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2011年12月29日木曜日

書評『ロシア革命で活躍したユダヤ人たち ー 帝政転覆の主役を演じた背景を探る』(中澤孝之、角川学芸出版、2011)ー ユダヤ人と社会変革は古くて新しいテーマである



ロシア革命とユダヤ系ロシア人の深い関係

「ロシア革命」に、社会変革を求める多くのユダヤ人たちが身を投じたことは、トロツキー(・・本名はブロンシュテイン)などの有名人を除けば一般にはあまり知られてこなかった事実かもしれない。

今年(2011年)、『ロシア革命で活躍したユダヤ人たち-帝政転覆の主役を演じた背景を探る-』(中澤孝之、角川学芸出版、2011)という本が出版された。

一般人の目に触れることはあまりない本だと思われるので、この機会に紹介しておきたい。関心がれば図書館で閲覧してみてほしい。

本書は、参考文献と目次までふくまれば600ページを超す大著であるが、人名索引は完備されているので、「ロシア革命におけるユダヤ人革命家辞典」として使うこともできるだろう。

ただし、固有名詞のロシア語表記がないのが玉に瑕ではあるが。また、表紙の肖像写真は、革命によって殺害されたニコライ二世なので内容にはあまりふさわしくないのだが。

本書で取り上げられたユダヤ人革命家は 500名で、著者はこれでほぼ9割はカバーされたのではないかと述べている。

これを意外と多いと思うか、あるいは少ないと思うかは読者の判断にゆだねられる。ユダヤ人とは何かという定義は、イスラエルでは「ユダヤ人の母から生まれた人」となっているが、本書ではなんらかの形でユダヤ人の血が流れている人が収録されている。かのレーニンでさえ、ユダヤ人のクオーターなのである。

近代に入って「解放」が進んで市民社会に参入し「同化」する道を選択した西欧社会のユダヤ人とは大きく異なる状況のもとに、ロシアのユダヤ人は生きていた。そしてアシュケナージ系ユダヤ人の大半の居住地域はロシア帝国内にあった。

当時のロシアに住むユダヤ人たちは、「社会主義」に社会変革の夢を託すという道か、あるいは父祖の地であるパレスチナに入植するという「シオニズム」の運動に身を託すという方向性があった。この両者のあいだにはグラデーションを描いてさまざまな運動があり、社会主義シオニズムという方向性もあった。

そもそもユダヤ人には、「メシア思想」と「終末論」がある。キリスト教に改宗したユダヤ人であったカール・マルクスの思想自体、「メシア思想」と「終末論」を色濃くもっていることは、「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む にも書いておいた通りである。

近代教育を受けた知識階層に社会主義思想がアピールしたのは、社会主義の根底に「千年王国的」な「ユートピア思想」があったこともその理由の一つであろう。知識階層の多くがユダヤ律法学者であるラビの家系に生まれている。ただし、近代教育を受けた社会主義者たちのようにユダヤ教の伝統を拒否した者たちと、むしろユダヤ教の伝統に還ることを志向した者にわかれたのも当然だろう。おそらく知識人以外の大多数を占める一般人はその中間であったろうが。

社会主義を選択したユダヤ人知識層は、社会主義革命によって民族問題は解決すると考えて、社会主義革命に理想を託したわけだった。その夢は「ロシア革命」後に、ユダヤ人差別が消滅しなかったため、無残にも打ち砕かれることになるのだが、あまり先走りすぎてもいけないだろう。

本書では、ロシア革命にいたる前史もふくめて、ユダヤ人革命家たちが分類されている。

ナロードニキ(人民主義者)
シオニズム
エスエル(=社会革命党)
ブンド(=リトアニア・ポーランド・ロシア・ユダヤ人労働者総同盟)
メンシェヴィキ(=ロシア社会民主労働党が分裂して形成された社会主義右派)
ボルシェヴィキ(=ロシア社会民主労働党が分裂して形成された、レーニン率いる左派の一派)
そして、秘密警察の属したユダヤ人革命家

