経て2007年から現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


PS 2014年9月に副題を「なぜ暴走するか」に改めて、文春文庫から文庫化された。(2014年9月2日 記す)。






<ブログ内関連記事>

書評 『チャイナ・ジャッジ-毛沢東になれなかった男-』(遠藤 誉、朝日新聞出版社、2012)-集団指導体制の中国共産党指導部の判断基準は何であるか?・・習近平の最大のライバルであった薄熙来 (はく・きらい)の失脚事件の全貌を推論も踏まえて描いた力作

書評 『拝金社会主義中国』(遠藤 誉、ちくま新書、2010)

書評 『中国動漫新人類-日本のアニメと漫画が中国を動かす-』(遠藤 誉、日経BP社、2008)

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」

評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論

(2014年9月2日 情報追加)



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2012年9月23日日曜日

書評 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)-軍事戦略の観点から尖閣問題を考える



尖閣諸島は日本固有の領土であり、日本が実効支配を続けてきました。

これは否定しようのない「事実」であり、これに異を唱える中国の主張は、日本サイドからすれば「不当な言いがかり」以外の何物でもありません。

しかし、いろんな疑問がわいてきますよね。たとえば、こんな疑問の数々です。

●なぜ中国は尖閣諸島にこだわっているのか?
●それはただ単に資源開発のためなのか?
●それとも、ほかに理由があるのか? 
●中国海軍の実力は海上自衛隊と比較してどの程度のものか?
●仮にもし戦争になった場合、どのような展開になるか?

『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)を読むと、ある程度の答えを得ることができます。

担当編集者によれば、「著者の川村純彦さんは昭和35年防大卒後海上自衛隊に入隊し、対潜哨戒機のパイロット、在米日本大使館駐在武官、第5、第4航空群司令を務め、かつての陸・海軍大学校に相当する統幕学校副校長として高級幹部教育に従事しました。退官後も岡崎久彦研究所の副理事長を務めるなどし、海軍戦略、中国海軍分析のエキスパートです。何度か訪中し、中国軍幹部とも激論を交わしたこともあるという、この部門の著者に最適な方です」、とのこと。

報告書をそのまま新書本にしたような感じで、やや読みにくい感じもなくはありませんが、尖閣問題について、軍事戦略の観点から明快な議論を行っており、たいへん参考になる一冊です。

尖閣は「点」にしか過ぎませんが、尖閣を足がかりにして台湾を押さえ、東シナ海全体を「面」として考えている中国共産党と中国海軍。きわめて戦略的な思考ですね。これはすでに南シナ海で実行済みの戦略です。詳細は本で確認していただきたく。

中国の国家としての意図を正確に理解することは、これからも超長期的につづく日中の対立と友好の関係を生きていくうえで最低限の知識としなければならないでしょう。

カギとなるのは、潜水艦と対潜哨戒機の能力(ケイパビリティ)海上自衛隊の能力はあなどれませんよ! 原子力潜水艦をもたない日本ですが、著者によれば、その能力はアメリカ海軍も舌を巻くほどだとか。

何といっても「備えあれば憂いなし」ですね。いったん占領されたら竹島のようになっていまい、奪い返すのは多大な犠牲の血が流れることになります。尖閣を占領させない、ということが大事なのです。つまり戦争抑止ですね。

戦争を抑止するためにも、日本人は自信をもつべきですし、自衛隊を全面的に応援すべきなのです。

そして、軍事にかんする最低限の知識をもっておくことも必要なのです。







目 次

はじめに
序章 緊迫する尖閣諸島海域
第1章 増強著しい中国海軍
第2章 中国海軍の狙い
第3章 中国の「南シナ海聖域化」戦略
第4章 海上自衛隊の実力
第5章 中国海軍と海上自衛隊の真の実力
第6章 中国との有事にどう対処すべきか
第7章 日中尖閣沖海戦
おわりに

著者プロフィール

本文を参照

<関連サイト>

防衛費5%増ではメッセージは伝わらない-新防衛大綱、発表のタイミングは絶妙(日経ビジネスオンライン 2013年12月25日)
・・「安倍政権が12月17日、新しい防衛計画の大綱を閣議決定した。元海上自衛隊海将補の川村純彦氏は、このタイミングを高く評価する。ただし、大綱が挙げる新施策を防衛費5%で実現できるかどうかに疑問を呈する。(聞き手は森 永輔)」



<ブログ内関連記事>

「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ 大和魂」(吉田松陰)・・2年前の2010年に発生した「尖閣事件」と「尖閣ビデオ流出」にかんして所感をつづったもの

『何かのために-sengoku38 の告白-』(一色正春、朝日新聞出版、2011) を読む-「尖閣事件」を風化させないために!・・ハンドルネーム「sengoku38」氏の憂国の情にあふれた手記

書評 『平成海防論-国難は海からやってくる-』(富坂 聰、新潮社、2009) ・・海上保安庁巡視艇と北朝鮮不審船との激しい銃撃戦についても言及。海上保安官は命を張って国を守っている!

