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2012年4月30日月曜日

「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」(千葉市美術館)にいってきた


千葉市立美術館開催されている 「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 にいってきた。一昨日(4月28日)のことである。


江戸時代中期の18世紀、曾我蕭白(そが・しょうはく)を中心に、京都で活躍した画家たちの企画展覧である。墨絵をベースに展示。復古と新奇のせめぎあい、奇想画が面白い。

千葉市立美術館の公式サイトによれば、今回の美術展の概要は以下のとおり。 http://www.ccma-net.jp/exhibition_end/2012/0410/0410.html

会場: 千葉市立美術館
会期  2012年4月10日(火)~ 5月20日(日)
主催: 千葉市美術館 読売新聞社 美術館連絡協議会
協賛: ライオン、清水建設、大日本印刷、損保ジャパン 日本テレビ放送

18世紀の京都を彩った個性的な画家たち 蕭白、応挙、若冲、大雅、蕪村……江戸時代中期、西洋や中国の文化を取り入れる動きが美術にも波及し、特に京都では個性的な画家が多く活躍しました。曾我蕭白(1730~1781)もその一人です。蕭白は京都の商家に生まれ、父を早くに亡くして画業で身を立てました。室町時代の画家曾我蛇足に私淑して曾我姓を名乗ります。盛んに出版されるようになった版本の画譜を活用し、室町水墨画に学んだ復古的な作品を多く残しました。巧みな技術に裏付けられた独特の作品世界は現代人をも魅了します。

蕭白が伊勢地方(現在の三重県)で制作した作品は今も三重県内に多く伝わっています。今回の展覧会では修復を終えた、斎宮の旧家永島家伝来の障壁画(全44面、重要文化財、三重県立美術館所蔵)を中心に蕭白の画業を振り返ります。
また、蕭白前史として、蕭白が師事したと思われる高田敬輔や、京都で活躍した大西酔月ら復古的な画風の画家を紹介します。円山応挙、伊藤若冲、池大雅、与謝蕪村らの作品も展示し、蕭白のいた江戸時代中期の京都画壇の豊かさを併せてご覧いただきます。首都圏では1998年以来久々の蕭白展となります。
※会期中に大幅な展示替えがあります。
※全ての作品をご覧いただく場合、4/10~4/30と5/8~5/20の両期間に1回ずつご来場ください。

曾我蕭白(そが・しょうはく)というと、異端、奇才、エキセントリックという形容詞がただちに浮かんでくるが、今回の展示では必ずしもそういう門切り型の形容詞ではひとくくりにできない蕭白を知ることができるというべきだろうか。



じつは、曾我蕭白の作品をまとめて見るのは今回が初めてなのだが、正直なところ、かなり地味だな、というのがその感想だ。なぜならベースが墨絵なので、モノトーンの絵画の展示が、えんえんとつづくわけである。

『無頼の画家 曾我蕭白(とんぼの本)』(狩野博幸/横尾忠則、新潮社、2009)という極彩色のカラーページのビジュアル本をすでに眺めていたので、今回の展示作品を見て、これが蕭白(?)という意外な印象を受けた。

蕭白を紹介した本では、細部を拡大して強調しているので、そのイメージが焼き付いているのだが、実際は墨絵のなかでは一部に過ぎないことも多く、かならずしもつよい違和感を感じる作品ではない。ただし、近づいてよく見ると、やはりエキセントリックな描き方がされていることがわかるといった感じだ。現代マンガの源流に位置づけてもいいのだろう。

寒山拾得(かんざん・じっとく)をテーマにした絵が何点も展示されている。森鴎外の口語体小説にも取り上げられている寒山拾得だが、この隠者二人組はむかしから禅画のテーマとして取り上げられてきた。蕭白もまた、手を変え品を変え、何度も何度も繰り返し描いている。それだけ需要があったということだろう。見るからにむさ苦しい描き方は蕭白ならではだろうか。

今回の展示には、洋犬を描いた一点があった。18世紀にすでに上方に洋犬が伝来していたのである。デフォルメによってエキセントリックな画風をなしていた蕭白だが、洋犬はデフォルメしなくても素材自体が異色なイメージをかもし出す。

ミュージアムショップで、『奇想の系譜-又兵衛~国芳-』 『奇想の図譜-からくり・若冲・かざり-』の二冊の文庫を買う。ともに、美術史家・辻惟雄によるもので、ちくま学芸文庫である。とくに、『奇想の系譜』は、伊藤若冲や曾我蕭白ブームをつくりだすキッカケとなった本で、1970年に初版がでたものである。



『奇想の系譜』の文庫版の表紙は、ボストン美術館所蔵の曾我蕭白筆「雲龍図襖」。ほとんどマンガのようなタッチである。曾我蕭白が在世当時から明治時代のはじめまで人気があったらしいのもなるほどと思われる。

岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳という、近世絵画史において長く傍系とされてきた画家たちを扱ったこの本によって、かれらが現代において日の当たる存在となった名著とのことだ。

今回はじめて読んでみて、これらの画家たちを個別にしか考えていなかったわたしのアタマのなかに、ようやく「奇想の系譜」というものができあがった思いがしている。機会があれば、ぜひ一読をおすすめしたい。









この美術展は巡回展である。千葉のあとは、蕭白ゆかりの地である三重県立美術館(津市)で開催される。


「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」(千葉市美術館)
会期 2012年4月10日(火)~ 5月20日(日)

「開館30周年記念 蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」
2012年6月2日(土)―7月8日(日)






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「没後150年 歌川国芳展」(六本木ヒルズ・森アーツセンターギャラリー)にいってきた-KUNIYOSHI はほんとうにスゴイ!

特別展 「五百羅漢-増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師・狩野一信」 にいってきた

書評 『若冲になったアメリカ人-ジョー・D・プライス物語-』(ジョー・D・プライス、 山下裕二=インタビュアー、小学館、2007)

『酒井抱一と江戸琳派の全貌』(千葉市美術館)の初日にいってきた-没後最大規模のこの回顧展は絶対に見逃してはいけない!

「生誕130年 橋口五葉展」(千葉市美術館) にいってきた
・・千葉市美術館は館長に美術史家の小林忠氏がいるので、じつによい企画が多い。これもその一つ

美術展 「田中一村 新たなる全貌」(千葉市美術館)にいってきた
・・百貨店でよく取り上げられる田中一村だが、きちんと美術館で正当な評価を行ったことはすばらしい






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2012年4月29日日曜日

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③


傭兵の歴史から21世紀の現状を考える

『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)は、ヨーロッパ史を中心に、コンパクトにまとめられた、読んでなるほどと納得させられる傭兵の歴史である。

この本を読むと、古代ギリシアや古代ローマ以来、「武装市民 ⇒ 傭兵 ⇒ 国民皆兵 ⇒ 再び傭兵への部分依存」という歴史の流れを知ることができる。

近代国民国家の成立は、国民が徴兵あるいは志願によって、人的な意味での軍の供給源になるということが前提になることが、傭兵の歴史を見ることによって逆照射されるわけだ。

この本が面白いのは、つねに同時代の日本が対比されていることだ。著者自身はあまり関心を払っていないようだが、じつはユーラシア大陸の両端で、ほぼ同時代的にに同様の現象が生じていることについては、わたしはなんどもこのブログに書いてきた。

ヨーロッパにおいては、安定していた中世社会が崩壊して近世に社会に入る。まさに時代の転換期で激動の時代に、騎士が没落し、傭兵が存分に活躍する状況が生まれたのであった。これは日本でも戦国時代と同じである。

その中心となったのが、ランツクネヒト(Landsknecht)という南ドイツに起源をもつ傭兵集団である。傭兵が忠誠の対象とするのはヒトではなくカネ。雇用主のカネ払い悪いと、傭兵集団は略奪集団に変貌する。かの「ローマ強奪」(サッコ・ディ・ローマ)はこうして行われたのであった。

本書の読みどころはここにある。

その傭兵も、雇用主にとっては諸刃の剣であり、いつ自分に刃向かってくるかわからない存在であることから、暴力装置を自分のもとに集中管理したいという欲望は君主は抱くようになるのは当然の流れだ。

1648年のドイツ三十年戦争の終結によって、絶対君主制のもと正規軍として再編されていくさまが本書にはよく書かれている。いちはやく戦国時代を終わらせて徳川時代に入っていた日本よりは遅れたが、同じ17世紀の出来事であった。

三十年戦争終結に至るまでに、ヨーロッパでは、ハプスブルク家支配からの独立戦争を戦っていたオランダでの軍政改革、グスタフ=アドルフによるスウェーデンの軍政改革が行われ、財政の裏づけのもとに常備軍が整備され、傭兵は大幅に後退していく。