まずは目次を見ておこう。

目 次

第1章 革命に走ったユダヤ人の原点
(1) 帝政末期とソヴィエト時代初期のユダヤ人の環境
(2) ユダヤ教の教え
(3) ユダヤ人の教育
(4) トロツキーの出自
(5) 非ユダヤ的ユダヤ人
第2章 19世紀最初のツァーリ二代とユダヤ人
(1) ユダヤ人弾圧の長い歴史
(2) エカチェリーナ二世の時代
(3) アレクサンドル一世の時代
(4) ニコライ一世の時代
第3章 「解放皇帝」のユダヤ政策
(1) 「解放皇帝」のユダヤ人に対する緩和政策とその停止
(2) 「解放皇帝」の暗殺にかかわた唯一のユダヤ人
(3) ウラジーミル・レーニンに流れるユダヤ人の血
(4) アレクサンドル二世時代のユダヤ人革命家リスト
(5) ドストエフスキーのユダヤ人観
第4章 ユダヤ人ナロードニキ
(1) ナロードニキ運動の誕生
(2) ナロードニキ運動にかかわったユダヤ人革命家リスト
第5章 反改革皇帝アレクサンドル二世
(1) アレクサンドル三世による虐殺と「慈悲を与えない政策」
(2)  追放されるユダヤ人
(3) 反ユダヤ政策への国際的批判
(4) アレクサンドル三世時代のユダヤ人革命家リスト
(5) トルストイ、チェーホフらのユダヤ人観
第6章 最後の皇帝ニコライ二世とユダヤ人
(1) ニコライ二世によるさらなる弾圧
(2) 反ユダヤ主義者とその暗殺者
(3) 次々と起こるポグロム(ユダヤ人集団虐殺)
(4) ラスプーチンとユダヤ人秘書シマノヴィチ
(5) ニコライ二世一家処刑にかかわったユダヤ人革命家
第7章 シオニズム運動の先駆者たち
(1) ロシアから始まったシオニズム運動
(2) 帝政末期、ロシアでのシオニズム運動にかかわた人々
第8章 社会主義諸政党のユダヤ人活動家
(1) 十月革命に奔走したユダヤ人革命家
(2) エスエル党所属のユダヤ人革命家リスト
(3) エスエル党以外のユダヤ人革命家リスト
(4) 「ユダヤ民主主義グループ」の活動家
第9章 ブンドで活躍した革命家たち
(1) ユダヤ人労働運動とブンド
(2) ブンドにおける革命家リスト
第10章 ユダヤ人メンシェヴィキ
(1) ロシア社会民主労働党とユダヤ人メンシェヴィキ
(2)  メンシェヴィキに属したユダヤ人革命家リスト
第11章 ボリシェヴィキの主要ユダヤ人
(1) 十月革命は「ユダヤ人の革命」
(2)  ボリシェヴィキに属したユダヤ人革命家リスト
第12章 秘密警察のユダヤ人リスト
(1) 秘密警察におけるユダヤ人革命家
(2)  秘密警察 に属したユダヤ人革命家リスト

付記 メドヴェジェフ・ロシア大統領の出自
「ロシア・ユダヤ人革命家」 年表
主な参考文献一覧
人名索引

目次を通読してみれば、ロシア帝国におけるロシア革命の歴史の概要が把握できるだろう。






ロシアではなぜユダヤ人たちの多くが革命に身を投じたのか?

では、なぜユダヤ人たち帝政ロシアにおいて社会変革をつよく望んでいたのか。

それにはポグロムについて説明する必要があろう。ポグロムとは一般民衆やコサックなどによるユダヤ人虐殺のことである。

キリスト教世界では、ユダヤ人はイエス・キリストを磔(はりつけ)にかけたとして中世以来、憎悪の対象となってきたが、とくにロシアでは政府によって、計画的、組織的に徹底して行われたことを指摘しなくてはならない。

ある意味では、ナチスドイツによるホロコーストの先駆ともいえるもので、ポグロムを避けるために多くのユダヤ人が米国やパレスチナに移民したのである。『屋根の上のバイオリン弾き』でも、移民たちのことが描かれている。