海上自衛隊・下総航空基地開設51周年記念行事にいってきた(2010年10月3日)・・航空母艦なき現在、陸上にある海軍航空基地は最前線である! 対潜哨戒機について

マンガ 『沈黙の艦隊』(かわぐちかいじ、講談社漫画文庫、1998) 全16巻 を一気読み

書評 『海洋国家日本の構想』(高坂正堯、中公クラシックス、2008)
・・海は日本の生命線!

書評 『日本は世界4位の海洋大国』(山田吉彦、講談社+α新書、2010)
・・点と線ではなく、面、さらには体積をもった三次元で考えよ

書評 『日米同盟 v.s. 中国・北朝鮮-アーミテージ・ナイ緊急提言-』(リチャード・アーミテージ / ジョゼフ・ナイ / 春原 剛、文春新書、2010)・・日米同盟の重要性と限界について

書評 『海洋へ膨張する中国-強硬化する共産党と人民解放軍-』(飯田将史、角川SSC新書、2013)-事実を淡々と述べる本書で正確な認識をもつことが必要だ

書評 『集団的自衛権の行使』(里永尚太郎、内外出版、2013)-「推進派」の立場からするバランスのとれた記述
(2014年5月16日 情報追加)


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「地下鉄博物館」(東京メトロ東西線・葛西駅高架下)にいってみた(2012年9月23日)


先週のウィークデーのことだが、地下鉄博物館にいってみた。

東京メトロ東西線の東陽町駅で下車して用事をこなしたあと、次のアポイントメントまでしばらく時間があるので、この機会を利用して立ち寄ってみることにした。いつも気になっていたが、わざわざそのために行く気にはならなかったからだ。

地下鉄博物館は、東西線の葛西駅で下車してすぐ。高架下にあるというめずらしい立地の博物館である。しかも高架下の横長の敷地を利用した、間口が狭く奥行きの深いものとなっている(・・下図参照)。

(地下鉄博物館で配布しているパンフレット)

地下鉄とはいえ、東西線は全線のうち約1/3にあたる、南砂町駅と西船橋駅のあいだは地上を走っており、しかも高架なのである。高架下の有効利用という観点もあるのだろう。


博物館の見所

大人の入場料210円と思ったより安かった。自販機で「入館券」の切符を買って自動改札をとおるという趣向が面白い。出口には改札はないので「入館券」は回収されない。そのままお土産として持って帰ることができるので安心してよい(・・冒頭に掲載した写真を参照)。



目玉の展示は、日本の地下鉄第一号である銀座線の1001型車輌と丸ノ内線の旧型車輌の展示である。実物大の模型ではなくホンモノだ。

(左が銀座線、右が丸ノ内線)

とくに銀座線の昭和レトロ(・・戦前の!)がいい味を出している。もし展示スペースがあるなら、佐倉の国立歴史民俗博物館に展示したら面白いかもしれない。

銀座線の1001型車輌 の車内)

基本的に小中学生用の学習用施設であるので、子どもにとっては楽しいミュージアムであろう。子どもは基本的にみな電車好きだから。

日本における地下鉄の歴史からはじまって、地下鉄の運行、地下鉄工事、地下鉄車輌のしくみ、日本と世界の地下鉄、そしてシミュレーターがある。シミュレーターは「電車でGO」みたいなものだが、なぜか大人がずっと占拠していて、いっこうに空かないので試運転するのはあきらめた(笑)

(シミュレーターの前に居座る大人たち)

基本的に東京メトロの博物館なので、東京メトロ(旧 帝都高速度交通営団)にかんするものが中心であるが、日本だけでも主要地方都市には地下鉄ネットワークがはりめぐらされているのはすごいことである。