ルイ14世のフランスの絶対王朝を経て、フランス革命による国民軍の成立により、はじめて「祖国にために死ぬ」というナショナリズムが軍事的な意味で成立することとなった。フリードリヒ大王によるプロイセン陸軍整備もまた、なぜプロイセン王国がドイツ統一の中心になったかを理解するためのカギである。

傭兵集団といえば、フランス外人部隊が名高いが、「傭兵の二千年史」と題しながら、英国陸軍のグルカ兵について触れられていないのは残念だ。第10章では、アイルランドの若者たちの悲史である「ワイルドギース」についても触れられている。また、第11章では、領主によってアメリカに売られたドイツのヘッセンの傭兵についても触れられている。ヨーロッパの人身売買についての知られざる歴史である。

PMC(Private Military Company)は、21世紀になってから急成長したビジネスであり、2002年に出版されたこの本にはその現状は南アフリカのエグゼクティブ・アウトカム社が言及される程度である。

つまり、2002年以降の歴史は、ふたたび近代国家における国民皆兵の原理が崩れ、経済原則によって傭兵化の道がレールとして敷かれつつあると考えるべきかもしれない。いまはまだ正規軍の補助的な位置づけのPMCだが、経済原則が優先されるにつれて、正規軍の領域が現在以上に浸食されていくような気がするのである。

近世史・近代史を軍事の観点からみた興味深い一般歴史書である『傭兵の二千年史』とあわせ読むことで、PMCについての理解を深めたいものである。



<初出情報>

ブログへの書き下ろしです。





目 次
はじめに
第1章 クセノフォンの遁走劇
第2章 パックス・ロマーナの終焉
第3章 騎士の時代
第4章 イタリア・ルネッサンスの華、傭兵隊長
第5章 血の輸出
第6章 ランツクネヒトの登場
第7章 果てしなく続く邪悪な戦争
第8章 ランツクネヒト崩壊の足音
第9章 国家権力の走狗となる傭兵
第10章 太陽王の傭兵たち
第11章 傭兵哀史
第12章 生き残る傭兵
あとがき
参考文献


著者プロフィール


菊池良生(きくち・よしお)

1948年、茨城県に生まれる。早稲田大学大学院博士課程に学ぶ。現在、明治大学教授。専攻はオーストリア文学。ハプスブルク関係の一般向け歴史書多数。




<近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える>

P.S. 長すぎる文章となってしまったので、もともとのブログ投稿文章を三分割することとし、本編もタイトルを変更した。それぞれ以下のとおりである。

書評 『民間軍事会社の内幕』(菅原 出、 ちくま文庫、2010)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ① 

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきたた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③・・・本編




<関連記事>

「民間軍事会社のリアルな実態を描く『ルート・アイリッシュ』」(菅原 出、日経ビジネスオンライン 2012年4月9日)

『ルート・アイリッシュ』公式サイト

Route Irish Trailer (映画 『ルート・アイリッシュ』トレーラー)

ヤバい仕事は俺たちに任せろ!-英軍の3倍を誇る民間軍事会社の実態 (GQ JAPAN、2014年12月8日)
・・「デンマークの警備会社から出発した民間軍事会社G4Sは、刑務所の運営代行から空港の警備、グルカ族の武装警備隊の編成に至るまで、世界中にサービスを拡大している。その勢いは、”日の沈まない帝国”にたとえることすらできそうだ・・(中略)・・民間軍事会社とは要するに、施設警備や現金輸送といった警備会社の延長線上の業務を武装が必要な危険地帯で行いつつも、傭兵のような本格的な戦闘員とは一線を画す後方要員の集合体と呼んでよさそうだ。」

(2015年6月10日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争・・2010年度アカデミー賞作品

書評 『封建制の文明史観-近代化をもたらした歴史の遺産-』(今谷明、PHP新書、2008)-「封建制」があったからこそ日本は近代化した!

本の紹介 『阿呆物語 上中下』(グリンメルスハウゼン、望月市恵訳、岩波文庫、1953)
・・三十年戦争のなか、荒廃したドイツをたくましく生きぬく主人公

修道院から始まった「近代化」-ココ・シャネルの「ファッション革命」の原点はシトー会修道院にあった
・「規律による自律」の集団生活。修道院の生活は超早寝早起き。

書評 『国家と音楽-伊澤修二がめざした日本近代-』(奥中康人、春秋社、2008)-近代国家の「国民」をつくるため西洋音楽が全面的に導入されたという事実
・・日本人を近代産業に適した近代的身体に改造することが明治時代初期の課題であった。幕末の鉄砲隊はリズムに合わせて発砲するためのドラマー(=鼓手)を必要とした

(2014年9月21日 情報追加)




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映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②

映画 『ルート・アイリッシュ』を見てきた。場所は、銀座テアトルシネマである。

映画 『ルート・アイリッシュ』をは、『民間軍事会社の内幕』の著者・菅原出氏が、イラク戦争について深く知るためには恰好の映画として推奨しているものだ。くわしくは、「民間軍事会社のリアルな実態を描く『ルート・アイリッシュ』」(菅原 出、日経ビジネスオンライン 2012年4月9日)を参照。




映画にコメントする前に、映画の概要について書いておこう。


監督: ケン・ローチ
出演者: マーク・ウォーマック、アンドレア・ロウ、ジョン・ビショップ、ジェフ・ベル、タリブ・ラスール
製作年: 2010年
製作国: イギリス フランス ベルギー イタリア スペイン


英国を中心にした欧州各国の資金で製作されているが、米国のカネは入ってない。、

日本の配給会社による紹介は以下のようなものである。『ルート・アイリッシュ』公式サイト参照。 

アメリカが引き起こした“恐るべき犯罪行為”イラク戦争に対し英国を代表する社会派の巨匠、ケン・ローチ監督が、痛烈な批判を込め描いた問題作、ついに日本公開!
真のイラク戦争終結は、すべての戦争請負業者たちが、あの地から去ってはじめてなされると我々は信じている(ケン・ローチ、2011年12月14日のオバマ大統領による<イラク戦争終結宣言>を受けて)

『麦の穂を揺らす風』や『この自由な世界で』などの作品で知られるイギリス映画界が誇る巨匠、ケン・ローチ監督。いつも新作の動向が注目される彼の最新作は男同士の友情を描いた感動作で、イラク戦争の闇に踏み込んだショッキングな内容が2010年カンヌ映画祭でも大きな話題を呼んだ。

ある電話へのメッセージを最後に、イラクの戦場にいたフランキーは帰らぬ人となる。リヴァプールの町でフランキーと兄弟同様に育ったファーガスは、友の死に深く心を痛める。
フランキーには美しい妻、レイチェルがいて、彼女もその突然の死に衝撃を受ける。
フランキーが命を落としたのは<ルート・アイリッシュ>と呼ばれるイラクのバグダッド空港と市内の米軍管轄区域グリーンゾーンを結ぶ12キロに及ぶ道路のことで、03年の米軍によるイラク侵攻以降、テロ攻撃の第1目標とされる“世界一危険な道路”として知られるエリアだった。
かつてフランキーと共にイラクの英国特殊部隊の一員だったファーガスは、親友の死に不信感を抱き、レイチェルの協力も得ながら死の真相を調べ始める。
やがて彼は生前のフランキーが映ったショッキングな戦場での映像を入手するが、そこには恐るべき真実が隠されていた……。

舞台は英国の港町リバプール主人公は、英国陸軍の特殊部隊 SAS の元隊員である。SAS(Special Air Service)は、突撃部隊であり、とくに対テロの専門部隊でもある。

主人公は、おそらくワークング・クラス(労働者階級)であろう。セリフにやたら fucking というコトバが入るのは米国人の真似かと思ったが、そうではないようだ。労働者階級のしゃべるイギリス英語は、クイーンズ・イングリッシュとはほど遠い。

"They vs Us" の対立構造がセリフから読み取ることができる。字幕では「西洋の・・」としていたが、これは「やつら」とすべきところだ。「やつら 対 俺たち」の対立構造は、英国はもとより米国にも存在するが、階級社会の英国では、より鮮明に現れている。

この映画でいう「やつら」(They)とは、PMCビジネスで荒稼ぎするスーツ組のこと。「俺たち」(Us)とは、カネがないのでPMCに雇用されてイラクやアフガニスタンで危険な仕事に従事する労働者階級のことだ。

この対立構造は、主人公の親友がイラクで死んだあと、故郷リバプールの教会で行われた葬儀でのシーンで鮮明になる。形式的なお悔やみのコトバを述べるスーツ姿のPMC幹部と死者の友人たちとの階級差。

この映画の主人公は、米国映画でアカデミー賞を受賞した『ハートロッカー』のような地雷除去のスペシャリストであるプロの陸軍軍人ではない。武装はしているが、あくまでも「私服を着た民間人」という扱いである。