ポグロムについてはとロシア社会とユダヤ人-1881年ポグロムを中心に-』(黒川知文、ヨルダン社、1996)が日本語で読めるもっとも詳細な研究書である。

もともとアシュケナージとよばれる東欧系ユダヤ人の多くはポーランドに居住していたのだが、三回にわたる「ポーランド分割」の最後となった1795年の「第三次ポーランド分割」によって、ポーランド・リトアニア共和国が完全に消滅し、東半分がロシア帝国に併合された結果、イディッシュ語をしゃべるユダヤ人たち約100万人がロシア帝国の臣民となったのである。

ポーランド時代は国王によって保護されていたユダヤ人たちは、東方正教会の盟主であるロシア皇帝の治世のもとでは、過酷な運命を迎えることとなった。それがポグロムというユダヤ人集団虐殺に代表される弾圧や差別である。

こういう状況のなか、「座して死を待つ」わけにはいかないと思ったユダヤ人たちの選択肢には大きく分けて二つあったのである。

それは、米国やパレスチナに移民として移住するか、あるいは革命家として積極的に内側から社会変革を行うかの道であった。

革命家としてロシア国内で内側から体制変革する道を選択したのは、いずれも知識階層である。

だが、大多数のユダヤ人は、資本家でも革命家でもなく、また移民したくてもそのカネがなければロシアにとどまらなくてはならなかったので、ロシア国内にとどまることとなった。


ロシア革命と日露戦争

そういう状態であったロシアと日本が戦争になる可能性が高いと知ったユダヤ人投資銀行家が、自らのビジネスをつうじてロシアに圧力をかける道を選択している。

米国のドイツ系ユダヤ人の投資銀行家ジェイコブ・シフが日本の戦時公債を引き受けたのは、ロシアにおけるユダヤ人同胞の生存状況を改善させるため、ニコライ二世に圧力をかけるのが目的の一つであったことは、すでに高橋是清の盟友となったユダヤ系米国人の投資銀行家ジェイコブ・シフはなぜ日露戦争で日本を助けたのか?-「坂の上の雲」についての所感 (3) にも書いたとおりである。

また、明石元二郎陸軍大佐による後方攪乱工作もあった。

ロシアの帝政を倒そうとしていた革命家たちに資金援助をつうじた工作は、日本海海戦におけるロシアの敗北直後に発生した「血の日曜日事件」に実を結んでいる。一説によれば、スイスのチューリヒから封印列車によってレーニンを送り込んだのは明石大佐だと言われるが、真偽は定かではない。

このようなこともあって、ロシアのユダヤ人たちの存在は、近代日本にとってもけっして無縁ではなかったのである。

また、帝政ロシア時代に秘密出版されて出回った偽書『シオンの長老の議定書』(通称 プロトコル)というものがある。

これは現在でもユダヤ陰謀説の原典となっているが、ロシアから出てきたことに注意しておきたい。

ロシア革命によるソ連成立後に行われた干渉戦争である「シベリア出兵」の際、出征した日本陸軍が日本国内に持ち帰って日本国内でも広まることになった。

これがいまだに消え去っていないのはまことにもって残念なことだ。


社会変革の二つの方法-革命家としてか、資本家としてビジネスをつうじてか?

「ロシア革命」によって、はたしてユダヤ人は「解放」されたのか? 社会主義革命は民族問題を解決したのか?