日本と世界の地下鉄の歴史

日本の地下鉄第一号は、上野と浅草間をつないだ銀座線であるが、開通は1927年(昭和2年)である。いまから85年前のことだ。「東洋唯一の地下鉄道」という当時のキャッチコピーは文字どおりのもので、欧州と米国以外では初めてのものであった。

世界最古の地下鉄は大英帝国時代のロンドンで1863年のことである。英国では地下鉄のことを subway とはいわずに tube(管:くだ) といっているのは、車輌が小型のためだろうか。

東京メトロのメトロはフランスのメトロ(metro)からきているのだろうが、メトロとはメトロポリタン(metropolitan)の略である。「首都の」という意味だ。

だが、欧州大陸での地下鉄第一号は意外なことにパリではなく、ハンガリーのブダペストであり、1896年のことであった。ブダペストの一号線だが、東京の銀座線の旧型車輌とよく似た車輌で、ひじょうに浅い地下を走っている。

(ブダペストの地下鉄一号線)

戦後の社会主義時代に開通した地下鉄は、ひじょうに深い地下を走っているのはソ連の影響であろう。車輌の一部はいまだにソ連製のものが使用されている。

東京メトロの場合は、ひじょうに複雑なネットワークとなっており、東京には長く住んでいても乗り換え駅のすべてを把握するのは難しい。二重三重に路線が交差するので、新路線になればなるほど地下深くトンネルを建設する必要に迫られる。


アジアの地下鉄

アジアでは中国や韓国はもちろんのこと、シンガポールやタイでは都市交通の重要な担い手となっており、インドでも開通、今後はベトナムやインドネシアでも建設が計画されている。

シンガポールやタイのバンコクでは地下鉄は MRT(エム・アール・ティー) と呼ばれている。MRT とは Mass Rapid Transit(大量高速輸送)の略で、地上を走るバスなどの大量輸送機関が交通渋滞の原因になっているので、その解消のために建設が推進されているものだ。

メトロとはちがってあまり情緒のある表現ではないが、地下鉄本来の役割を端的にあらわしたものだといっていい。

しかも、東京メトロでは南北線でしか導入されていない転落防止用のホームドアがバンコクの MRT では標準装備となっている。あたらしい開発であるからこそ、最新の技術の導入が可能となっているわけだ。

(バンコクのMRT駅構内-南北線のようなホームドアが導入されている)


地下鉄の歴史そのものが長い日本であるが、南北線に限らず顧客サービスや安全面にかんして、さらなる積極的な新技術の導入を図ってもらいたいものだと思う。


地下鉄の歴史を振り返り、そして技術の発展について考えてみるのは大人の感想だ。小中学生にとっては学習用施設であるが、大人はもっと大きな枠組みで地下鉄について考えてみるのもよい。

「地下鉄博物館」の楽しみかたは、さまざまなものがある。気が向いたら一度訪れてみるとよいだろう。

(東京メトロ東西線の葛西駅ホームにある案内)






<関連サイト>

地下鉄博物館(公式サイト)


<ブログ内関連サイト>

本日12月6日は「聖ニコラウスの日」
・・地下深くにある千代田線・新お茶の水駅について

はじめてバンコク国際空港から高速鉄道(エアポート・リンク)に乗って市内に入ってみた

国立歴史民俗博物館は常設展示が面白い!-城下町佐倉を歩き回る ①

書評 『鉄道王たちの近現代史』(小川裕夫、イースト新書、2014)-「社会インフラ」としての鉄道は日本近代化」の主導役を担ってきた

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2012年9月22日土曜日

単独記事でアクセス数1万突破!(2012年9月22日)-フェイスブックもさることながら、なんといってもブログが大事だなと思う




「かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ 大和魂」(吉田松陰)という、いまから約2年前の 2010年11月11日(木)に投稿した記事が、単独記事としてはついにアクセス数1万を超えました! http://e-satoken.blogspot.jp/2010/11/blog-post_11.html

「尖閣列島」で中国漁船が海上保安庁の巡視艇に体当たりしてきた挑発行為にかんして、映像を YouTube に流出させた勇気ある元保安官の行為について、吉田松陰の辞世の句を引き合いに出して語ったものです。