法的にいって戦闘員ではない民間人(シビリアン)。この法的なあいまいさについて知ることができるのは、この映画の啓蒙的な一面だ。

映画そのものは、エンターテイメント作品としては、ちょっとイマイチというのが、わたしの正直な感想だ。イラクのシーンがほとんど出てこないので、『ハートロッカー』のようなイラク戦争ものとは、かなり異なる映画である。戦争映画ではない

英国の当時の首相ブレアが、米国の尻馬に乗って、証拠をでっち上げてまでイラク戦争に参戦したそのつけが回ってきたのは、結局のところ、オックスフォード大学に進学するような支配階級ではなく、労働者階級の男たちである。そして女たちだ。

そういう現実を見据えることが、この映画を見る際に必要なことだ。しかも、正規軍の兵士ではないから、死亡しても国家からの叙勲も年金支給もないという現実。

PMCのビジネスを、戦場の最前線という現場に立つ人間からみる視点がこの映画にはある。





<近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える>

P.S. 長すぎる文章となってしまったので、もともとのブログ投稿文章を三分割することとし、本編もタイトルを変更した。それぞれ以下のとおりである。

書評 『民間軍事会社の内幕』(菅原 出、 ちくま文庫、2010)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ① 

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきたた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②・・本編

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③



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「民間軍事会社のリアルな実態を描く『ルート・アイリッシュ』」(菅原 出、日経ビジネスオンライン 2012年4月9日)

『ルート・アイリッシュ』公式サイト

Route Irish Trailer (映画 『ルート・アイリッシュ』トレーラー)

ヤバい仕事は俺たちに任せろ!-英軍の3倍を誇る民間軍事会社の実態 (GQ JAPAN、2014年12月8日)
・・「デンマークの警備会社から出発した民間軍事会社G4Sは、刑務所の運営代行から空港の警備、グルカ族の武装警備隊の編成に至るまで、世界中にサービスを拡大している。その勢いは、”日の沈まない帝国”にたとえることすらできそうだ・・(中略)・・民間軍事会社とは要するに、施設警備や現金輸送といった警備会社の延長線上の業務を武装が必要な危険地帯で行いつつも、傭兵のような本格的な戦闘員とは一線を画す後方要員の集合体と呼んでよさそうだ。」

(2015年6月10日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争・・2010年度アカデミー賞作品

書評 『イラク建国-「不可能な国家」の原点-』(阿部重夫、中公新書、2004)-「人工国家」イラクもまた大英帝国の「負の遺産」

書評 『封建制の文明史観-近代化をもたらした歴史の遺産-』(今谷明、PHP新書、2008)-「封建制」があったからこそ日本は近代化した!

本の紹介 『阿呆物語 上中下』(グリンメルスハウゼン、望月市恵訳、岩波文庫、1953)
・・三十年戦争のなか、荒廃したドイツをたくましく生きぬく主人公






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2012年4月27日金曜日

書評 『民間軍事会社の内幕』(菅原 出、 ちくま文庫、2010)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ①

いまや国際紛争解決になくてはならないPMC(民間軍事会社)は「傭兵」ビジネスそのものではない

この本を読むまで、わたしはPMC(=Private Military Company:民間軍事会社)は傭兵ビジネスなのだと思い込んでいた。

どうも『戦争の犬たち』や『ワイルドギース』の印象がつよすぎて、同じようなものだろうと思い込んでいたのだ。

思い込みほど怖いものはないと痛感している。実際は、正規軍では対応できない要人警護やロジスティックスなどの業務を請け負うアウトソーシングに近いようだ。

とはいっても、活動場所は戦場の最前線だ。半端な業務ではない。広い意味での「傭兵」といってもいいのかもしれない。ただし、戦闘行為には関与しない。

民間軍事会社は、冷戦崩壊後の環境変化によって国際紛争の内容が変質した状況に対応して急速に発展したあたらしいビジネスだ。本書によれば米国と英国、そしてフランスという世界の軍事先進国の退役軍人たちがたちあげたビジネスである。

PMCが一気にブレークしたのは、2003年にはじまったイラク戦争である。

ブッシュ政権のもと戦争に突入したアメリカは、戦争の大義があやふやなままの状態であったため、犠牲者数をミニマムにするためには限られた数の兵員で戦うことを余儀なくされた。その結果、正規軍の補助としてPMCを積極的に使用することになったのである。つまり、需要と供給がそこに見られるのであり、21世紀に入ってから、きわめて短期間で急成長したビジネスでもある。

どんなビジネスもそうだが、ひとつの産業が誕生してからしばらくは、有象無象(うぞうむぞう)が参入してきて混戦状態となるものだ。しばらくすると、正常化のために企業同士でコミュニケーションがとられるようになり、悪質な業者が淘汰されていく。つまり一つの産業として確立し、認知されていくのだが、PMCもまた同じプロセスをきわめて短期間のうちにたどったことを本書で確認することができる。

発展途上国の安い労働力を利用することで成立しているPMC。先進国と発展途上国のあいだに存在する経済格差、人件費格差が、PMCビジネスを成立させていることも指摘されている。つまり、きわめて資本主義原則に則ったビジネスであるわけだ。

武装しながらも軍人ではないPMC社員はシビリアンである。この法的にはきわめてあいまいな存在が、ときに大きな軋轢(あつれき)を生み出すのであるが、著者によればいまやPMCの存在抜きに国際紛争解決は不可能であることが納得させられる。

自衛隊による国際平和維持活動の中心は施設部隊によるインフラ建設が中心だが、このような業務もまた民間の建設業者のほうが効率的といえば効率的だ。そう考えると、日本の国際支援のカタチも将来的には変化していくと考えてもいいのかもしれない。

マスコミ報道されながらも実態のよくわからないPMCについて、読者の蒙を啓いてくれる良質なレポートである。


<初出情報>

■bk1書評「いまや国際紛争解決になくてはならないPMC(民間軍事会社)は「傭兵」ビジネスではない」投稿掲載(2011年4月22日)
■amazon書評「いまや国際紛争解決になくてはならないPMC(民間軍事会社)は「傭兵」ビジネスではない」投稿掲載(2011年4月22日)





目 次

プロローグ
第1章 襲撃された日本人
第2章 戦場の仕事人たち
第3章 イラク戦争を支えたシステム
第4章 働く側の本音
第5章 暗躍する企業戦士たち
第6章 テロと戦う影の同盟者
第7章 対テロ・セキュリティ訓練
第8章 ブラックウォーター・スキャンダル
エピローグ
あとがき
主な民間軍事会社(PMC)一覧
参考資料および取材・インタビュー先

著者プロフィール

菅原 出(すがわら・いずる)

1969年、東京生まれ。中央大学卒業後、1993年から98年までオランダに留学し、アムステルダム大学に学ぶ。在蘭日系企業勤務、東京財団リサーチ・フェローなどを経て、現在は国際政治アナリスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

<近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える>

P.S. 長すぎる文章となってしまったので、もともとのブログ投稿文章を三分割することとし、本編もタイトルを変更した。それぞれ以下のとおりである。

書評 『民間軍事会社の内幕』(菅原 出、 ちくま文庫、2010)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ① ・・・本事

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③


<関連記事>

「民間軍事会社のリアルな実態を描く『ルート・アイリッシュ』」(菅原 出、日経ビジネスオンライン 2012年4月9日)

『ルート・アイリッシュ』公式サイト

Route Irish Trailer (映画 『ルート・アイリッシュ』トレーラー)

ヤバい仕事は俺たちに任せろ!-英軍の3倍を誇る民間軍事会社の実態 (GQ JAPAN、2014年12月8日)
・・「デンマークの警備会社から出発した民間軍事会社G4Sは、刑務所の運営代行から空港の警備、グルカ族の武装警備隊の編成に至るまで、世界中にサービスを拡大している。その勢いは、”日の沈まない帝国”にたとえることすらできそうだ・・(中略)・・民間軍事会社とは要するに、施設警備や現金輸送といった警備会社の延長線上の業務を武装が必要な危険地帯で行いつつも、傭兵のような本格的な戦闘員とは一線を画す後方要員の集合体と呼んでよさそうだ。」

(2015年6月10日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争・・2010年度アカデミー賞作品

書評 『封建制の文明史観-近代化をもたらした歴史の遺産-』(今谷明、PHP新書、2008)-「封建制」があったからこそ日本は近代化した!