このテーマはまた運命の皮肉を語ってやまないものだ。革命に参加したユダヤ人の比率が高かったことがかえって、あだになったとさえ言えるかもしれない。

ユダヤ人革命家たちの多くが、スターリンのの粛清で命を失っていいるだけでなく、ソ連時代をつうじてユダヤ人がけっして幸せな生活を送っていたわけではないことは、出国を希望する者が多かったことにも表れている。

ソ連崩壊後は、民族国家が分離独立しただけでなく、多くのユダヤ系市民が、米国とイスラエルに移住して現在に至っている。

グーグルの共同経営者であるセルゲイ・ブリンもまた、少年時代にソ連から米国に移民したユダヤ人の一人。

一方、ソ連崩壊後にソ連出身のユダヤ人が大活躍したことは、エリツィン政権下ではユダヤ系の政治家が多かったことと、いわゆるオルガルヒヤの存在に端的に表れている。

オルガルヒヤとは英語のオリガーキー(oligarchy)、いわゆる寡占資本家のことである。ひらたくいえば、ソ連崩壊から民有化への移行期に財産を形成した大富豪たちのことだ。

だが、かれらの多くは行き過ぎたため反感を買い、弾圧の対象となって、その多くが国外逃亡したり、投獄されている。かえってソ連崩壊後に反ユダヤ主義が拡大しているありさまだ。

大富豪となると私財を使って政治に進出する誘惑にかられる。そして一線を越えたことに気がつかず、真の権力者の虎の尾を踏んでしまうことになったわけだ。

この点においては、日本の戦時国債を引き受けたドイツ系ユダヤ人の米国人投資銀行家ジェイコブ・シフは政治家をめざしはしなかったものの、自らのビジネスをつうじて社会変革を行おうとした人であったことがわかる。

みずからが政治に乗り出さなくても変革を行う手段はいくらでもある。先に名前をだしたセルゲイ・ブリンは革命家ではないが、「検索」によって世界を変革する夢を実行している点において「革命家」といっても言い過ぎではないかもしれない。

このように、左派であれ右派であれ、変革を志向する傾向がユダヤ人には強い。左派は社会主義者として、右派は資本家や実業家として。もっとも、左派と右派はそう簡単には区分はできないものであるが。

したがって、「革命とユダヤ人」というテーマは、古くて新しいのである。だからこそ、ロシア革命に多くのユダヤ人革命家たちが身を投じたことは、歴史的事実として知っておきたいことなのだ。


<参考文献>

ロシア社会とユダヤ人-1881年ポグロムを中心に-』(黒川知文、ヨルダン社、1996)




『葛藤の一世紀-ロシア・ユダヤ人の運命-』(サイマル出版会、1997)は、『ロシア・ソヴィエトのユダヤ人100年の歴史』(ツヴィ・ギテルマン、池田智訳、明石書房、2002)として再刊ソ連成立後のユダヤ人の歴史についても詳しい。果たして「ロシア革命」によってユダヤ人は「解放」されたのか?




PS ロシアとユダヤ人の関係について、手っ取り早く知りたい人は、『ロシアとユダヤ人-苦悩の歴史と現在(ユーラシア・ブックレット)』(高尾千津子、東洋書房、2014)をすすめます。63ページの小冊子なのでザッとつかむにはよいでしょう。(2014年5月31日 記す)



<ブログ内関連記事>

高橋是清の盟友となったユダヤ系米国人の投資銀行家ジェイコブ・シフはなぜ日露戦争で日本を助けたのか?-「坂の上の雲」についての所感 (3) 
・・ロシアのユダヤ人を救うことも目的の一つであった

「メキシコ20世紀絵画展」(世田谷美術館)にいってみた
・・ウクライナの富農の家に生まれたトロツキー(・・本名レフ・ブロンシュテイン)もまたロシア革命に身を投じたユダヤ人。晩年はメキシコに亡命し、その地でスターリン主義者に暗殺された

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む
・・社会主義のメシア主義的な構造について

『ユダヤ教の本質』(レオ・ベック、南満州鉄道株式会社調査部特別調査班、大連、1943)-25年前に卒論を書いた際に発見した本から・・・
・・強制収容所のテレージエンシュタットを生きのびたユダヤ思想家の著者でユダヤ教の本質を知る

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)

書評 『ソ連史』(松戸清裕、ちくま新書、2011)-ソ連崩壊から20年! なぜ実験国家ソ連は失敗したのか?

書評 『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)-単なる一企業の存在を超えて社会変革に向けて突き進むグーグルとはいったい何か?

(2014年2月15日 情報追加)


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