「尖閣問題」に対する日本人の関心の深さを反映したものであるといっていいでしょう。

2009年5月4日にブログを書き始めて以来、約3年半たちましたが、べつにそれを目指して書き続けてきたわけではないのにかかわらず、やはり感無量ですね。

ブログ記事第一号は、「円安バブル崩壊」という記事でした。 http://e-satoken.blogspot.jp/2009/05/blog-post.html

ブログを始めるにあたっては、とくにこれといった考えもなく Google の blogspot を使用世の中の大勢に影響されることなく、日本ではマイノリティの blogspot を浮気することなく使用しつづけてきております。

テクノロジーカンパニーとしての Google は、Facebook よりもはるかに深いものがあります。3年半前は「自分をGoogle化する」(某K女史)の影響も受けてましたし(笑) またなんといっても、Google AdSense もいやなら使わなくてもいいので、広告が画面にでてくることもなく、ひじょうにスッキリしたキレイな画面になるのはアドバンテージです。

自称 「フェイスブックの伝道師」の方々は、「ブログよりもフェイスブックだ!」などと煽っていましたが、それとこれとは違うのだという考えから、黙殺しつづけて今日に至っております。

いずれフェイスブックも消えていくかもしれません。その予兆もなくはないといっていい。株価が低下傾向にあるのも、その予兆の一つですが、より根本的にはテクノロジーカンパニーとしての底の浅さが懸念されているようです。

そうなったときにも備えて、ブログ記事はブログ記事として書き続けるべきだなと、あらためて思うのであります。なんといっても、ブログ記事のほうが記録性が高いこと、ブログ内検索もふくめて記事じたいの検索性がいいこと、記事そのものをリンクしやすいことなどの理由があげられます。

「アタマの引き出しは生きるチカラだ」は、もともとは「つれづれなるままに」という、きわめて平凡なタイトルではじめたものです。しかも、実名は出していませんでした。

「アタマの引き出しは生きるチカラだ」の現在の投稿数は995、まもなく1,000になります。

姉妹編としてスピンオフした「ケン・マネジメント公式ブログ 組織変革&人材力強化、そしてマネジメント国際化」もまたタイトルは変化していますが、2010年4月から書き始めて、すでに2年半。投稿数は、254本。http://ken-management.blogspot.jp/

2つのブログをあわせると、投稿数はすでに 1,249本。一本一本が「一話完結」型で中身のある記事にするべく努力してきました。

最初の頃は、「佐藤さんのブログは中身が濃すぎて読むのが面倒」などと言われたりもしていましたが、頑固者のわたしはそういった雑音にはいっさい耳を貸さず、一貫した姿勢で書き続けております。

もちろん、フェイスブックでの交流は続けていきますよ。みなさんとの「対話」は、アイデアに気づき、さらにそれを発展させていくために、きわめて大きな意味をもっているからです。

「顔のわかる対話」が、フェイスブックの投稿、さらにはブログ記事への発展というプロセスをとることが最近多いですね。

ただし、フェイスブックの「ノート」の機能は使い勝手があまりにも悪いのでつかいません。テキストファイルで気楽に書けないのが欠点であることがいちばん大きな理由です。

今後も、生きている限り、自分が考えたことを文字にしてブログで公開するという活動はつづけていくつもりです。引き続き、今後もよろしくお願いします!


<ブログ内関連記事>

書評 『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)

書評 『フェイスブック 若き天才の野望-5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた-』(デビッド・カークパトリック、滑川海彦 / 高橋信夫訳、日経BP社、2011)





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2012年9月16日日曜日

「法務資料展示室 メッセージギャラリー」(法務省)は、「法化社会」の実現が日本近代化の重要な一側面であったことを実物資料をつうじて教えてくれる


法務資料展示室 メッセージギャラリー(法務省)は、「法化社会」の実現が日本近代化の要(かなめ)であったことを実物資料をつうじて教えてくれるミュージアムだ。

まったく偶然なのだが、霞ヶ関の官庁街を新橋方面に抜けようと思って歩いていたら、まったく道を間違えて桜田門に至ってしまった。残暑のきつい先週の午後のことである。

桜田門といえば警視庁である。道路をはさんだはす向かいに立つ煉瓦造りの立派な建物が法務省である。司法の府と立法の府が桜田門につづく桜田通りをはさんで向かい合っているというわけだ。

じつは、煉瓦造りの立派な建物が法務省(旧本館)であることは知らなかった。まったく無知蒙昧なことであるが、東京で煉瓦造りの建築物というと東京駅舎くらいしか知らなかったのである。偶然の結果とはいえ、すこしは賢くなったものである。