本の紹介 『阿呆物語 上中下』(グリンメルスハウゼン、望月市恵訳、岩波文庫、1953)
・・三十年戦争のなか、荒廃したドイツをたくましく生きぬく主人公





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芥子坊主(けし・ぼうず)-ヒナゲシは合法です(笑)



もう芥子坊主ができてます。

けし・ぼうず。ケシの花が散って実となったもの。

ケシはケシですが、でもこの実からアヘン(阿片)はとれません。ヒナゲシですから合法です(笑)。うちの周辺に自生しています。

最初は誰かが植えていたものかもしれません。
しかし、なんせ繁殖力が強い。生命力が強い。

人の手がほとんど加わっていない天然のガーデニング状態。下の写真はつぼみです。





ヒナゲシも、タンポポも、カラスノエンドウも、みな勝手にやってきては、それぞれの場所を占有しています。

花を咲かせるときだけは人の目にもふれますが、花が散って実ができたあとは、もう誰の関心も引かなくなります。だから、こんなにヒナゲシが拡散していたとは、この時期にならないと気がつくことすらないわけですね。

まあ、そんなものかな。べつに植物は、人に見てみらいたくて花を咲かせるわけではないのだし・・・






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片隅で可憐に咲くちいさなすみれ



すみれの花が目に入りました。

山路来て 何やらゆかし すみれ草 (芭蕉)

これは山路ではなく、街中の道路の片隅。
砂利まじりのアスファルトとコンクリートの壁のはざまのわずかな空間。

片隅に可憐に咲く、ちいさな「すみれ」。
けなげに、しかし力強く生きてます。

この時期に目に入るのは、真っ黄色に咲くたんぽぽと、オレンジ色のひなげし。
しかし、足許をみたらほら、すみれの花が!

まさに「一隅を照らす」という表現にぴったりのすみれ。
すみれの花ことば、「謙虚・誠実・慎み深さ」。

そんな「すみれ」に惹かれます。



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葛の花 踏みしだかれて 色あたらし。 この山道をゆきし人あり (釋迢空)

キンモクセイの匂いが心地よい秋の一日

冬のたんぽぽ 冬のライオン

春を告げるスイセンの花とナルキッソスの神話

(2014年8月25日 項目新設)



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八重桜は華やかで美しい




関東では八重桜の季節になっています。

ほぼ一斉に開花して、パッと散っていくソメイヨシノ(染井吉野)も悪くはないですが、八重桜のほうが華やかでいいような気もします。華やかというかゴージャスというか。

八重桜もいろんなバリエーションがあります。

冒頭に掲げたのは、やや白みがかったピンク。八重桜のつぼみは、バラのつぼみによく似てますよね。サクラもまたバラ科です。梅・桃・桜、みんなバラ科です。なんとなく「バラの包みの高島屋」の包装紙に似ているような気も。

桜は全部開花していないほうがいい。これは個人的な感想ですが。

もちろん、すべて開花している八重桜もステキです。淡いピンクの八重桜が爽やかでいいですね。





いにしへの ならのみやこの やえざくらけふ ここのへに にほひぬるかな

百人一首にも再録された伊勢大輔(いせのたいふ)の歌。平安時代中期の女流歌人です。九重(ここのえ)とは宮中の意味。

ソメイヨシノ(染井吉野)だけが桜ではないのです。生物多様性の議論をするわけではありませんが、桜の楽しみ方にもバリエーションがあって当然。ひとそれぞれに楽しみたいものです。


<ブログ内関連記事>




(2014年2月24日 情報追加)




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2012年4月26日木曜日

タンポポの花をよく見たことがありますか?-春の自然観察




タンポポの花をよく見たことがありますか?

この時期になると、あたり一面が真っ黄色になるほど咲くタンポポ。どうしても、たんぽぽは黄色い花と綿帽子しか目に入りませんが、たまには花の一輪そのものに注目してみましょう。

タンポポの花は、ギザギザがあるので「ライオンの歯」であるとフランス人は形容して dent de lion(ダン・デ・リオン) と名づけました。これが英語に入って dandelion(ダンデライオン)に。

タンポポの花はギザギザがあるので花びらがたくさんあるように見えますが、ほんとうは一輪の花です。wikipedia によれば、「舌状花と呼ばれる小さな花が円盤状に集まり、頭花を形成している。そのため、頭花が一つの花であるかのように見える(これは、キク科植物共通の特徴である)」、とあります。

これは、タンポポの花を拡大して撮影したものです。

よおく見て下さい。ゼンマイのような、あるいはハサミの取っ手のような形をしたものが見えますね。めしべです。このまわりにおしべがあって、受精すると、これが綿毛のついたタネとなるわけです。

タンポポの綿帽子は手にとって、息を吹きかけて散らしてみたことはあるでしょう。

たまには、咲いているタンポポの花に目を近づけて観察してみましょう。きっと、いろんな不思議なことが目に入ってくるはずですよ。いまのこの時期しかできないことですから。



<ブログ内関連記事>

冬のたんぽぽ 冬のライオン






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2012年4月25日水曜日

書評 『官報複合体-権力と一体化する新聞の大罪-』(牧野 洋、講談社、2012)-「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのものだ!

「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのもの、つまり官僚情報の垂れ流しだ

日本経済新聞で20年にわたって経済記事を書いてきた元・編集委員が新聞社を「脱藩」してはじめて書くことのできたジャーナリズム論だ。

ウェブマガジン『現代ビジネス』(講談社)に連載された記事を再構成して加筆したものである。

すでに一部はウェブでも読んでいたが、あらためて通読すると日本の新聞メディアの構造的問題が浮かび上がってくるのを実感した。

いまから十数年前になるが、ある日系の石油会社のエグゼクティブから、「(とくに月曜日の)日本経済新聞の一面は政府の垂れ流し記事だから、まったく読む必要はない」という話を聴いたことがある。つまり日経の一面は「官報」となんら変わりがないということだ。

それ以来、わたしは新聞とは距離を置いて接するようにしてきたが、本書のタイトルを見て真っ先に思ったのはそのエピソードであった。

著者は、政「官」と「報」道(=マスコミ)報道の複合体のことをさして「官報複合体」というのだが、わたしは、読んで字の如く「官報」、すなわち官僚情報の垂れ流しと受け取っても問題ないと思う。日本の新聞は官報そのものなのだ。

ピューリッツァー以来の本来あるべきジャーナリズムの機能とは、権力を監視するウォッチドッグ(=番犬)にあるはずだ。だが、日本の新聞には市民の目線から権力をチェックする権力監視型報道は皆無である。

速報性においてはインターネットにはるかに劣るのにかかわらず、いまだに通信社機能が全面にでている日本の新聞社の姿勢。米国を過度に持ち上げる必要はないが、それにしても日本の新聞はひどすぎる。

これは、「3-11」の原発事故報道によって、多くの国民は痛感したことだろう。日本の新聞においては、ジャーナリズムにおいてもっとも重要なファクト・ファインディングが行われていないのだ。日本ではむしろ、日本の新聞社系列ではないため記者クラブから締め出されている雑誌記事のほうがより「調査報道」に近い

米国を代表する経済紙WSJ(=ウォール・ストリート・ジャーナル)と日本経済新聞の違いもまた、本書を読んでいてつよく印象づけられた。現在のWSJはメディア王マードックの傘下に入って変質してしまったようだが、記者クラブのない米国の新聞ジャーナリズムの基本線をつくったのがWSJであったというのは、ジャーナリズムの世界には詳しくないわたしには意外な話だった。

問題は、この期に及んでも、テレビと新聞以外の情報源をもたない国民が多数を占めることだ。帯の文句ではないが、「今すぐ新聞をやめなければあなたの財産と家族が危ない!」というのは、けっして誇張でもなんでもない。わたし自身、新聞購読をやめてから3年になるが、仕事でも生活でもまったく困っていない。

果たして日本の新聞社に自浄作用はあるのだろうか。それとも、根こそぎ崩壊してしまうのだろうか・・・。

<初出情報>

■bk1書評「「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのもの、つまり官僚情報の垂れ流しだ」投稿掲載(2011年4月4日)
■amazon書評「「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのもの、つまり官僚情報の垂れ流しだ」投稿掲載(2011年4月4日)






<書評への付記>

わたしはすでに新聞を読まなくなってだいぶたつ。だが、雑誌は読んでいる。新聞よりも、はるかに深い分析が行われているからだ。しかも、事実究明(ファクト・ファインディング)にかんしては、新聞よりもはるかに執拗に行っている。

また、シンクタンクやコンサルティング会社のレポートのほうが、バイアスが存在するとはいえ、徹底的な事実重視を基本姿勢としている点において「調査報道」に近いのではないかという気もする。

しかし、シンクタンクやコンサルティング会社といえども、株主や取引先の意向とはまったく独立に意見表明はできないものだ。

もちろん、完全に独立した言論というものは原理的にありえない。自分もふくめた、かならず何かの立場に基づいた見解であり、発言であるからだ。

しかし、ある特定の勢力に気兼ねして本当のことについて書かないばかりか、あきらかに偏向した見解を、あたかもそれがただしい見解であるかのように語る傾向のある日本の新聞マスコミに対する批判はますます根強いものとなる傾向にある。