そして、たまたま目に入ったのが、「法務資料展示室 メッセージギャラリー(法務省)」のプレート。なんと「入場無料」とある。次のアポイントメントまですこし時間があったので、せっかくの機会なので、ものは試しに入場してみることにした。

法務省の入り口は警戒は厳重だ。民間の警備会社が請け負っている。

「法務資料展示室」に行きたい旨を警備員に伝えると、まずは担当者に連絡、迎えの警備員がやってきて交替、建物の内部まで同行で引率されることに。建物のなかに入ったら、別の警備員に交替。三人目の警備員に引率されて二階にあがる。内部では執務中なので、気をつけるようにという指示を受けて「法務資料展示室」に入る。なかなか手続きが厳重である。

わたしが行ったときは、わたし以外は誰もいなかったので、心ゆくまで観覧できた(・・といっても、時間をつぶしたというわけではない)。

見学が終わったあと、受付の女性に聞いてみたら、団体客が一日50人から90人は入場者があるという。個人でくる人はあまりいないようだ。それはそうだろう。そもそも「法務資料展示室」の存在じたい知っている人は少ないのではないだろうか。

内部の撮影は禁止なので、写真でお伝えできないのが残念だが、明治維新後の日本が「近代化」すなわち「近代西欧化」を、法制度の近代化からはじめたことが、具体的な実物資料(・・複製もあるが)を見て実感できる展示内容となっている。

展示物については、「法務史料展示室・メッセージギャラリーへようこそ」(法務省のサイト)を参照していただきたい。

先にも書いたように、明治維新後の日本の課題とは、植民地化がすぐ目の前の中国にまで迫っていたという弱肉強食の国際社会のなかで生き残るため、先進地域である西欧から徹底的に学び尽くすという選択を行ったことにある。尊皇攘夷から攘夷を切り捨てて、尊皇のまま西欧近代化の道を突き進む決定を行ったのであった。

目に見えるインフラの近代化は工学方面で、目に見えない制度の近代化にかんしては法学方面で。まずは、近代化という大改革が開始されたのは、この二つの実用分野であった。東大が工学部と法学部の二学部が中核にあるのはこのためである。

企画展示として、ちょうど初代司法卿であった江藤新平の功績を顕彰したものがよかった。企画展示は、すでに14回目のようだ。

「佐賀の乱」で斬首になった江藤新平(1834~1874)であるが、これは西郷隆盛と同様、郷土の旧士族にかつがれたためであった。おそらく本人にとっても、心ならずもという展開であったことだろう。

江藤新平が、たった一年の在任期間とはいえ、初代司法卿として日本の「法化社会」実現の礎(いしずえ)をきずいた功績は、当時としてはあまりにも時代の先をいっていた発想とともに記憶してしかるべきである。


「法務資料展示室」は、京橋の「警察博物館」とあわせてみると、日本の近代化を立法と司法という側面から考えることができる。ただし、戦後は警察は司法ではなく、アメリカの影響を受けて法執行機関(law enforcement)となっていることには注意しておくことが必要だが。

明治維新のビフォアとアフターでは、日本はまったく異なる社会になったことを知ることは、明治維新後に生きているわれわれはしっかりと認識する必要がある。それに比べたら、敗戦後の変化といえども、しょせん明治維新後の大変化のなかの変化にすぎないことが理解されるのである。

そしてまた、近代化をまさに開始したミャンマーなどの発展途上国について考えるヒントにもなるであろう。日本の法務省は、法務総合研究所国際協力部をつうじてミャンマーやラオス、カンボジアなどの法律近代化に支援を行っている。

地味な展示内容だが、じつに貴重な資料の展示である。知られざる博物館であるが、ぜひ機会をつくって訪問してみてほしいと思う。





<関連サイト>

「法務史料展示室・メッセージギャラリーへようこそ」(法務省のサイト)

法務総合研究所国際協力部(法務省のサイト)

「警察博物館見学」(警視庁のサイト)

歴史に学ぶ 父と呼ばれた日本人-近代日本を創った801人】◆第8回「法曹界の父たち」(ダイヤモンドオンライン 2012年9月20日)・・まず言及されるのは江藤新平


<ブログ内関連記事>

書評 『日本近代史の総括-日本人とユダヤ人、民族の地政学と精神分析-』(湯浅赳男、新評論、2000)-日本と日本人は近代世界をどう生きてきたか、生きていくべきか?

書評 『日本文明圏の覚醒』(古田博司、筑摩書房、2010)-「日本文明」は「中華文明」とは根本的に異なる文明である

梅棹忠夫の『文明の生態史観』は日本人必読の現代の古典である!

書評 『封建制の文明史観-近代化をもたらした歴史の遺産-』(今谷明、PHP新書、2008)-「封建制」があったからこそ日本は近代化した!

書評 『霊園から見た近代日本』(浦辺登、弦書房、2011)-「近代日本」の裏面史がそこにある

「幕末の探検家 松浦武四郎と一畳敷 展」(INAXギャラリー)に立ち寄ってきた・・「警察博物館」に立ち寄った記録を書いておいた



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2012年9月9日日曜日

書評 『チャイナ・ジャッジ-毛沢東になれなかった男-』(遠藤 誉、朝日新聞出版社、2012)-集団指導体制の中国共産党指導部の判断基準は何であるか?



まもなく胡錦濤(こ・きんとう)から習近平(しゅう・きんぺい)に権力委譲が行われる中国共産党。

中国共産党の最高意志決定機関は、「チャイナ・ナイン」と呼ばれる「中国共産党中央委員会」の9人のメンバーであり、「集団指導体制」がその本質である。「チャイナ・ナイン」とは、本書の著者である遠藤誉(えんどう・ほまれ)氏の命名だ。中国共産党はけっして独裁ではない。

その「チャイナ・ナイン」が、今年の3月に全員一致で解任を決定したのが、重慶市長書記であった薄煕来(はく・きらい)。

野心満々の「毛沢東になろうとした男」であったが、その野望は最終的に断念させられた。その妻で、やり手の弁護士であった谷開来(こく・かいらい)は、英国人ビジネスマン殺害容疑で逮捕され、国際問題に発展した。

昨年秋に発覚したこの「不可解な事件」は、さまざまな情報が入り乱れて事件の本質がつかみにくかったが、『チャイナ・ジャッジ-毛沢東になれなかった男-』(遠藤 誉、朝日新聞出版社、2012)を読んで、ようやくアタマの整理がついてきた。

中国共産党内部の激烈な権力闘争。盗聴によるスパイ(間諜)が当たり前の世界。子弟を米英に留学させる背景にある「欧米崇拝アジア蔑視」マネーロンダリング(=洗銭)という目的。アメリカのCIAや英国のMI5やMI6もからんだ中国をめぐる諜報戦。権力を利用して蓄財したカネをマネーロンダリングしたチャイナマネーが、アングロサクソン諸国をうるおしているという実態。そしてそのカネは日本企業や日本の水源を買収する原資にもなっている。

これが、隣の大国を中心に起こっていることの真相なのである。中国共産党による現体制がつづく限り、この構造が簡単に崩れることはなさそうだ。だが、それは中国の一般人民の犠牲のうえに成り立ったものであることは否定できない。

著者は、中国生まれ中国育ち。子ども時代を日本に敗戦による大混乱と飢餓状況を生き抜き、毛沢東の「新中国建設時代」を現地で体験した人だ。

その体験は、『卡子(チャーズ)-中国革命戦をくぐり抜けた日本人少女-』という衝撃的な本にまとめられている著者によれば、『チャーズ』は中国語版は用意したが、中国では出版を許可されていないという。出版言論の自由が保障されない限り、「中国革命」は未完のままなのである、と。

情報の制約から、推論と仮説による部分もあるが、もともと物理学専攻の研究者だっただけに、きわめてロジカルで読みやすい。限りなく中国共産党のインサイダーに近い情報源をもち、中国で幼少期を過ごした著者は、いわば中国を内在的に観る視点をもっている。だから、説得力がある。