これはテレビも同罪である。日本の地上波のテレビ局が、NHKを除けば、すべて新聞社系列であるから、これは当然といえば当然だ。

ただし、新聞社であれ、テレビ局であれ、個々の記者たちに問題意識がないというわけではない。「個」としての記者には良心もあれば、気概もあるはずだ。

だが、日本人は見えない「世間」という縛りのなかで生きているので、ついつい組織の意向に同調していまいがちだ。著者の牧野氏もまた、日本経済新聞社のなかにいるときは、言いたいことがいえない、書いた記事がそのまま掲載されないという悔しさを感じ続けていたようだ。

「世間」が支配する日本においては、新聞記者は組織の外に出ない限り、存分に活動することはできないのである。一人でも多くの新聞社社員が「脱藩」して、本来の意味のジャーナリストになってほしいものだ。

新聞社も読者離れがすすめば、ビジネスである以上、限られたパイ(=購読者=市場)をめぐる競争のなかで淘汰される会社もでてくるだろう。そのときこそ、ほんとうの競争が始まるのである。

ほんとうの競争がはじまって、新聞社が本来の役割を取り戻してほしい。会社なんだから、差別化を打ち出せばいいのだ。記事の中身で勝負すべきなのだ。


<関連情報>

牧野洋の「ジャーナリズムは死んだか」
・・本書のもとになったオンライン・マガジン連載の原稿


<ブログ内関連記事>

『報道災害【原発編】-事実を伝えないメディアの大罪-』 (上杉 隆/ 烏賀陽弘道、幻冬舎新書、2011)-「メディア幻想」は一日も早く捨てることだ!

『大本営参謀の情報戦記-情報なき国家の悲劇-』(堀 栄三、文藝春秋社、1989 文春文庫版 1996)で原爆投下「情報」について確認してみる

書評 『ウィキリークスの衝撃-世界を揺るがす機密漏洩の正体-』(菅原 出、日経BP社、2011)

書評 『「空気」と「世間」』(鴻上尚史、講談社現代新書、2009)






(2012年7月3日発売の拙著です 電子書籍版も発売中!)







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2012年4月23日月曜日

World Book Night (ワールド・ブック・ナイト)という本が好きな人たちのためのイベントが今夜(2012年2月23日)英国で行われます



新月の今夜(4月23日)、 World Book Night(ワールド・ブック・ナイト) という、読書好きのためのイベントが英国で開催されます。

合計100万冊(!)の本を、ボランティア2万人(!)が、ロンドンのトラファルガー広場などで無料で配るというイベントです。

手渡しで本を渡しながら、'This one's amazing, you have to read it.' (この本はすっごくいいから、ぜひ読んでね!)と声をかけるのです。 いいですね!

配布されるのは全部で25タイトル、各4万冊で合計100万冊。タイトルを選ぶのは、出版者や書店員、ジャーナリストや図書館員などからなるイベントの委員会です。

英国の独立系出版社 Canongate Books の Jamie Byng 氏の発案によるもので、出版社協会(Publishers Association)、書籍販売協会(Booksellers Association)、英国読書協会(Reading Agency with Libraries)や BBC などが協力しています。

日本とは時差があるので、日本より8時間遅れですが、まだ新月。くわしくは facebookページをご覧になってください。 http://www.facebook.com/worldbooknight (英語)

ロンドンにはいないのでこのイベントを目撃することができないのは残念ですが、読書離れ(?)のつづく日本、こういう思い切ったイベントで巻き込むことは大いに意味あることかもしれませんね。

このWorld Book Night(ワールド・ブック・ナイト) にあわせて、書店でもディスカウントセールを行ったりして、本好きが一人でも増えるように盛り上げているようです。わたしは、この情報は、英国の専門書店 Blackwell's のメールマガジンで知りました。

すでに同じ英語圏のアイルランドやアメリカにも拡がっているようです。  
http://www.facebook.com/worldbooknightusa (英語)

ドイツでも開催。すでに英語圏の外に飛び出しています。
http://welttag-des-buches.de/de/470211#cover-22 (ドイツ語)

英語圏からはじまったこのイベント、世界中に広まるといいなあ、と思います。



<関連サイト>

World Book Night 公式ウェブサイト

Blackwell's (英国の専門書店 公式サイト)




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2012年4月22日日曜日

書評 『私が「白熱教室」で学んだこと-ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで-』(石角友愛、阪急コミュニケーションズ、2012)-「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそ重要だ!

「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそグローバルに生きぬくうえで重要だ!

16歳のとき、みずからの意志でみずからを英語漬けの環境に投げ込んだ著者が振り返って語る、一人の人間として生きていく上でほんとうに大事な教育とは何かについての本である。

ほんとうに重要な教育とは、日本では主流のノウハウやスキルといった小手先の「ハウツー」ではない。「自分で考えて自分で行動する」というマインドセットのことなのだ。

そしてそれこそが、日本の外で生きていくための「生きるチカラ」の基礎となるのである。これこそが著者がいいたいことであり、わたしも全面的にその趣旨に賛成だ。

おそらく多くの人が関心あるだろう、ハーバード・ビジネススクールで何を学んだかについては本書にはあまり書かれていない。むしろボーディングスクール(全寮制高校)とリベラルアーツ・カレッジ(全寮制少人数制大学)で学んだことがページの多くを占めているのは、専門教育そのものよりも、人間としての基礎をつくりあげる教育のほうが大きな意味をもっていると、著者自身が振り返ってみて思っているためだろう。誰にとっても、20歳までに経験することのほうがはるかに重要なのだ。

あくまでも出発点は個人。だが個人の存在を前提とするからこそ求められる協調性。ボーディングスクールでは、ほとんど修道院のような厳しさが求められることに多くの日本人は驚くことだろう。しかも、日本のように受験が最終目的なのではなく、自分がやりたいこと、やるべきことを見つけるための幅広く勉強することが求められる環境。なるほど、できるアメリカ人が専門分野だけではなく、幅広くモノを知っている理由はそこにあるのだなと納得させられるのだ。リベラルアーツとはそういうことである。

わたし自身は、アメリカでの教育体験はビジネススクールだけだが、著者がいっていることにはほぼ全面的に賛成だ。「白熱教室」はべつにハーバード大学のサンデル教授の専売特許でもなんでもない。アメリカの授業はみな、あんな感じなのだ。一方通行のブロードキャスティング型のレクチャーではなく、授業は発言と対話を重視したワークショップ型。教師はあくまでもファシリテーターというのがアメリカの授業スタイルである。

最終章に書かれていることは、わたしからみれば著者はかなりアメリカナイズされているなとは感じるが、あくまでも一人の日本人女性の手記として受け止めておくべきだろう。わたしもビジネススクールを卒業してからしばらくは、かなりアメリカかぶれだったから。

著者が10年後、20年後、どのような感想をもっているのかはわからないが、すくなくとも現時点ではこういう感想をもっているということを知るのは、とくに著者とは近い世代の10歳代、20歳代の若者には意味のあることだ。もちろん、若者世代以外も本書を読んで、アメリカの教育スタイルがどういうものか知って、みずからの常識としてほしい。

<初出情報>

■bk1書評「「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそグローバルに生きぬくうえで重要だ!」投稿掲載(2011年4月4日)
■amazon書評「「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそグローバルに生きぬくうえで重要だ!」投稿掲載(2011年4月4日)





目 次

はじめに
Chapter 1. そもそも勉強するってどういうこと?-答えを教えてくれないアメリカの教師
Chapter 2. 考える、考える、答えは出なくとも考え尽くす-アメリカの学校で徹底される「思考力」の訓練
Chapter 3. 認められるのは議論に勝ってから-知識でなく言葉で勝つ「議論力」を身につける
Chapter 4. マネジメント能力を10代から問う教育-勉強と大学受験を通して「自分を管理する術」を学ぶ
Chapter 5.  成果主義はすでに始まっている-遊ぶ暇があれば、学生時代から人生経験を増やそう
Chapter 6.  アメリカでは就職後も「勉強」が続く-全米一「働きたい会社」グーグルで働くということ
Chapter 7.  日本の学校で教えてくれない、本当に大切なこと-なぜ世界中の若者がアメリカに勉強しに来るのか
おわりに

著者プロフィール

石角友愛(いしずみ・ともえ)
東京のお茶の水女子大学附属高校を中退。16歳で単身渡米する。少人数ディカッション式の名門ボーディングスクール(全寮制私立高校)に進学し、リベラルアーツ教育で有名な、オバマ大統領の母校でもあるオキシデンタル・カレッジを卒業(心理学士)。在学中に思いついた起業アイデアを実行すべく、帰国して起業家を支援するインキュベーションビジネスを立ち上げ、3年間運営する。2008年、再びアメリカに渡り、ハーバード・ビジネススクールへ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