隣の大国で何が進行しているのかを知るためには、読んで損のない一冊である。ぜひ読んでいただきたい。








目 次

序章 チャイナ・ジャッジ、中国の審判
第一章 生い立ちと不倫婚
一、文化大革命で暴れまわった薄熙来-父親の肋骨をへし折る
二、父親の不倫婚から生まれた薄熙来
三、恩義を仇で返した薄熙来の父、薄一波-天安門事件の遠因
四、軍人の子として育った谷開来
五、薄熙来・谷開来の不倫と略奪婚
第二章 大連時代
一、大連市管轄下の金県に避難
二、天安門事件-薄一波と習近平の父親・習仲勛
三、「南巡講話」に乗じた薄熙来
第三章 1999年
一、天安門前よりも高い大連の飾り柱「華表」
二、国有企業改革とWTO加盟
三、国有企業改革と発展に関する座談会
四、江沢民、大連視察
第四章 遼寧省時代
一、「遼寧閥」を倒せ!
二、谷開来とニール・ヘイウッドのイギリス生活
三、王立軍との出会い
第五章 商務部時代-運命の分岐点
一、商務部長になる前後の中国事情
二、ついに商務部長に
三、李克強が党委書記として遼寧省に
四、「鉄の女」呉儀の「裸退」
第六章 重慶時代
一、唱紅運動-革命歌で勝負だ!
二、形成されていた包囲網-スパイを探れ!
三、打黒運動-政敵を殺してしまえ!
四、軍を買収して中央を威嚇
第七章 スパイ舞う中で散る
一、王立軍、成都アメリカ領事館へ
二、毛沢東になれなかった薄熙来
三、スパイ舞う中に散る
終章 世界を覆うチャイナ・マネー -裸官と投資移民


著者プロフィール

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)
1941年中国長春市生まれ。1953年日本帰国。筑波大学名誉教授。東京福祉大学国際交流センター長。理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、国際院西部開発弁公室人材開発法規組人材開発顧問などを歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

中国問題研究家 遠藤誉が斬る (連載 2013年10月2日から現在) 



<ブログ内関連記事>

書評 『中国動漫新人類-日本のアニメと漫画が中国を動かす-』(遠藤 誉、日経BP社、2008)

書評 『拝金社会主義中国』(遠藤 誉、ちくま新書、2010)

書評 『ネット大国 中国-言論をめぐる攻防-』(遠藤 誉、岩波新書、2011)-「網民」の大半を占める80后、90后が変える中国

書評 『チャイナ・ギャップ-噛み合わない日中の歯車-』(遠藤誉、朝日新聞社出版、2013)-中国近現代史のなかに日中関係、米中関係を位置づけると見えてくるものとは?

書評 『チャイナ・セブン-<紅い皇帝>習近平-』(遠藤誉、朝日新聞出版社、2014)-"第2の毛沢東" 習近平の「最後の戦い」を内在的に理解する

書評 『香港バリケード-若者はなぜ立ち上がったのか-』(遠藤誉、深尾葉子・安冨歩、明石書房、2015)-79日間の「雨傘革命」は東アジア情勢に決定的な影響を及ぼしつづける

(2014年3月20日、2015年10月25日 情報追加)



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2012年9月7日金曜日

『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』の一部が公開されましたよ~!




 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』、中身が公開されちゃいました~!

版元の こう書房 のサイトから、なんと 「本の中身」 が見れるようになっちゃいましたよ~!!!

こんな感じです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はじめに」「目次」「序章」「第1章一部」が読める
立読み版PDF(無料)がダウンロードできます。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
立読み版PDF(無料)はここをクリック!
http://www.kou-shobo.co.jp/files/sample/1074.pdf
ダウンロードのためのダイアログが開きます。
PCの設定によってはPDFファイルが直接開くことがあります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

よっ、太っ腹! 大判振る舞い!
いやあもう、ダダ漏れですね~(笑)

「はじめに」、「目次」、「序章」、それから「第1章一部」まで読んで興味をもたれた方、ねっ、おもしろそうでしょ(笑)

リアル書店かネット書店へGO!

よろしくお願いしま~す





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2012年9月3日月曜日

書評 『日本の文脈』(内田樹/中沢新一、角川書店、2012)-「辺境日本」に生きる日本人が「3-11」後に生きる道とは?


1950年という同じ年に生まれて同じ大学キャンパスで学生時代を過ごしていながら、この対談が始まるまで会うことがなかったという二人。

一方は早熟の物書きで、他方は遅咲きの物書きという違いはあるが、ともに現在売れっ子の著者二人の顔合わせによう対談は、意外や意外、じつに興味深い内容だった。最初の対談では合気道六段の野人派・内田樹の前で、中沢新一がややおとなしく見えるのもなんだかご愛敬だ。

基本的に、内容は日本の「国ほめ」が中心になるのだが、「3-11」後になされた対談では、コインの裏側にある日本の弱点についても語られることになる。

わたしにとってもっとも関心が高いのは、第三章のユダヤ人との比較だ。同じ「辺境の民」という構造的共通性をもつユダヤ人との比較で浮かび上がってくるのは日本的思考の特性である。