本書で意図せずして主張しているのは、ビジネススクールなどのプロフェッショナル・スクール(専門大学院)ではなく、それ以前の大学学部でのリベラルアーツ教育や、さらにさかのぼってのハイスクールでの教育のほうが、人間形成においてはきわめて重要だということだ。

つまり、20歳前後までの教育が重要なのだということ。とくにボーディングスクールという全寮制の私立学校は、「全人教育」という観点からいえば、本人にとってはさておき、保護者からみれば理想的な教育環境といっていいだろう。

職業に密接に結びついた専門教育はその基礎のうえに行われるべきだというのが、現在の米国流の高等教育の考え方であり、その影響を全面的に受けた著者自身の考え方である。基本的にわたしもその考えには同感である。

タイトルは『私が「白熱教室」で学んだこと』とあるが、これは出版社サイドでつけたものだろう。日本では、NHKでサンデル教授の『ハーバード白熱教室』が放送されて以来、大きなブームとなってその熱が冷めることがないが、これは日本人のあいだに、ほんとうの教育に対する熱望があることのあらわれではないかと、わたしは考えている。

なぜなら、本書でも活写されているように、アメリカでは対話型の授業は当たり前だからだ。一方通行のテレビ放送のようなブロードキャスティング型ではなく、ファシリテーターと受講者のインタラクションが基本のファシリテーション型授業なのである。

日本ではまだまだファシリテーターとしての技能を持ち合わせた教師は少ない。初等中等教育では熱心に取り組んでおられる先生方も多いが、こと大学以上の高等教育では激変する。

ゼミナール制度をもっている社会科学系や人文科学系、あるいは研究室のある自然科学系や工学系の学部では、少人数の対話型授業は可能だが、残念ながら中規模以上の人数のクラスでは可能となっていない。

研究が中心で、教育は二の次という位置づけの教授が少なくないのもまた、日本では残念ながら現実である。だからこそ、一般人のあいだでサンデル教授の「白熱教室」礼賛の声が強いのだ。ないものねだりに近いのかもしれないが・・。

ところで、米国のボーディングスクールを実体験した学生による手記は、10年前にも出版されて話題になっている。『レイコ@チョート校-アメリカ東部名門プレップスクールの16歳-』(岡崎玲子、集英社新書、2001)という本だ。

著者の岡崎玲子氏もいまは27歳だから、本書の著者とはほぼ同年齢ということになる。出版当時、わたしは書評を書いているので、ここに再録しておきたいと思う。


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『レイコ@チョート校-アメリカ東部名門プレップスクールの16歳-』(岡崎玲子、集英社新書、2001)

こんな子がいれば日本の将来は決して暗くないぞ
サトケン
2002/01/28 1:00:00
評価 ( ★マーク )
★★★★★

実に面白い。一気に読んでしまった。

この本の著者である岡崎玲子さん(1985年生まれの16歳)みたいに、知的好奇心が旺盛で、柔軟な人にとっては、このチョート校のようなアメリカ東部の名門プレップスクール(寄宿制私立高校)はうってつけなんだろうな。日本の大学よりはるかに知的な内容の授業が行われているのだ。はっきりいってうらやましい。もし僕も生まれ変わって(?)もう一回高校生になれたら、絶対アメリカのプレップスクールにいきたいな、そんな気にもさせられた。

この本を読むまでは、プレップスクールというと、ロビン・ウィリアムズ主演のアメリカ青春映画『今を生きる』のイメージしかもっていなかったが、著者による、プレップスクールの1年といったかんじの、ほとんどライブ中継のような紹介で、はじめて明確に内容を知ることができるようになった。

それにしても驚くのは、玲子さんの日本語能力の高さである。英語ができるから難関のプレップスクールに入れたのは当然だが、16歳でこれだけロジカルで臨場感豊かな日本語を書ける(もちろん編集者の指導はあるだろうが)ということに正直おどろいている。こんな子がいれば日本の将来は決して暗くないぞ、そんな気にもさせられる。きっと国際的な大きな活躍をしてくれることだろう。

同世代の人や教育に関心のある親だけでなく、あらゆる年齢層の人におすすめの本だ。





<関連サイト>

私が「白熱教室」で学んだこと(著者自身による facebookページ)

『私が「白熱教室」で学んだこと』(出版社による書籍案内サイト)
・・詳細な目次が掲載されている


<ブログ内関連記事>

「ハーバード白熱教室」(NHK ETV)・・・自分のアタマでものを考えさせるための授業とは

コロンビア大学ビジネススクールの心理学者シーナ・アイエンガー教授の「白熱教室」(NHK・Eテレ)が始まりました

ダイアローグ(=対話)を重視した「ソクラテス・メソッド」の本質は、一対一の対話経験を集団のなかで学びを共有するファシリテーションにある

書評 『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方-』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)

ハーバード・ディヴィニティ・スクールって?-Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992

映画 『ソーシャル・ネットワーク』 を日本公開初日(2011年1月15日)の初回に見てきた

書評 『エリートの条件-世界の学校・教育最新事情-』(河添恵子、学研新書、2009)・・ほんとうのエリート教育は詰め込みではない!

書評 『異端の系譜-慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス-』(中西 茂、中公新書ラクレ、2010)



『モチベーション3.0』(ダニエル・ピンク、大前研一訳、講談社、2010) は、「やる気=ドライブ」に着目した、「内発的動機付け」に基づく、21世紀の先進国型モチベーションのあり方を探求する本

書評 『伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力』(橋本 武、日本実業出版社、2012)-「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」!






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2012年4月17日火曜日

麹町ワールドスタジオ 「原麻里子のグローバルビレッジ」(Ustream 生放送) に出演します(2012年4月18日 21時から放送)



明日の夜、Ustream(ユーストリーム) の生番組に出演します。

2012年4月18日(水)、夜9時(=21時)から、麹町ワールドスタジオ 「原麻里子のグローバルビレッジ」に出演します。

シリーズ「オリンピックイヤーにイギリス通になろう!」の第2回 映画 『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』。主演のメリル・ストリープがアカデミー主演女優賞を受賞した映画ですね。

ご一緒するのは、番組の主催者で「英国通」の原麻里子さん(元テレ朝アナウンサー、BBC日本語放送担当)のほか、おなじく社会言語学が専門で「英国通」の Tish Aoki さんです。さまざまな側面から、映画 『マーガレット・サッチャー』について語りあいます

また、いまが「旬」のミャンマーについて、わたしが6分程度まとめて話します。目先の話だけでは見えてこないミャンマーと英国の関係について知りたい人はぜひ。ニュース報道では見えてこない、英国とミャンマーの関係に触れたいと考えています。

番組終了は、21時45分の予定です。

番組の URL は http://www.ustream.tv/channel/kwstudio です。夜9時になったら、放送が開始されます。もちろん視聴は無料(フリー)です。

なお、録画はネットにアップされる予定ですので、当日の生放送をご覧になれない方は、ぜひそちらで視聴していただけると幸いです。録画の情報については、またアップいたします。



<録画はこちらから>

当日の生放送は、http://www.ustream.tv/recorded/21938422 から録画を視聴できます(2012年4月19日)。



<関連サイト>

番組のホスト役・原 麻里子さんは、テレビ朝日でアナウンサー経験をもつ社会人類学者で、出向によって勤務体験もある BBC(英国放送協会)を研究するかたわら、ユーストリームによるインターネット放送の実践も行っている英国通です。著書に、『公共放送 BBCの研究』(原 麻里子/柴山哲也、 ミネルヴァ書房、2011)があります。

原麻里子氏プロフィール(局アナnet会員プロフィール)
http://kyokuana.net/profile/1221875722.html






<ブログ内関連記事>

映画 『マーガレット・サッチャー-鉄の女の涙-』(The Iron Lady Never Compromise)を見てきた


映画 『英国王のスピーチ』(The King's Speech) を見て思う、人の上に立つ人の責任と重圧、そしてありのままの現実を受け入れる勇気

書評 『大英帝国衰亡史』(中西輝政、PHP文庫、2004 初版単行本 1997)

書評 『大英帝国の異端児たち(日経プレミアシリーズ)』(越智道雄、日本経済新聞出版社、2009)-文化多元主義の多民族国家・英国のダイナミズムのカギは何か?
・・同書の第二章でサッチャー夫妻が取り上げられている

書評  『フリー-<無料>からお金を生み出す新戦略-』(クリス・アンダーソン、小林弘人=監修・解説、高橋則明訳、日本放送出版協会、2009)






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2012年4月16日月曜日

書評 『桜が創った「日本」-ソメイヨシノ起源への旅-』(佐藤俊樹、岩波新書、2005)-この一冊で「ものの見方」が変わる本

日本人が日本語で「桜について語る」ということの意味を社会学者が解き明かした本

日本人が日本語で「桜について語る」ということの意味を社会学者が解き明かした本。ものの見方が変わる刺激的な内容の本である。

桜と日本。この切っても切れない関係については、これまでにも無数に語られてきた。

日本人なら桜の季節に何も思わないことはない、というほど密接な関係にあるからだ。なんだか日本人のDNAに刻み込まれているのではないかと思うほど、無意識のレベルまで入り込んでいる桜

春になると日本人なら誰もが桜について思い、桜について語る。そしてその語りはひとさまざまでありながら、定型化した語りのパターンをもつ。

だが現在、日本の桜の8割を占めるソメイヨシノは、明治になってからエドヒガンとオオシマの交配によって発生した新品種である。接ぎ木によって増えていった種であり、現代風の表現なら、クローンとして増殖していったという言い方も可能だ。

著者は、ソメイヨシノの起源と急速な普及について、さまざまな文献をあたって探っているが、「日本近代そのものであったソメイヨシノ」に投影されているものは、じつはソメイヨシノ出現以前の日本人の美についての観念(=イデア)であるという。この著者の語りには納得させられるものがある。現実が理念を後追いして実現したのがソメイヨシノであり、ソメイヨシノについての語りが、ふたたび過去に投影されているのが「桜についての語り」なのだ。だから、単純に「創られた伝統」だと言ってしまうのも乱暴なのである。

「ソメイヨシノ以前の主流は山桜だった」という語りは、わたし自身もこれまで何度となくしてきたものだが、「山桜」についての語りじたいが、「始原」をもとめる心性の働きにすぎないことを本書で知ることになる。ああ、なんとやっかいなことよ。

やや小難しい議論が繰り返し、繰り返し延々とつづくなあと思う読者もすくなくないだろうが、第一章だけでも読めば、間違いなくものの見方が変わるはずである。有名な西行法師の和歌も、王朝時代以来の花を歌った和歌も、解釈を変える必要がでてくるだろう。

しかし、翌年に桜の花が咲くのを見たときには、また無意識のうちに定型的な語りに身をゆだねているのかもしれない。それほどの呪縛力のあるのがソメイヨシノである。

本書には言及がないが、日本で製作されたアニメ作品にでてくるのも明らかにソメイヨシノだ。もしかするとすでに日本を越えてそのイメージは拡散しているのかもしれない。ワシントンの桜だけでなく、世界中に偏在するソメイヨシノのイメージ。

ここまで繁殖に成功したソメイヨシノサクラは、果たして今後どのようになっていくのだろうか? 「大学の秋入学」の議論が話題になるこの頃、昭和時代以降、出会いと別れの季節を象徴してきた桜の意味合いも変化していくことになるのかもしれない。

さまざまな意味でじつに知的に刺激的な内容の本である。ぜひ一読をすすめたい。


<初出情報>

■bk1書評「日本人が日本語で「桜について語る」ということの意味を社会学者が解き明かした本」投稿掲載(2011年4月16日)
■amazon書評「桜について語る」ということの意味を社会学者が解き明かした本」投稿掲載(2011年4月16日)




著者プロフィール

佐藤俊樹(さとう・としき)
1963年広島生まれ。1989年に東京大学社会学研究科博士課程退学。現在は、東京大学総合文化研究科助教授。専門は、比較社会学、日本社会論。著書に、『近代・組織・資本主義』(ミネルヴァ書房)、『ノイマンの夢・近代の欲望』(講談社選書メチエ)、『不平等社会日本』(中公新書)、『00年代の格差ゲーム』(中央公論新社)ほかがある(岩波書店サイトより)。

目 次

まえがき
Ⅰ. ソメイヨシノ革命
-1.  「桜の春」今昔
-2. 想像の桜/現実のサクラ
Ⅱ.  起源への旅
-1. 九段と染井
-2. ソメイヨシノの森へ
-3. 桜の帝国
-4. 逆転する時間
Ⅲ.  創られる桜・創られる「日本」
-1.  拡散する記号
-2. 自然と人工の環
あとがき
桜のがいどぶっく・がいど



(散りかけのソメイヨシノは山桜のようだ。これまた善きかな、善きかな)


<ブログ内関連記事>

「散る桜 残る桜も 散る桜」 (良寛)
・・2011年4月に書いた文章。「山桜」という思い込みが見られる

「特攻」について書いているうちに、話はフランスの otaku へと流れゆく・・・
・・「特攻」と「散る桜」

八重桜は華やかで美しい

「桜餅のような八重桜」-この表現にピンとくるあなたは関西人!

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・・同じく「創られた伝統」について

バレンタイン・デーに本の贈り物 『大正十五年のバレンタイン-日本でチョコレートをつくった V.F.モロゾフ物語-』(川又一英、PHP、1984)
・・同じく「創られた伝統」について

(2014年2月24日 情報追加)




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2012年4月13日金曜日

人生の選択肢を考えるために、マックス・ウェーバーの『職業としての学問』と『職業としての政治』は、できれば社会人になる前に読んでおきたい名著


社会人としての将来の進路を決めるにあたって、かならず読んでおきたいという本がある。

そのために読んでおきたいのが、マックス・ウェーバーの『職業としての政治』と『職業としての学問』という二つの講演録である。

人生の選択肢は、もちろん「政治家」と「学者」だけではないが、これは「実践」コースか「研究」コースかと読み替えてもいいだろう。

いまから30年前の高校三年のときに読んだ。受験前に読んだ記憶がある。

その当時は、とくにマックス・ウェーバーのなんたるかを知っていたわけではない。推薦書として紹介されていたのいをどこかで読んで手に取ったのだと思う。ともに岩波文庫で150円くらいだから安くて薄かったから。

わたし自身、この二冊を読んで強く思ったのは、自分は学者には向いていない、むしろ実践的な職業が向いている、ということだった。

もともと学者になってみたいなどという、たんなる憧れに過ぎないが夢みたいなものは持っていた。でも、読後感としては『政治』のほうが圧倒的にインパクトがあった。

私が高校三年のときに読んだのは、岩波文庫版だった。岩波文庫の訳は日本語としてはなんか古風なかんじで、とくに『職業としての学問』のほうは改訳されたばかりなのに、えらく古くさい印象を受けた。だから、訳文の印象もあったのかもしれない。

カントなどドイツ哲学の新訳を精力的に出している、哲学者の中山元氏による合冊版の新訳が出版されている。こちらの訳文はひじょうに読みやすい。

『職業としての政治 職業としての学問(日経BPクラシックス)』(マックス・ウェーバー、中山 元訳、日経BP社、2009)である。

『職業としての政治』は、政治家の仕事について書かれているが、ビジネスマンは実践性において、学者よりは政治家に近い。ともに結果責任というアカウンタビリティ(accountability)が指標となるからだ。

『政治』は、結果責任が問われる「指導者」としての起業家や経営者になりたいと思う学生は必読だろう。

『政治』も『学問』も、ともに講演記録であるが、時代背景は第一次大戦に敗北し、価値観が大混乱に陥っていたドイツである。

この価値観大混乱状況のなかで、大戦から復員したオーストリア出身のドイツ軍伍長がいたのだった。その名は、アドルフ・ヒトラー。映画 『ヒトラーの画帳』(原題:Max 2006年)に描かれた、ミュンヒェンにおける若き日のヒトラーである。



「日々のザッヘ(Sache:仕事)に還れ」、と説いたウェーバーの声は、残念ながらその時代の若者たちの多くからは無視されたのであった。ヒトラーが台頭するドイツを見ることなく亡くなったウェーバーは幸せだったのかどうか。ウェーバーは本人の資質とは異なり、政治家志望の熱は最後までなくなることはなかったようだ。

価値観が混乱する2010年代の日本。さて、この古典的名講演がいまの若い日本人にはどのように受け取られるのだろうか。じつに興味深い。

社会科学を学ぶ者にとって必読書であるウェーバー本書は、ウェーバ入門としての最適の本である。





著者プロフィール

マックス・ウェーバー(Max Weber)
1864年~1920年。ドイツを代表する社会科学者。論文『プロデスタンティズムの倫理と資本主義の精神』では、ヨーロッパにおける資本主義発展の原動力は世俗内禁欲を生活倫理とするプロテスタンティズムが担ったと分析。下部構造が上部構造を規定するという唯物史観に真っ向から異を唱えた。宗教社会学、法社会学、経済史など広範な分野で膨大な業績を残した。政治学の丸山真男、経済史の大塚久雄など日本を代表する学者に大きな影響を与えた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

中山元(なかやま・げん)
思想家・翻訳家。1949年生まれ。東京大学教養学部中退。インターネットの哲学サイト「ポリロゴス」を主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

Max - Trailer - John Cusack (映画 『ヒトラーの画帳』トレーラー)
・・建築家志望でウィーンの画学生だったアドルフ・ヒトラーは、第一次大戦で負傷して復員したミュンヘンでデマゴーグとしての天性を発見されてゆく


<ブログ内関連記事>

■2012年度新学期特集

① 総論
福澤諭吉の『学問のすゝめ』は、いまから140年前に出版された「自己啓発書」の大ベストセラーだ!