ユダヤ的一神教に基づく思考のあり方には二人とも憧憬の思いは隠さないが、二人がともに尊敬する人類学者レヴィ=ストロースもまた、ユダヤ的思考を体現したユダヤ系フランス人である。

「辺境ユダヤ」と「辺境日本」。中身はまったく異なりながらも、世界に置かれている状況がきわめて似ている二つの民族日本にあってユダヤに欠けているものはこの対談で明確になる。それは、農業へのコミットメントだ。

読んでいて、「日本文明の世界への貢献といえば、北米と南米における日本人移民による農業技術移転にある」と南米移民を前にして語った梅棹忠夫の話を思い出した。本書で語られるさまざまなテーマは、日本人にとっての農業の意味について多く語られているのだ。

本書に収録された対談や鼎談を最後まで読んでいくと、結局は「辺境日本」に生きるわたしたちは、みずからの強みを自覚し、徹底的にみずからを掘り起こす作業をするしかないのかもしれないという気持ちにさせられる。

いろいろ好き嫌いの分かれる著者たちではあるが、近代資本主義が行き詰まりを見せている現在、こういう視点でものを考えることも何かのヒントになるのではないかと思う。一読をすすめたい。


<初出情報>

■amazon書評「「辺境日本」に生きる日本人が「3-11」後に生きる道とは?」(2012年4月4日 投稿)


目 次
まえがき 中沢新一
プロローグ これからは農業の時代だ!
第1章 これからの日本にほんとうに必要なもの
第2章 教育も農業も贈与である
第3章 日本人にあってユダヤ人にないもの
第4章 戦争するか結婚するか
第5章 贈与する人が未来をつくる
第6章 東洋の学びは正解よりも成熟をめざす
第7章 世界は神話的に構成されている-東日本大震災と福島原発事故のあとで
コラム 荒ぶる神の鎮め方 内田樹
あとがき 内田樹

著者プロフィール

内田 樹(うちだ・たつる)   
思想家。武道家(合気道七段)。凱風館館長。神戸女学院大学名誉教授。1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。2011年3月、神戸女学院大学文学部教授を退職し、同年11月、道場「凱風館」を開設。『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)で第六回小林秀雄賞、『日本辺境論』(新潮新書)で新書大賞2010、著作活動全般に対して第三回伊丹十三賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

中沢新一(なかざわ・しんいち)
思想家。人類学者。明治大学野生の科学研究所所長。明治大学特任教授。1950年山梨県生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学科卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。93年より中央大学総合政策学部教授、2006年より多摩美術大学美術学部教授および同大学芸術人類学研究所所長をつとめる。11年より現職。『対称性人類学 カイエ・ソバージュV』(講談社選書メチエ)で第三回小林秀雄賞、『アースダイバー』(講談社)で第九回桑原武夫学芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

本書ではユダヤ人に欠けていて日本人にあるものは、農業へのコミットメントであるというようなことが書かれている。

この発言はたしか中沢新一によるものだったと思うが、基本的にはただしい。ディアスポーラ(離散)状態のなかで、ユダヤ人は原則的に土地所有を禁じられていたので農業にはコミットメントしていないからだ。その意味では、具体的な作物栽培から引き離されて、思考がより抽象度が増したのはそのとおりだと思う。

しかし、古代イスラエルにおいて農業が主要産業であったことは、『タルムード』の記述をみれば明らかだし、イスラエル建国後は、社会主義的な集団農場=共同体であるキブツが中心になって、荒野を切り開いてきたこともたしかである。

ただし、現在のイスラエル農業は、世界でも最先端の「ハイテク農業」である。その意味では、土に根ざした伝統的な農業ではなく、工業としての農業といっていいかもしれない。 

(参考) http://www2.kenes.com/agritech2012/Pages/Home.aspx

ビジネスとしての農業はそれでいいいとしても、人間性回復のための農業は、やはり土に根ざしたものであるべきかもしれない。その点は、中沢新一の発言や取り組みには賛成だ。


個人的な話であるが、わたしも子どもの頃、家庭菜園で各種の野菜を栽培していたので、いずれ復活したいと夢想している。


<関連サイト>

『日本の文脈』(角川書店の書籍サイト)



<ブログ内関連記事>

きょうは何の日?-ユダヤ暦5227年の新年のはじまり(西暦2011年9月28日の日没)
・・古代ユダヤの農事暦について






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