②古文(国語)
書評 『平安朝の生活と文学』(池田亀鑑、ちくま学芸文庫、2012)-「王朝文化」を知るために

③数学とコンピューター
書評 『コンピュータが仕事を奪う』(新井紀子、日本経済新聞出版社、2010)-現代社会になぜ数学が不可欠かを説明してくれる本

④地学と理科

「理科のリテラシー」はサバイバルツール-まずは高校の「地学」からはじめよう!

⑤社会科学

本編






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2012年4月9日月曜日

「理科のリテラシー」はサバイバルツール-まずは高校の「地学」からはじめよう!


「理系離れが進行している」という危機意識に充ち満ちた発言が聞かれるようになってから、どれくらいの年月がたっているだろうか?

「3-11」後にく驚いたのは、日本国民の「理科のリテラシー」が想像以上に低くなっていたことだ。

リテラシー(literacy)とは、もともと識字率の識字のことを意味していたコトバだが、現在では意味が拡張されて、理解してつかいこなす能力のことを意味するようになっている。

「理科のリテラシー」とは、理科の基本知識を理解したうえで身につけてつかいこなす能力のことを意味していえうろ御理解いただきたい。

わたし自身、いままでいろんな機会で、日本人とくらべるとアメリカ人の理科や数学のリテラシーが低いと発言してきたが、どうやら撤回しなければならないようだ。

なんといっても驚いたのは、核分裂について学校で教えなくなっていたという話だ。この話を聞いて愕然とした。大学入試の受験科目にないからという理由で理科を選択しない学生が増えているという話は以前から聞いていたが、そのあまりの功利的な姿勢が、知らないうちに、みずからの命を危険にさらしていることにどれだけ気がついているのだろうか? 「3-11」後には、核分裂にかんする教育が復活すると報道はされている。

「ゆとり教育」の悪影響が、日本人の生命を危険にさらしている。

いや、ゆとり教育で目指されていた総合的学習こそ、理科のリテラシーを高めるはずのものだったのではないか?

しかしそうはいっても、化学のメンデレーエフの周期表はちゃんと勉強しないと、物理法則の基本を勉強しないと、生物の基礎知識がないと、ゆとりでもなんでもない。

受験で選択していないからわからない? 理科はキライだから思い出したくもない? 

いやいや、それでは困ります。

では、まずは、「地学」からはじめよう! たしかに物理や化学は、いまから勉強し直すのは敷居が高いかもしれない。だからまずは地学から。

地学とは地球科学の略地球とは自分たちが生きている星のことだ。「地球にやさしい」というキャッチフレーズはクチにしても、地球がそのそもどんなものか知っていなければ意味はない。

そしてなによりも、地震国日本に住んでいる以上、自分が立っている大地がどのような構造をもっているのか一通りの知識をもっていることは、命にもかかわる重要な知識である。

それには、高校地学の教科書を復習するのがいちばんだ。

いろいろ教科書や参考書をさがしてみたが、その結果、『新しい高校地学の教科書(現代人のための高校理科) 』(杵島正洋/松本直記/左巻健男、講談社ブルーバックス、2006)がもっともいいという結論に達した。

編著者は、いずれも高校で教鞭をとっている現役の教師ばかり(執筆時)だから、高校生の理解の程度も熟知している。だから、安心して本書を読んでいけば、ひととおりの地学の知識を得ることができる仕組みになっている。

「さくいん」も用意されているが、辞典としてつかうよりも、最初から理解しながら読むのが王道というべきだろう。もちろん、もっとも知りたいと思う章から読み始めるのもいいことだ。

目次を掲載しておこう。これで地学がカバーする範囲を具体的に把握することができるはずだ。

はじめに
第1章 地球の形と構造
第2章 地球をつくる岩石と鉱物
第3章 地震・火山・プレートテクトニクス
第4章 変わりゆく地表の姿
第5章 地球と生命の進化
第6章 大気と水が織りなす気象
第7章 海洋がもたらす豊かな環境
第8章 太陽系を構成する天体
第9章 恒星と銀河、宇宙の広がり
やってみよう
コラム

地学がカバーする範囲はきわめて広い。物理や化学が基礎化学の性格がつよい学科であるとすれば、地学は総合科学の色彩のきわめて濃い学科である。範囲は地球を越えて宇宙にまで及ぶ。

上記に掲載した目次でみれば、第1章から第4章までは狭い意味の地球科学に該当する。これ4には第7章も加えていいだろう。第5章は、化石などを研究対象とする古生物学ともオーバーラップする領域だ。第6章は気象学、第8章と第9章は宇宙物理学、それ以外の各章とも化学とオーバーラップしている。さらにいえば、地層には歴史も含まれるし、国語・数学・英語という基礎科目を補強するものでもある。

わたしの母校では、地学は高校一年で履修する「地学Ⅰ」しか開講されていなかった。30年以上前ですら、地学を専門に教えることのできる教師の絶対量が不足していたのだ。高校時代は『地球の歴史 第2版』(井尻正二/湊 正雄、岩波新書、1974)を愛読していたわたしは、高校三年時には、ほんとうは「地学Ⅱ」を選択したかったのだが選択不能だった。そのかわり「物理Ⅱ」を選択することにした。

そういったむかし勉強したから地学はもういいという人も、この本を読むべき価値があるのは、「第3章 地震・火山・プレートテクトニクス」があるからだ。「プレートテクトニクス理論」が定着したのはそう古い話ではないが、この理論について知っていることは、地震国日本に住む人にとっては常識とならねばならないのだ

「現代人のための高校理科」のシリーズからは、地学のほか、物理、化学、生物が出版され、それぞれ着実に版を重ねている。

ブルーバックスなど手にとって読んだことがないという人も、ぜひ自分がもっとも好きだった科目から手にとってみるといいと思う。試験勉強ではないのだから、気楽に楽しみながら読み進めたい本である。ぜひ、理科全般にわたって最学習をすすめてほしい。

「理科のリテラシー」は、あなたとあなたの大事な人たちを救う知識である。まずは足もとにある大地の学習から!





著者プロフィール


杵島正洋(きしま・まさひろ)東京大学理学部地学科、同大大学院修士課程で韓国の地質を研究し、現在は慶應義塾高等学校教諭・慶應義塾女子高等学校講師。専門は地質学・理科教育(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
松本直記(まつもと・なおき)現在、慶應義塾高等学校教諭・慶應義塾湘南藤沢中等部講師・NHK高校講座地学(気象分野)講師。気象予報士。主に地学を題材として新たな科学教育の展開を模索している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
左巻健男(さまき・たけお)東京大学教育学部附属中・高等学校教諭、京都工芸繊維大学教授等を経て同志社女子大学現代社会学部現代こども学科教授。専門は理科教育、環境教育。新理科教育ML代表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

地形判読のためのページ(国土地理院)

(2016年6月21日 項目新設)

<ブログ内関連記事>

理科全般

Study nature, not books !・・19世紀米国の海洋学者、地質学者、古生物学者であったルイ・アガシーの名言

「天災は忘れた頃にやってくる」で有名な寺田寅彦が書いた随筆 「天災と国防」(1934年)を読んでみる

「地震とナマズ」-ナマズあれこれ

「リスボン大地震」(1755年11月1日)後のポルトガルのゆるやかな 「衰退」 から何を教訓として学ぶべきか?

スリーマイル島「原発事故」から 32年のきょう(2011年3月28日)、『原子炉時限爆弾-大地震におびえる日本列島-』(広瀬隆、ダイヤモンド社、2010) を読む

ファラデー『ロウソクの科学』の 「クリスマス講演」から150年、子どもが科学精神をもつことの重要性について考えてみる


地学関連

『崩れ』(幸田文、講談社文庫、1994 単行本初版 1991)-われわれは崩れやすい火山列島に住んでいる住民なのだ!

地層は土地の歴史を「見える化」する-現在はつねに直近の過去の上にある


2012年度新学期特集

① 総論
福澤諭吉の『学問のすゝめ』は、いまから140年前に出版された「自己啓発書」の大ベストセラーだ!

②古文(国語)
書評 『平安朝の生活と文学』(池田亀鑑、ちくま学芸文庫、2012)-「王朝文化」を知るために

③数学とコンピューター
書評 『コンピュータが仕事を奪う』(新井紀子、日本経済新聞出版社、2010)-現代社会になぜ数学が不可欠かを説明してくれる本

④地学と理科

本編

⑤社会科学

(予定)

(2014年10月7日 情報追加)





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